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日経ビジネスオンライン

2018/10/12

連載履歴

日経ビジネスオンライン連載「技術経営 – 日本の強み・韓国の強み」 アクセスランキング
1.「就活時点で日本は負けている」(2013 4.19)———————————-12位
2.「新人研修は育てる場か競わせる場か」(2013 5.2)——————————12位
3.「新入社員がいきなり課長級のサムスン」(2013 5.16)—————————-3位
4.「『技術に上下関係なし』を信じて痛い目に」(2013 5.30)————————5位
5.「部下に絶対服従を強いるサムスン」(2013 6.13)——————————–7位
6.「ホンダの自前主義は人を育てる」(2013 7.4)———————————-10位
7.「人事異動を本人に任せるホンダ、昇進が最大目標のサムスン」(2013 7.18)——-11位
8.「企業戦略に振り回される技術者」(2013 8.8)———————————–5位
9.「サムスン移籍の理想と現実」(2013 8.22)————————————-1位
10.「部長級でも責任を取らされるサムスン」(2013 9.5)—————————–1位
11.「韓国人社員との付き合い方」(2013 9.19)————————————-7位
12.「シェア1位を奪われた原因はコストではなく慢心」(2013 10.3)——————–3位
13.「車載用電池、日本勢の強さの秘密」(2013 10.17)——————————-3位
14.「倍返しなるか、日本の電池産業」(2013 10.31)———————————4位
15.「グローバル化で遅れる日本、6つの課題」(2013 11.14)—————————1位
16.「M&Aの光と影、サムスンの事例から学ぶ」(2013 11.28)—————————6位
17.「特許マネジメントが下手な日本」(2013 12.12)———————————8位
18.「居場所を失った技術者の生き方」(2013 12.26)———————————8位
19.「サムスンのプロジェクト失敗に学ぶこと」(2014 1.16)————————6位
20.「日本とは違う、サムスン流『人付き合い』」(2014 1.30)———————-11位
21.「部下の育成より自分の昇進優先なサムスン」(2014 2.13)———————-13位
22.「白熱する電動車両開発、日本は勝てるか」(2014 3.13)———————-5位
23.「東芝事件に考える、技術流出は防げるのか」(2014 3.18)——————–6位
24.「深刻な中国大気汚染、電動車両は救世主になるのか」(2014 4.10)————-11位
25.「日本の技術力は本当に高いのか」(2014 5.22)—————————-9位
26.「学会で発表するホンダ、メモを取るサムスン」(2014 6.26)—————4位
27.「サムスンの人事と成果のあいまいな連動性」(2014 7.3)——————8位
28.「企業と流動する人材との関係」(2014 7.24) ———————— -
29.「サムスン電池事業の真剣度」(2014 8.7) ————————–12位
30.「環境自動車で日本がリードし続けるための条件」(2014 8.28) ———–7位
31.「サムスンの失速に見る日本の戦略」(2014 9.11) ———————-2位
32.「大手術のサムスン、対症療法のソニー」(2014 9.25) ——————8位
33.「中村修二氏との談話を通じて考えた日本の競争力」(2014 10.9) ———2位
34.「ノーベル賞を輩出する日本、輩出できない韓国」(2014 10.23) ———1位
35.「異業種交流イベントで感じた日本の強み」(2014 11.6) —————19位
36.「技術流出はどうやって防ぐのかを改めて考える」(2014 11.20) ——–15位
37.「エアバッグリコール問題に見る技術経営の重要性」(2014 12.11) ——–16位
38.「ナッツリターンに見る韓国財閥の影」(2014 12.25)       ——–10位
39.「エコカー世界戦争と生き残り戦略」(2015 1.8)       ——–8位
40.「トップ外交を好む韓国、実務側から進める日本」(2015 1.22)  ——– -
41.「日韓電池産業への追い風となる中国政策」(2015 2.12)  ————-13位
42.「泥沼化する韓国財閥紛争がもたらす背景」(2015 2.26)  ————-5位
43.「社長・役員の辞任におけるホンダとサムスン」(2015 3.12)  ———9位
44.「ノーベル賞の期待を背負うリチウムイオン電池」(2015 3.26)  ——-11位
45.「電動化と自動運転で変わる自動車の勢力図」(2015 4.9)  ———-9位
46.「韓国の対人関係と日本の立ち位置」(2015 4.23) —————–8位
47.「車載用電池を土俵とした日韓の熾烈な争い」(2015 5.21) ———-8位
48.「第3勢力参入で定置用電池業界の競争が激化」(2015 5.28) ———8位
49.「中小企業が技を持つ日本、企業格差が止まらない韓国」(2015 6.11) -12位
50.「中小企業に意地がある日本、大企業が支配する韓国」(2015 6.25) —13位
51.「出る杭は打たれる日本、出ないと潰される韓国」(2015 7.9) ———3位
52.「電池の国際会議に見る日本と韓国の立ち位置」(2015 7.23) ———-6位
53.「東芝事件に見る経営側の圧力、ホンダとサムスンの事例」(2015 8.6) –6位
54.「壇蜜との会話で考えた仕事術と企業戦略」(2015 8.27) ————-11位
55.「日韓電池業界に立ちはだかる中国の価格攻勢」(2015 9.10)———–13位
56.「韓国に先んじた日独連携の車載用電池認証サービス」(2015 9.24)—–12位
57.「VWが不正に至った3つの問題」(2015 10.8)————————-5位
58.「VWが受ける逆風、日本が受ける追い風」(2015 10.22)—————-4位
59.「VW、東芝の不正は企業の焦りがもたらした」(2015 11.12)————11位
60.「タカタのリコールに思う発見時の対応の重大さ」(2015 11.26)———15位
61.「2強の韓国電機業界に対抗できるか日本勢」(2015 12.10)————-11位
62.「2016年、自動車の産業競争力を展望する」(2015 12.24)————–18位
63.「動き出した中国での自動車、電池各社の投資攻防」(2016 1.7)———-9位
64.「日韓電池競合の激化に割って入る中国勢」(2016 1.21)—————20位
65.「VWスキャンダル後の欧州電動化戦略の行方」(2016 2.12)————-16位
66.「サムスン、LGの2強と対峙する日本の立ち位置」(2016 2.25)———–9位
67.「シャープ身売りで混迷するパネル業界」(2016 3.10)—————–11位
68.「シャープ問題で考える日本の産業競争力の保ち方」(2016 3.24)———8位
69.「戦略は不変ではなく随時見直してこそ生きる」(2016 4.14)————11位
70.「戦略の欠如で陥落した日本の民生用リチウム電池」(2016 4.28)———9位
71.「虚偽の科学や技術はコンプライアンス欠如が原因」(2016 5.12)———8位
72.「燃費不正事件を未然に防止する今後の抑止力」(2016 5.26)————16位
73.「サムスン移籍で実感した人材流動の重要な意味」(2016 6.9)————3位
74.「外資系で働けない人の5つの特徴」(2016 6.23)———————–5位
75.「協業の成功と失敗を分ける要素は何か?」(2016 7.14)—————-12位
76.「サムスンのBYD出資は中国市場成功への布石?」(2016 7.28)———-18位
77.「ソニー、日産の電池事業撤退の裏にあるもの」(2016 8.10)———-6位
78.「電動化、自動運転、安全機能で変わる業界勢力図」(2016 8.10)——–10位
79.「遅すぎたディスプレー産業のオールジャパン」(2016 9.8)——–17位
80.「なぜサムスンの最新スマホは爆発したのか?」(2016 9.21)——2日連続1位                                       81.「最新スマホが販売中止のサムスンに必要なこと」(2016 10.13)——–10位
82.「爆発などで大荒れの電池業界、勝敗の行方は?」(2016 10.27)———7位
83.「トヨタがEVを投入せざるを得ない事情」(2016 11.10)————–12位位
84.「選ばれるEVはどれか? テスラは生き残れるか?」」(2016 11.24)—–6位                                        85.「エコカー戦略における燃料電池車の位置づけは?」(2016 12.8)—– 12位
86.「政界、産業界が共に混乱する韓国」(2016 12.22)——————-6位
87.「2017年、エコカー開発は正念場を迎える」(2017 1.12)————-17位                                          88.「中国のエコカー政策に翻弄される日韓企業の悩み」(2017 1.26)——5位
89.「サムスンのスマホ事故を契機に揺れる電池業界」(2017 2.9)——7位
90.「国際会議で感じた欧州自動車勢の電動化への気迫」(2017 2.23)——15位
91.「サムスンに吹く大逆風はグループ再編の好機?」(2017 3.9)——16位                                                   92.「東芝、シャープなどから見る技術経営の重要性」(2017 3.23)——-6位                                        93.「中国エコカー市場で窮地に立たされる韓国企業」(2017 4.13)——3位
94.「中国政策に振り回される各社のエコカー戦略」(2017 5.11)——11位
95.「リチウムイオン電池も有機ELの二の舞か?」(2017 5.25)——–3位
96.「自動運転による自動車業界のパラダイムシフト」(2017 6.8)—– -
97.「韓国大手企業に見る日本市場の魅力と障壁」(2017 6.22)——–7位
98.「見通しが立たない東芝と絶好調サムスンの違い」(2017 7.13)—–7位
99.「電動化で先導してきた日本が自動運転で遅れ?」(2017 7.27)—–8位
100.「提携進む自動車業界、明暗見えてきた電池業界」(2017 8.10)—–6位
101.「ハイエンド偏重の日本、ローエンドも重視の韓国」(2017 8.24)—9位
102.「急加速のEVシフトに潜む5つの課題」(2017 9.14)————–1位
103.「ノーベル賞の期待がかかるリチウムイオン電池」(2017 9.28)—-3位
104.「相次ぐ法令遵守違反、未然に防ぐ3つの要件」(2017 10.12)—- 14位
105.「先行企業に神戸製鋼不正問題の防止策を学ぶ」(2017 10.26)—- 7位
106.「環境改善か下剋上か、EVシフトの先の業界勢力」(2017 11.9)—-6位
107.「政治外交まで絡めた電池業界の混乱と思惑」(2017 11.24)——12位
108.「トヨタとパナの提携で加速する次世代電池開発」(2017 12.14)—4位
109.「EVシフト下の自動車と電池業界、新規組の思惑」(2017 12.28)–10位
110.「中韓首脳会談でもかなわぬ韓国電池業界の思い」(2018 1.11)— 3位
111.「日韓で仕事観の違いはどこから生まれるのか」(2018 1.25)— 7位
112.「窮地のテスラに立ちはだかる自動車トップ」(2018 2.8)—— 4位
113.「自動車の電動化における元素戦略と資源争奪戦」(2018 2.22)—- 7位
114.「合弁が難しい電池事業、韓国勢はフリーを選ぶ」(2018 3.8)—- 12位
115.「新社会人がキャリアを形成するために必要なこと」(2018 3.22)— -
116.「テスラが抱える三重苦、経営危機に陥る?」(2018 4.12)——–6位
117.「テスラのEV事業、三重苦どころか五重苦に?」(2018 4.26)——3位
118.「テスラのEV苦戦で考える新規参入のリスク」(2018 5.10)——–4位
119.「R&D投資で韓国勢に見劣りする日本勢」(2018 5.24)———–11位
120.「車載電池のグローバル市場揺さぶるCATL旋風」(2018 6.14)——3位
121.「日産が開発凍結を宣言した燃料電池車の行方」(2018 6.28)——7位
122.「燃料電池車を生んだホンダ基礎研究所の実力」(2018 7.12)——4位
123.「中国の新エネルギー車規制にどう対応すべきか?」(2018 7.26)—8位
124.「電動車の米ダブルスタンダード法規の行方と波紋」(2018 8.9)—10位
125.「繰り返される不正、企業統治はどこまで可能か?」(2018 8.23)– -
126.「爆走中国EV、電池業界に起きている異変」(2018 9.13)———-1位
127.「中国製リチウム電池が信頼できない理由」(2018 9.27)———-2位
128.「トップブランド参入で超激戦を迎えるEV市場」(2018 10.11)—–10位

2018/10/12

トップブランド参入で超激戦を迎えるEV市場

技術経営――日本の強み・韓国の強み

テスラ包囲が着々と進む

2018年10月11日(木)

佐藤 登

 9月27日のコラム「中国製リチウム電池が信頼できない理由」には大きな関心を寄せて頂いた。今回は、今後展開される電動化シフトの中でも、特に超激戦区となる電気自動車(EV)に関して、起こり得る状況について考察したい。

自動車業界に迫る環境規制
 上記の表は2018年、およびそれ以降に発効する各種の環境規制を示す。この中で、米国ゼロエミッション自動車(ZEV)規制、そして19年に発効する中国新エネルギー車(NEV)規制で、ハイブリッド車(HV)はクレジットの対象外とされている。これは取りも直さず、HVではトヨタ自動車とホンダが2トップとして市場を席巻していることから、HVをクレジット対象としても恩恵を受けられない自動車各社が大半であることが、規制枠設定で影響したと考えるべきだ。
 そのような意味から、ZEV規制もNEV規制も合理性はやや欠けると感じられ、特にNEV規制では内燃機関を含まないEVに著しく偏重していることに疑問を感じる。中国の発電システムを低効率な石炭発電に委ねている現状では、CO2およびPM2.5の削減は、全くと言って良いほど期待できないのであるから。
 一方、欧州が進めるCO2規制は2021年から適用されるが、これは地球温暖化を抑止する政策としての合意事項である。そしてその規制を満たす自動車の手段は問わず、自動車各社の都合で設定できるものであり、合理性が高いといえよう。

日本勢がPHVで存在感
 そのような中、各種規制のクレジット枠に入るプラグインハイブリッド車(PHV)とEVの商品開発および技術開発に、自動車業界は大きな舵を切っている。
 PHVでは日本勢が新車攻勢で存在感を発揮している。2017年2月に発売したトヨタのプリウスPHVは12年のPHVと比較して、リチウムイオン電池(LIB)の搭載容量を2倍の8.8kWhまで増やし、EVモード走行で68.2kmを実現した。12年のPHVはEV走行では26.4kmのみだったことで消費者からの不満が噴出したこと、そしてEV走行距離に応じて得られるクレジットが拡大することで、新型でのEV走行を大きく伸ばした設計とした。
 ホンダが2013年に市場へ供給したアコードPHVでは、6.7kWhのLIB搭載でEV走行は37.6kmであった。それに対して18年7月に新発売したクラリティPHVでは17kWhのLIBを搭載し、何とEV走行を114.6kmにまで拡大した。限りなくEVに近いPHVであるが、プリウスPHVとの差別化を図る意味を込めた設計と映る。
 そして三菱自動車も2018年8月に新型アウトランダーPHVを発売した。LIBは13年の前モデルに比較して、容量を15%向上させ13.8kWhに設計変更した。アウトランダーPHVは、これまでグローバル累計販売が14万台を超えている人気の旗艦モデルとなっている。PHVでは日本勢各社の新商品を軸に、今後、グローバル競争が本格的になる。

超激戦のEV市場にどう対峙するか
 PHVに対してEV市場ではさらに異なる状況が待ち構える。EVでは2009年に発売を開始した三菱自動車の「i-MiEV」、10年に発売した日産自動車の「リーフ」が先行した。そして米テスラの「モデルS」が市場に出現すると大きな話題を呼び、バックオーダーも相当数抱える状況が生じた。そのモデルSは13年に5台の火災事故を立て続けに発生させたが、それでも人気への陰りはなかった。参入企業が少なかったその時点での存在感は殊更大きく、それ以外で起きた火災事故でも、その勢いの方が勝っていた。
 しかし、今後はどうであろう。状況はがらりと一変する。先の表に示したZEV規制、NEV規制を中心に、大手自動車各社にはEVを自社の生産ラインナップから外すシナリオは存在しない。そして、その動きは既に始まっている。トヨタ自動車は2020年の市場への供給を目標に、グループを巻き込んだ体制で進めている。ホンダは中国市場でのNEV対応の一環として、中国側での開発を進めて18年にEVを供給する。

 一方、ドイツでもモデルS販売は好調だった。9月6日の日本経済新聞によると、2017年の欧州市場でメルセデス・ベンツの「Sクラス」の販売台数が1万3359台。しかし、モデルSは1万6132台を販売し、Sクラスを抜いたとされている。

 その動きを注視していたドイツ勢は、モデルSを迎え撃つ戦略を次々と発している。その先端を走るのは独アウディである。2019年にアウディは840万円を超えるEVを発売すると発表した。独ポルシェも同様に、19年には高級車EV「タイカン」を準備していると言う。さらにダイムラーも19年に向けて、高級車EV「EQC」の開発最終段階にあるとのこと。
 これはすなわち、モデルSがドイツでの販売を伸ばしてきたことが背景にあり、この勢いにブレーキをかけるために独勢が迎え撃つ戦略に出たと言える。すなわち、テスラの高級EVにとっては強力なライバルが眼前に現れて包囲網を作り出していることにほかならない。また日本勢では、2021年に日産自動車が同様な高級EVを発売すると伝えている。早晩、日欧で高級車EVの路線が構築されることになる。
 一方の普及版EVであるモデル3は生産が軌道に乗らない「生産地獄」が暫く続いた。しかし最近は、瞬間的に週5000台に達し、あるいはそれ近くにまで生産が可能な状況に改善されてきた。そうであるものの、普及版EV領域には高級車EV群以上に日米欧の自動車各社が商品開発を行い、市場に供給する計画が着々と進んでいる。
 図にはテスラを迎え撃つEV群勢力を示す。この構図を見れば、高級車EV群では、これまで通りのテスラの販売が続くとは思えず、相当なブレーキがかかると予測される。それにも増して、普及型EV群の競争加速が予想される。と言うのも、世界のトップブランド自動車各社が、遅ればせながらではあるもののEVを市場に供給するからである。逆に迎え撃つテスラの戦略は如何に。歴史とブランド、信頼性の高い既存の自動車各社と新興テスラが真っ向勝負できるのだろうか?
 商品企画、信頼性、耐久性、アフターサービスのいずれにおいても、既存ブランドメーカーには一日の長がある。テスラのEV群が、それを巻き返す要素がどれだけあるかにかかるのだが、その要素は雲がかかって視界が開けない。
 テスラが抱える一連の経営問題、すなわちキャッシュフローの悪化、幹部人材の離脱、訴追問題などの懸念材料をさておいたとしても、純粋にEVという商品自体の議論でもテスラEVには劣勢条件が多々あるようだ。そういう課題を払拭しないまま、上海にEVおよびLIBの生産拠点を構えると言うのは、リスクが大きいように思うのだが果たしてどうか。その結果は遠くない時期に表れることになろう。
 今後、大手自動車各社のEVが市場に投入される中、消費者層が限られるEV市場において、選ばれるEVにはどんな条件が付きまとうのだろうか? 斬新なデザイン、すなわち既存自動車と類似した商品ではないもの、航続距離的にはモード走行で400km以上、LIBの長寿命、商品価格、信頼性やアフターサービスの充実度と言った複数の要素が求められるだろう。そもそもEVを積極的に購入したいという需要は限られるEVであるがゆえに、販売不振のEVが市場でだぶつく光景として現実的な問題となるのではないだろうか。

2018/09/28

第127回

中国製リチウム電池が信頼できない理由

車載用電池に対する自動車各社の異なる見方
2018年9月27日(木)
佐藤 登

北京モーターショー2018に展示された米ゼネラルモーターズのEV「ヴェリテ 6(Velite 6)」(写真=AFP/アフロ)
 9月13日のコラムでは、「爆走中国EV、電池業界に起きている異変」を執筆した。これまで報道されてきた中国でのEVシフトや、そこに連結する電池業界の勢いが以前ほどないこと、それどころか経営危機に陥る企業も出てきていること、そしてその背景にあるものなどについて考察した。
 変化が起きている最大の要因は、中国政府が打ち出してきたエコカーへの補助金を減額していることによるものだ。補助金は2020年には消滅する予定になっている。となれば、事態は一層深刻化すると思われるが、中国政府の面子もかかっているこの状況の中で、新たな政策がどのように出てくるのかが着目される。

中国製電池の信頼性は大丈夫か?
 米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道を、中国メディアの「OFweek」が9月14日付で伝えた。それは、米ゼネラルモーターズ(GM)が2019年に市場投入を予定しているビュイックブランドのEV「ヴェリテ6(Velite 6)」に関するもの。適用している電池メーカーのリチウムイオン電池(LIB)の性能が要求に届かないこと、更には安全基準にも適合しないため、発売を遅らす可能性が高いというニュースである。
 報道によると、ヴェリテ6にLIBを供給するのは中国Wanxiang Group(万向集団)傘下のA123システムズである。浙江省杭州の工場でヴェリテ6に搭載するEV用電池を生産している。ヴェリテ6にはプラグインハイブリッド車(PHV)もあるが、こちらは近く生産に入るとのことだ。
 OFweekによると、GMは当初、韓国LG化学製のLIBを採用する計画であった。しかし中国政府が定めた16年の規定、それは「バッテリー模範基準認証(通称、ホワイトリスト)」を取得していない企業のバッテリーを搭載するクルマは中国国内での補助金を認められないというものだが、日韓勢のLIBは認定されることはなかった。すなわち、LG化学製LIBを搭載したエコカーには補助金が付かないということを意味し、LG化学のビジネスモデルが崩れたのである。代わりに、GMは補助金を受けられるA123システムズ製のLIBの採用を決めたという経緯である。
 このような影響はほかでも起きている。独フォルクスワーゲン(VW)も中国市場でLG化学のLIB適用を検討していた。しかし、このホワイトリストの影響により、VWはLG化学から中国CATL製のLIBに転換しているようだ。独BMWは、2013年に投入したEV「i3」、およびPHV「i8」にはじまって、すべてのEV、PHVに韓国サムスンSDIのLIBを調達してきた。そのBMWも中国市場でのビジネスモデルを勘案し、新たにCATLとの契約を取り交わしている。
 A123システムズのLIBがどの部分でGMの要求性能に満たないのか、そして安全基準を満足しないのか、その詳細は明らかではない。A123システムズは、元はと言えば米国で育ったベンチャー電池企業である。米国カリフォルニア州で1990年9月に発効したゼロエミッション車(ZEV)法規に適合させるべき、1991年には米国先進電池研究組合(USABC)が設立された。以降、米国では電池研究から事業化を目指す電池ベンチャー企業が乱立した。A123システムズもその一つであり、米国生まれの企業である。
 同社はマサチューセッツ州ウォルサム市にて2001年に創業した。米マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発が進められていたオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)をLIBの正極材料に適用したEV用電池の事業化を進めていた。A123システムズのEV用LIBの開発は、ブッシュ大統領が推進していた水素エネルギー政策に打って変わって、2008年に就任したオバマ大統領がグリーン・ニューディール政策を打ち出したことで、米エネルギー省から2億4900万ドルの助成金を獲得するに至った。ミシガン州の生産工場を基盤として、その後は中国にも工場を進出させた。
 潤沢な開発資金を手にした同社は、米国を中心に自動車メーカー各社と契約を結び供給を開始した。しかし、A123システムズ製のLIBを搭載した米フィスカー・オートモーティブの高級PHV「フィスカー・カルマ」が、2011~12年にかけて炎上や爆発事故を起こした。原因はLIBの品質にあるとされ、PHVはリコールの対象となった。
 A123システムズには5500万ドルものリコール費用が発生しただけでなく、製品の評価が奈落の底に落ちてしまった。その後も、LIBの供給商談が破談になるなど致命的な打撃を受けた。同時に、中国企業の万向集団がA123システムズを2億5600万ドルで買収した。米国政府が税金を投じて育成したはずの米国ベンチャーは国籍を中国に変える形となり、米国籍を失った。この一連の煽りを受けて、13年11月には、フィスカー・オートモーティブも経営破綻に陥ってしまった。

安全に対する開発基準と意識が異なる日本勢
 歴史をヒモ解けば、LIBが車載用、特にEV用に適用されたのは、2009年に三菱自動車が発売した「i-MiEV」、そして翌10年に日産自動車が発売した「リーフ」に遡る。10年からは中国ローカルメーカーも、タクシーやバスなどに適用し始めた。しかし、そこからEVの火災事故が多発した。BYDのEVバスもご他聞に漏れない。
 米テスラのEVである「モデルS」は、13年に米国市場で立て続けに5台の火災事故を起こしている。16年にはフランスの試乗会で火災事故を起こし、その他、ノルウェーやスウェーデン、そして中国市場でも火災事故を起こした。
 一方、日系勢のEVはこれまで、火災事故を1件も発生させていない。日産のリーフは累積販売台数が35万台を超えている。火災無事故は誇るべき実績である。BMWのi3も、そして販売台数規模は小さいものの12年に発売したトヨタ自動車のEVである「eQ」、同様にホンダの「FIT EV」も火災事故とは無縁である。
 ではなぜ、このような差が生じるのか? それには筆者の持論がある。筆者がホンダ時代に車載電池の研究開発に直接携わり、自動車メーカーの視点で取り組んできた経験、更に、サムスンSDIではLIB開発から事業に至る供給側の立場で取り組んできた経験から以下のように考える。
 電動車開発における重要コンポーネントとしては、モーター、電池、インバーターなどが代表として挙げられるが、何といっても火災事故の誘因となるものは電池である。とすると、自動車側の立場では車載電池をいかに安全で信頼性の高いものに設計・開発するかという視点が極めて重要となる。
 LIBでは充電放電に伴う発熱は適用する正極材料によっても異なる。また、充放電時の正極の結晶構造の変化度合いも材料によって異なる。逆にいえば、様々なLIBを設計できることにもなるが、安全性と信頼性の確立は殊更重要だ。電池が暴走しないような充放電制御機構や冷却システムも不可欠である。
 制御系が万が一、故障してもLIBの火災や爆発を起こさない設計・開発が基本的に必要だ。そのためには、開発品のLIBが過酷な条件においてどうなるかという、いわゆる限界試験による確認が大切である。1991年から着手したホンダでの電池研究開発においても、当初から独自の限界試験を相当盛り込んだのである。
 2004年9月にサムスンSDIに移籍してからは技術経営に臨んだ。その折に、世界の自動車各社を訪問した。そして、同社を退社する12年末までに多くの協議を重ねてきた。ホンダ時代にはできなかった自動車各社への訪問は確かに新鮮であった。なぜならば、自動車各社が車載用電池に対してどれだけの意識をもって開発にあたっているか、そしてその試験法や基準がどういうものかを直接知ることができたからである。もちろん、国内の古巣であるホンダやトヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、マツダ、スズキ、スバル、日野自動車などとも、かなりの協議や意見交換をしてきた。
 そこで実感したのは、欧米自動車各社と日系勢自動車各社のLIBに対する安全性確保のための開発指針が異なっていたことである。日系勢の多くは、自社独自の評価法と独自基準を持ち、かつ限界試験を適用していることに特異性がある。
 一方、欧米勢は自社独自の評価法と独自基準は持っているものの、日系勢のそれよりも一段低い所に位置していた。そして、限界試験なるものはほとんど行われていなかった。したがって共同開発する、あるいは供給する電池各社も自動車各社の基準に合わせることで良かったのである。
 ここで言う欧米勢はGM、米フォード、独フォルクスワーゲン(VW)などで、先のベンチャーは含まない。フィスカー・オートモーティブやテスラのEVで火災が多発したのも、結局は車載用LIBの安全性評価や基準が既存の欧米勢に比べても、更に低かったからだろうと類推される。
 事実、サムスンSDI時代に若手エンジニアを引率して日系自動車各社を訪問し協議をしている過程で、自動車各社から高い基準や限界試験を主張されると、彼らは「なぜそこまで必要なのか?」と疑問を抱くことになった。立場上、同席していた筆者が彼らに説明して納得させる場面も少なからずあった。取りも直さず、欧米勢の自動車各社と主に付き合ってきた彼らだから、その基準に慣れきっていたのである。
 そういう欧米勢も、ここ3年ほど前から安全性開発姿勢に変化が見られる。日系勢をベンチマークしてのことだろうが、基準を上げながら、そして限界試験も積極的に取り入れるなど、安全性に関する意識が高まってきた。だからこそ、冒頭に紹介したGMがA123システムズのLIBの性能品質や安全性に不満を持つようになり、開発遅延が生じているのだろう。

中国の車載用LIB規格が変わった
 他方、中国の電池メーカーは、これまでローカルの自動車メーカーとの協業を中心に進めてきた。ローカルの自動車各社の信頼性はエンジン車でも元々低かったのに対し、EVでは新規参入組が多く現れ、入念な開発を行って信頼性を高いものに築き上げるマインドは不足している。短期間に開発して市場に投入することが優先されるがゆえに、事故に至る現象が今も続いている。BYDのLIBをBYDのEVバスに供給しているビジネスモデルでも例外ではない。
 電池各社がそういうローカル系自動車各社のみとビジネスをしている限り、その基準内で今後も開発を進め続けるだろう。ここに来て、中国No.1とNo.2の電池メーカーであるCATLとBYDは今後、ローカル以外の日欧米グローバル自動車各社とのビジネスを開始する。新たなビジネスモデルで懸念されるのは、知財と安全性・信頼性の問題だ。逆に、この協業連携によって両社は先進自動車各社の洗礼を受ける可能性が高い。
 中国市場で車載用LIBの安全性を担保するために、GB規格が適用されている。GB/T 31485-2015で「電動自動車用動力バッテリーの安全要件および試験方法」、GB/T 31486-2015で「電動自動車用動力バッテリーの電気的性能要件および試験方法」が課せられている。
 この規格は当初、中国自動車技術研究センター(CATARC)が検討、立案していた。ところがここ数年、CATLが勢いを付けてきたことで、CATARCに代わってCATLが試験法の制定や基準を設定し、CATARCは試験を実施する側にと役割を分担している。この役割見直しによって変わったことがある。LIBのGB規格試験法から「釘刺し試験」を除外した。その理由は、「EVでの事故が発生しても釘を刺したような現象は起こらない」という理屈からであった。もっとも、中国電池業界の開発負荷を低減させる狙いもあったようだ。それだけでなく、この試験を適用すればパスしない中国製LIBが少なからずあるからだろう。
 車載用国連規則で認証が義務付けられるECE R-100.02 Part.IIの9項目の試験法にも釘刺し試験は含まれていない。上述したように、GB規格には当初含まれていたが、後に除外された。しかし、日系自動車各社や電池各社の大半は自主的に釘刺し試験を実施する。さらに、各社独自の試験法や基準、限界試験を導入し開発にあたっている。国連規則や中国GB規格はクリアして当然の義務教育であるので、これに甘んじているだけではグローバルビジネスとしては不十分である。
 日系勢が進めている各社の自主的な、そしてより厳しい試験法と基準、それに限界試験を付加する高等教育をクリアすることで、安全性と信頼性が一段と高い次元で実現する。
 以下の図は、エスペックが運営している宇都宮事業所の「バッテリー安全認証センター」の機能と国連規則を挙げたものである。国連規則やGB規格をワンストップで提供できる機能を有している。試験項目によっては、中々クリアできないLIBもある。それを短期間で効率的に改善開発するために、自動車業界や電池業界に貢献するビジネスモデルを提供している。それのみならず、各社の高等教育をクリアするためのオーダー試験についても随時対応できる機能も有している。

中国系LIBを調達する日系企業への提言
 日系自動車各社が、中国市場で中国製LIBを調達する動きもある。日産自動車はCATLのLIBを採用すると既に判断した。ホンダも近い将来に向けた調達のための共同開発をCATLと開始している。トヨタ自動車のCATL詣でも報じられている。
 他方、日本市場でも定置用途や太陽光発電用の蓄電システムとして中国製LIBを調達するビジネスが急速に進んでいる。その理由は、この分野でのLIBシステムの価格差が要因になっている。日系勢のLIBと中国系勢のLIBの価格差が2倍以上もあるためだ。
 そこで中国系LIBを調達する日系企業、特に自動車メーカー以外の業界に対して提言したい。LIB各社の性能仕様は顧客に提出されるが、供給側にとっては支障の無い仕様表現であることが多い。ましてや過酷な条件や限界試験の際の事象など記述する訳もない。それを要求しても実施するかどうかも協議をして見ないと不明だ。書面だけの仕様で判断するのは非常にリスクを伴う。
 日本市場でもこれまで、中国製モバイル用LIBとモバイル充電器の事故が多発してきた。特にモバイル充電器に関しては度々、テレビのニュースでも報道されているほど頻発している。車載や定置用の大型LIBでは、人命に関わる事故にもつながりかねない。
 中国製LIBやモバイル充電器を導入しようと検討を進めている各社においては自主的に、かつ過酷な試験法の適用で安全性と信頼性を確保していただきたい。自社で試験設備を導入して対応するには、時間と投資がかかり非効率である。また、試験のノウハウも重要なので、エスペックのような受託試験機能や認証センターを積極的に活用いただきたい。それが、日系企業の安全性・信頼性を担保し、優れた品質性能を具現化する大きな手がかりとなるのだから。

2018/09/13

第126回コラム

爆走中国EV、電池業界に起きている異変
技術経営――日本の強み・韓国の強み
日系各社のビジネス戦略にも変化が
2018年9月13日(木)
佐藤 登

 7月26日の本コラム、「中国の新エネルギー車規制にどう対応すべきか?」では、中国の電池業界トップ2の中国寧徳時代新能源科技(CATL)およびBYDの勢いについて記述した。欧州においてリチウムイオン電池(LIB)の生産拠点を構えつつある韓国トップ3(LG化学、サムスンSDI、SKイノベーション)が、ポーランドおよびハンガリーを拠点として選択した。一方で、CATLはドイツのチューリンゲン州にLIB生産拠点を構築することで、ジャーマン3であるダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン(VW)とのビジネスの距離感を一層縮める展開に出ている。このことは、韓国勢にとっても大きな脅威となることを述べた。
 欧州の電動化シフトと共に、韓国勢および中国勢の電池各社が勢力を増強させているのは紛れもない事実である。逆に見ると、欧州および米国での日本勢の電池各社の存在感がかなり薄らいだ格好になってきた。

電池業界のビジネスモデルの歴史を振り返る
 では、何故このような勢力図に移り変わってきたのだろうか。まず、電池業界のビジネスモデルを振り返ってみよう。
 車載用ニッケル水素電池を搭載したハイブリッド車(HV)としては、1997年にトヨタ自動車が「プリウス」を、そして99 年にはホンダが「インサイト」を市場に投入した。すると2000年以降には米フォード・モーター、そしてVWも追随するに至った。もっとも、フォードの場合はトヨタハイブリッドシステム(THS)のライセンスを受けて実現に至っており、電池システムは日本勢が独壇場だった。当時の三洋電機はフォードやVW向けに、電池制御システム(BMS)を包含した電池パックシステムを納入しており、すなわちTier1のような立場でビジネスを構築していた。それによって、三洋電機は米欧の大手自動車メーカーからの圧倒的な信頼を勝ち得ていったのである。
 車載用途でのLIBは、2009年に三菱自動車の電気自動車(EV)「i-MiEV」に搭載されたもの、そして10年に市販された日産自動車のEV「リーフ」に搭載されたものと続く。世界に先駆けた車載用LIBの適用事例であったといえる。
 その礎を築いたのが、1991年、ソニーが世界に先駆け民生用途ではあるがLIBの量産を実現したことである。ソニーはその後、車載用途のLIBの研究開発を日産自動車、そしてホンダと共に展開して大型LIBの開発を先導した。しかし、その先導役であったソニーは1998年、当時の出井伸之社長の判断の下、「人命に関わるビジネスはしない」という戦略に基づき、車載用LIBの研究開発から手を引いた。ホンダでは筆者がソニーとの共同研究をプロジェクトリーダーとして推進していた最中の出来事であった。
 この頃から、三洋電機、日立製作所、日本電池なども車載用電池研究に取り組むようになり、将来に向けたビジネスモデル戦略を描き始めたのである。ホンダでは、筆者が1999年に三洋電機の経営陣へ申し入れをして、車載用LIBの共同研究をスタートさせた。
 この時点では、韓国のサムスンSDIもLG化学もモバイル用LIBの量産を目指して、日本勢をベンチマークしつつ実用化を図る段階にあった。車載用LIBの開発はその数年後に始まるのである。サムスンSDIがモバイル用LIBの量産を開始したのはソニーに9年遅れの2000年のことである。韓国勢が車載用LIBの研究開発に踏み切ったのはその後間もなくの2002年くらいであるから、時間的にも数年遅れ、また技術面や信頼性・安全性の面でも日系のレベルからは相当後ろを歩くことになる。

自動車業界が電池業界に期待する重点要素の変化
 ただ、韓国勢のスピード感の速さには目を見張るものがあり、日本製LIBのベンチマーク、積極的な技術開発・マーケティング、世界各国からの人材採用等を実行してきた。2004年9月にホンダからサムスンSDIに移籍した筆者は、この実態を直接見てきたほか、そのような技術経営に自らも携わってきた。
 2010年後半には、サムスンSDIのモバイル用LIBが、それまでトップシェアを占めてきた三洋電機を初めて超えた。車載用電池のビジネスでも、韓国勢は2010年を過ぎると頭角を現してきた。以来、韓国勢はLIBの技術力、マーケティング力、安全性・信頼性を確立することで、日韓のLIBにおける性能や安全性に対する差異はなくなった。
 その後は、中国のLIBメーカーも乱立。EVを国策として進める中国では、完成度の低いLIBを搭載したEVが火災事故を頻繁に起こすなどの社会問題にも発展した。その中国では、「失敗したことは仕方がない。これから巻き返すことが大切」という命題のもとで、事故を起こしつつも新規参入組のEVメーカーや電池メーカーの乱立が進み、拡大方向の路線が展開されてきた。
 世界の自動車各社における日本の立ち位置は、日系自動車各社との電池協業や調達を推し進めるものの、欧米では様相が異なる。特に、2015年頃を境に、欧米自動車各社の電池業界に期待する要素が大きく変わったように映る。そのストーリーを以下の表に示す。

 2015年以前での重点要素は性能面、安全性、パック化技術、コストが主流であった。以降は、性能面では日韓の優位差がなくなり、そして安全性・信頼性でも同等になり、更には自動車各社がパック技術を要求するビジネスモデルから、モジュール(セルの集合体)以降を自社で手掛けるビジネスモデルに大きく転換を図った。
 逆に、2015年以降の重点要素は更なるLIBコストの低減、とりわけ25千円/kWh以下、しかも10千円/kWhに近づけたい自動車各社の思いが如実に現れている。そしてもう一方の指標は、投資力によるLIB生産キャパである。
 現在、LIBのコストリーダーはLG化学である。近年、LG化学を意識しているCATLが激しく追随している。日本勢は、業界でのコスト低減を前面に打ち出す、あるいはコストリーダーとなる戦略を唱える企業は無いに等しい。逆に、パナソニックは価格競争に持ち込まない戦略といっているが、果たしてどこまで通用するのだろうか。
 一方の投資による生産キャパ拡大においては、韓国のトップ3と、国からの補助金前提ではあるがCATLとBYDの存在感が浮き彫りになっている。日系ではパナソニックの投資力が韓中に対抗しつつある水準ではあるものの、それ以外の電池各社の投資力には見劣りがある。
 このように、コストと投資力が競争領域になっているわけだが、似たような経緯はあちこちで確認されてきた。これまでの産業界の歴史を紐解けば、いや紐解かなくても液晶事業、薄型テレビ事業、携帯電話事業、スマホ事業、半導体事業など、日本から韓国をはじめとするアジア勢に勢いがシフトした事例は枚挙に暇がない。
 こういう状況を勘案すると、日系電池業界としては電池各社の個別展開よりも、体力と筋肉質のある業界への転換が必要な時期に差し掛かっているのではないだろうか。業界再編もその一つのアプローチであるだろうが、そうでなければ競争力の乏しい企業は淘汰されるシナリオになりかねない。

中国市場における変化点と展望
 先の7月26日のコラムでも、中国において2020年からエコカーに対する補助金がなくなった場合のケーススタディを示した。それもさることながら、以下の表に示すように現時点で様々な異変ともいえるべき事象が生じている。2020年の補助金ゼロ化がもたらす影響は計り知れないと思う。

中国市場における気になる動き
 EV各社の資金繰り悪化によるしわ寄せが電池業界に及んでいる。昨年からの補助金減額の影響で、EV各社のLIBサプライヤーへの支払い遅延で経営が悪化する電池企業が既に現れている。例えば、CATL、BYDに続く中国3位メーカーであるOptimumNano Energyは、18年7月から半年間のLIB生産停止を決断した。その他、CATLの利益大幅減少、LIBメーカーの40%がマイナスのキャッシュフローであるなど、厳しい状況に陥っている。
 そこに追い打ちをかけるように中国政府は18年、航続距離300km以下のEVについては補助金の減額幅を前年対比で最大58%減にすることを決定した。航続距離が300km以下のEVが約50%と主流を占める中国ローカルのEV各社、そしてそこにつながるローカルのLIBメーカーには必ずや淘汰の波が押し寄せることになる。
 CATLはこれまで生き馬の目を抜くような成長拡大路線を遂げてきた。日系自動車各社、部材メーカーのCATL詣でも多くのタイミングで報道されてきた。トヨタ自動車の頻繁なCATL訪問協議、日産自動車においては中国で生産するEVでのCATL製LIBの調達決断、ホンダは調達までの決断はしていないものの、中国で生産する電動車(xEV)への調達を目指すためのLIBの共同開発と、日本の自動車トップメーカーが大きな期待を寄せている。
 ご他聞に漏れず、LIBの部材事業を展開する日本の化学メーカー各社もCATL詣でを行ってきた。正極材料、負極材料、セパレータ、電解液の四大部材を中心とした事業は日本のお家芸であったのだが、2015年以降は特に中国ローカル部材メーカーが躍進してきた。
 日系部材メーカーの強みはハイエンドを主体にミドルレンジ級の部材ビジネスの展開を図っていることである。一方、中国ローカルの部材業界はローエンド系からミドルレンジ系のビジネスモデルという格好で、日系のビジネスとはターゲットがやや異なる。
 しかし、CATLの日系部材メーカーとのビジネス協議では、CATL側が中国ローカル部材メーカーの価格をちらつかせ、日系部材メーカーに価格交渉を迫って有利に進める姿勢を示している。そういった状況を頻繁に目の当たりにして、ビジネス商談から引き下がる日系メーカーが増えてきたとされる。
 CATLのこのようなビジネススタンスで日系部材業界が供給しない状況になれば、ハイエンド系を採用する日韓電池メーカーとの技術に再び優位差が生じることになる。知財も含め、価格交渉でもパートナーとしての意識をもち、交渉相手に対する丁寧な姿勢を示さないと、日系のCATL離れが進みそうな気配がある。
 サムスンSDIやLG化学がLIB事業を伸ばしてきた最も大きな原動力の一つに、日系部材メーカーとのパートナーシップ意識をもって、双方のWin-Winを構築する信頼関係を築いてきたことがあげられる。CATLの対応次第では、その勢いに急ブレーキがかかることも予想され、今後に注目が集まる。

2018/08/23

第125回コラム

繰り返される不正、企業統治はどこまで可能か?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
法令違反に対する新たな見直しの必要性
2018年8月23日(木)
佐藤 登

 2017年10月12日のコラム「相次ぐ法令遵守違反、未然に防ぐ3つの要件」では、神戸製鋼所のデータ改ざん問題、および日産自動車の検査システムでの法令違反を採り上げた。日本のみならず世界的に波紋を呼んだ問題であっただけに、その反響は大きく、特に神戸製鋼のデータ改ざんに関しては、直後の10月15日のテレビ朝日で生放映された「サンデーライブ」にゲストコメンテーターとして招かれ発言したほどだった。
 もう一つの話題として採り上げた日産自動車の検査不正問題は17年9月に発覚した。製品出荷前の完成車検査で、資格を有しない社員が担当していたことが明るみに出た。続けてスバルでも同様な問題があり、業界内の大きなスキャンダルとして社会に大きな衝撃を与えた。その後、自動車業界では棚卸が相次ぎ、自浄作用が機能するかに見えた。
 自動車業界ではこの検査不正問題とは別に、燃費不正問題が既に浮上していた。燃費不正問題は2015年9月に発覚した独フォルクスワーゲン(VW)に端を発した。VWのスキャンダルは巨額な補償問題へと発展し、全世界での販売に大きな悪影響をもたらした。それのみに留まらず、ディーゼルエンジンに対する厳しい逆風も吹き荒れ、その対応の一環として同社は大胆な電動車シフトへと舵を切った。
 同社は2025年には、自動車全体の25%をプラグインハイブリッド車(PHV)または電気自動車(EV)にする方針を発表している。同じドイツ勢のダイムラーとBMWも、口裏を合わせたように同等な目標を掲げている。ディーゼル燃費不正スキャンダルに対して、電動車シフトは大きなイメージアップとして利用されているような節もある。
 日本では、16年に三菱自動車の燃費試験データ改ざん問題が発覚し、同年にはスズキも法令で指定されていた方法ではない独自の燃費測定を行っていたことが発覚した。
 一方、2018年になると、スバルが製品出荷前の検査工程で燃費・排ガスデータを書き換えていた問題が発生した。これがきっかけとなり、日産自動車では燃費・排ガス測定の抜き取り検査で5月から6月にかけて不正が行われていたことが確認された。調査台数2187台分のデータを調査した結果、何と約54%に相当する1171台に不正があったという衝撃的な事実である。
 再発防止策として打ち出した法令遵守の社内教育をしたはずの日産で起きただけに、ことさら衝撃的な問題と化した。燃費・排ガス問題は、その後も明るみになった。8月9日には、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機でも同様な問題が発生していたことが公表された。正に自動車業界の品質神話は崩壊した。
 こうした事件と言ってもおかしくない一連の問題が生じたことで、自動車業界内では他山の石として教訓になるだろうと考えていた。しかし、その後も不正問題が続出し、止まることを知らなかった。
 逆に、これら問題を引き起こしていないのは、トヨタ自動車、ダイハツ、ホンダのみ、すなわちトヨタグループとホンダだけとなっている。ではなぜ、この2グループは問題を引き起こしていないのだろうか。
 8月10日の日本経済新聞によると、トヨタでは燃費と排ガスの検査装置を自動化することで、人の手を介さずに結果が出るシステマティックな手法を導入している。同じグループのダイハツが同様なシステムを導入しているかどうかは不明だが、グループ内で水平展開されている可能性は高いだろう。
 ホンダの場合は、トヨタと同様なシステムを導入しているかどうかは不明だが、導入していなくても生来の生真面目さや実直な企業文化があるから、そこまでの不正が起こらないような風土があるだろうと筆者の経験からは映る。
 創業者の本田宗一郎は、曲がったことは大嫌い、また理不尽で論理が伴わないのも大嫌い、常に実直で真っ向から立ち向かうエンジニア魂の持ち主であった。そういうDNAが時代を超えて継承され、自ずと自浄作用が働く企業文化になっていると思える。

歯止めには厳しさが必要
 ともかく、問題を起こさないようにすることが必要だ。2017年10月12日のコラムでは、その防止策として次の3点を述べた。
1. まずは、産業界各社での棚卸が必要だ。他山の石として教訓にすべきことは大前提として、経営トップから現場社員に至るまで、法令遵守違反が企業にどのようなことをもたらすのかの教育の棚卸である。
2. 2つ目としては、内部告発制度をつくること。経営トップの法令遵守意識の感度が低ければ、管理職もそして現場までも伝わりにくい。その結果として、都合の悪いことが言えない風土となる。こういった風土をつくらないためにも、ガバナンスの取り組みとして、経営陣へ直接提起できる内部告発制度が必要だ。告発した本人が不利益を受けないことはもちろん、むしろインセンティブを与えるくらいの経営方針をうたってほしい。
3. 3つ目としては、法制度に関する国の監視体制の強化だ。抜き打ち調査を実施したり、報告基準を強化したりなどが必要だろう。しかし、それでも完全な歯止めとすることには限界もある。であれば、法令遵守に違反した際の国側からの罰則を数段厳しくすることが必要かもしれない。巨額なペナルティを課す、経営トップなどの主要経営陣の退陣を迫るなど、これまでにない施策が必要であろう。
 残念ながら、①と②の施策は効果をもたらしていないようだ。しかし、この二つは各企業単位で地道に取り組んでいく必要がある。法令違反の場合の罰則が緩い分、緊張感が伴っていないということであろう。
 国土交通省は8月10日からパブリックコメントを募集しており、9月に省令の自動車型式指定規則を改正するとのことだ。いずれにしても、このような違反に対しては企業責任として、人事の更迭刷新と罰則金を明確にして科すルールが必要なのではないだろうか。
 自動車各社に品質担当役員を登録させ、その責任を明確にして追及する仕組みの設定。問題が発生すれば更迭はもちろん、退任に追いやるくらいの責任体制だ。
 このような不正問題が生じれば、たとえば韓国サムスングループでは役員が責任を負わされ、即、退任の対象となる。日本の場合は、その判断に時間がかかり、事が大きくなって初めて人事問題にたどり着き、やがて社長の辞任などにつながるケースが散見される。より客観的で明確な人事刷新につながるプロセスが必要と思える。
 罰則金も客観的指標をもって対応させることが良さそうだ。例えば私案であるが、不正扱いとなった対象台数をN、不正扱いをしていた期間をT(月単位)、台当たりのペナルティ額をP(万円/台)として、以下のように、その積算を罰則金として算出するような制度の導入である。
罰則金 = N × T × P
 当該製品を保有するユーザーは非常に不快感を味わうことになる。中古車市場では価格下落につながることでもあり、このPはユーザーへの迷惑料とも言うべき意味合いで還元すべき罰則金と定義したい。Pの数値は違反の内容や程度によって随時設定するにしても、これまでにない新概念のペナルティである。
 他の部分の罰則金は、法令制度を策定して自動車業界を束ねてきた国土交通省への上納、および自動車業界全体に迷惑をかけることでの自動車工業会への上納のような形をとるのが適切ではないだろうか。
 更に加えて、トヨタで実施している燃費と排ガスの検査装置を自動化することは有効な手法であることが証明されていることから、他社でも人の手を介さないシステムの手法を導入することも実施すべきであろう。
 自動車に限らず、これまでも部材や建築などでも多くの問題や不正が明らかにされてきた。性能、品質、信頼性を付加価値として訴求してきた日本製品の神話が、あちこちで崩れつつあることを勘案すれば、厳罰という制度を一度かざした方が良さそうに見える。

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