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日経ビジネスオンライン

2018/12/27

第133回

2019年、車載電池業界の勢力図が明確になる
技術経営――日本の強み・韓国の強み
積極投資に出る韓中勢、劣勢感をぬぐうべき日本勢
2018年12月27日(木)
佐藤 登

 2015年、韓国のサムスンSDIとLG化学は車載用リチウムイオン電池(LIB)の生産工場を、それぞれ西安市と南京市に構えた。日本勢が中国進出をする前にスピード感を発揮して中国のローカル自動車メーカーに供給するビジネスモデルを描いていた。
 2016年2月には、パナソニックが大連遼無二電気として車載電池製造の合弁会社を設立した。その延長上で、17年4月にはパナソニック オートモーティブエナジー大連として、LIB生産拠点の新工場を開所した。このビジネスモデルは、トヨタ自動車とホンダが現地生産する電動車(xEV)に供給すると共に、中国ローカル電気自動車(EV)メーカーへの供給も視野に入れた戦略だった。

中国政府の外資排除
 このようなビジネスモデルが中国国内で進行すると、その影響を大きく受けるのは中国ローカルのLIBメーカーである。現在、車載用LIBのローカルメーカーは200社にものぼると言われている。
 日韓のLIBとは性能面や安全性の面で劣勢にある中国の大半のローカルメーカーにとっては、非常に不利なビジネスとなることが容易に推測される。その背景から、2017年に中国政府が打ち出した「バッテリー模範基準認証」、いわゆるホワイトリストで外資の排除に向かった。すなわち、中国の電池産業を国策として保護するために、様々な理由をかざして日韓電池各社の締め出しを図ったのである。
 そのホワイトリストには中国系のみ57社が登録され、それらのLIBを搭載するEVには補助金を出す一方、ホワイトリストに組み込まれていない日韓電池各社のLIBは補助金の対象から外された。その結果、日韓の、とりわけ韓国の2社には厳しい仕打ちとなった。
 パナソニック大連のビジネスは、中国ローカルEVメーカーへの供給ができなくてもトヨタとホンダのxEVに供給できれば自立可能なビジネスとなる。2018年には、北米で生産開始となったホンダのハイブリッド車(HV)にも供給が始まった。
 その点、韓国勢は中国ローカル自動車各社との連携でビジネスモデルを進める必要があるのだが、残念ながら中国のあからさまな外資排除により、サムスンSDIは稼働率が急速に低下し、社員の解雇にも追い込まれた。その後は、オーストラリアで活発な太陽光発電事業の電力の受け皿となる蓄電ビジネスを獲得し、西安工場で生産されるLIBをこの事業に結び付けていった。
 同時に、経営判断にスピード感があるサムスンSDIとLG化学は矛先を欧州に向けた。LG化学はポーランドに約400億円を投じてLIB工場を建設し、いち早く稼働を開始した。サムスンSDIも同等規模でハンガリーにLIB工場を建設し、2018年から稼働を始めた。
 この両社の動きを静観していた韓国SKイノベーションも、ハンガリーに850億円規模の大投資を決断し、2020年の稼働を目指している。すなわち、韓国3社が欧州自動車業界にビジネスを拡大する戦略に出て行った。
 もっとも、2019年からは中国エコカー政策として新エネルギー車(NEV)規制が発効する。そして、20年からは中国のエコカーへの補助金が終了する。となれば、ホワイトリストは意味がなくなりLIB業界にとっては中国ローカルメーカーが優遇されないフラットな市場になる。そのまま進めば、日韓勢にとっては極めて大きな追い風となる。

中国市場で巻き返しを狙う韓国勢
 LG化学は南京江寧濱江開発区に、LIB生産拠点として新たな南京第2工場の建設に着手している。19万8000平方メートルの敷地に、2023年まで約2100億円規模の大投資により、EV換算で年産50万台規模を計画している。19年10月から段階的に稼働開始するという。この起工式に南京市の張敬党書記と共に出席したLG化学のパクチンス副会長は、「南京第2工場は最新技術と設備を投資し、急成長するEV電池市場に対応できるように世界最高水準の工場を建設する」と力説した。
 一方、12月10日の東亜日報によれば、サムスンSDIは西安市に車載用LIBの第2工場建設を検討しているとのこと。今後、中国市場でのEV需要が大幅に伸びると展望し、まさしく2020年からの補助金政策が廃止されることに合わせて、生産能力を確保することを念頭に置いたビジネスモデルである。
 投資規模は105億元(約1700億円)、16万平方メートルの敷地にEV用の60Ah級LIBを生産する5ラインの模様である。同社は現在、韓国蔚山(ウルサン)と西安、そしてハンガリーの3カ所でxEV用LIB生産工場を構えている。生産能力はEV基準で、蔚山が6万台、ハンガリーが5万台、既存の西安が3万台となっている。
 第3勢力のSKイノベーションも、中国補助金政策打ち切りのタイミングを勘案して、既に江蘇省常州市にEV用LIB生産工場を着工中だ。生産能力は7.5GWhで、50kWhのLIBを搭載するEV換算では15万台に相当する。既存の韓国忠清南道瑞山(ソサン)市のLIB工場を約5GWhまで拡大する計画と共に、18年3月に着工したハンガリー新工場は7.5GWhであることから、2022年には年産約20GWh規模に達する見込みである。
 同社は2017年から、独ダイムラーのメルセデスベンツのEVにLIBを供給しており、その流れを受けて三菱ふそうトラックのEVにも同社のLIBが適用されている。

欧州自動車各社の巨額LIB調達
 そのダイムラーは、2025年までに全販売台数の15~25%をEVにする計画だ。現在、SKイノベーションの他にLG化学からもLIBを調達している。同社はLIBセルを電池大手から調達し、自社でモジュール以降から電池パックまでの生産モデルを展開している。
 同社は、2030年までにxEV向けに約2兆5700億円分のLIBを調達すると発表した。LIBの長期調達計画を明らかにすることで、電池メーカーに対する求心力を拡大し、投資促進を図っている。
 LIBの巨額調達をめぐっては独フォルクスワーゲン(VW)が2017年の段階で、25年までに6兆5000億円を調達すると発表していた。EV市場が拡大すれば電池の生産能力が不足するという見方もあり、欧州自動車各社は生産キャパの安定調達を戦略的に推進している。

米テスラの投資とリスクの共存
 テスラは2018年7月、中国上海市に年産50万台規模のEV工場建設を決定していた。同年10月には、上海臨港装備産業パークに86万平米の用地を確保した。
 中国の21世紀経済報道によれば、2018年12月18日付で、同社は上海市にEV工場を間もなく着工するという。投資総額は8200億円規模になる見込み。第1段階では約2600億円の投資規模で完成車組立ラインを建設するとのこと。19年下半期の量産化を目指す模様だ。上海工場で生産するのは普及型EVの「モデル3」とSUV型の「モデルY」で、年産20万台から始め、最終的に50万台を目標にしている。
 同社はLIBセル工場の建設も計画しているが、協業先が従来のパナソニックになるかどうかは明らかではない。米国ネバダ州でのギガファクトリー稼働に至るまで、そして現在も苦戦を強いられているパナソニックにとっては、上海の事業は必ずしもビッグチャンスとは言えないはずだ。
 そもそも、中国で拡大方向にあるEV市場が2020年の補助金廃止の展開でどこまで拡大するのか、消費者は一層高価なEVに目を向けるのか、向けたとしても日米欧のトップブランドが中国市場に供給するEVと同社が真っ向勝負で勝算はあるのか――など、不透明感が漂うリスクも見え隠れする。

中国市場で予想されるリスク
 さて、中国市場で存在感を打ち出しつつあるトヨタ、ホンダ、日産自動車のxEVビジネス、そして猛追するジャーマン3(ダイムラー、BMW、VW)、米国勢のゼネラルモーターズとフォード・モーターも後れをとらないようxEV展開に向かっている。そしてテスラの中国での生産開始から販売と、EVプレーヤーが出そろう2019年となる。
 逆に、2020年からEV補助金の支援を受けられない中国ローカルEVメーカー。ローカル各社がトップブランドの日米欧自動車各社が供給するEVと真っ向勝負できるシナリオは全く見当たらない。このまま進めば、中国政府が標榜するローカルメーカーによる「自動車強国」の実現可能性は極めて低くなる。
 他方、電池業界もしかりである。韓国トップ3とパナソニックが今後も投資を拡大する中国市場では、ローカルの電池メーカーはどこまで闘えるだろうか。投資拡大と性能進化で先を走るCATLと、LIBとEV事業を垂直統合で展開するBYDはある程度は闘えるだろうが、200社の大半のローカルメーカーの淘汰が進むことは容易に予想される。
 日産が2016年8月に電池事業を切り離したことから、NECとの合弁でLIB事業を展開してきたオートモーティブエナジーサプライ(AESC)は現在、中国のエンビジョングループへの売却が決定されている。19年4月から中国系の新会社として再スタートする予定だ。
 この計画が順調に進むという保証はあるのだろうか。もともと同社は、2017年8月に中国のファンド会社GSRに売却することを決定した。しかし、GSRの資金調達が進まなかったことで買収延期が繰り返され、結局、18年6月末に買収がキャンセルとなる想定外の事件が起きた。エンビジョングループならば大丈夫なのだろうか? 実際に19年4月に買収が実現した姿を見ないと不確実性は否めない。
 AESCの中国ファンド系への売却にあたっては、経済産業省の中でも深刻な問題として採り上げられた。しかし、それを阻止する解決策は見出されないまま、間もなく中国系企業に手渡される。
 2019年にAESCが中国系企業に変身すれば、そこに連結されているNECエナジーデバイスも同時に中国系企業の傘下に入り、日本の電池業界からは2社がなくなることになる。そしてまた、AESCが中国にLIB工場を稼働させれば、これまた中国のローカルメーカーにとっては大きなライバルとして立ちはだかり脅威となる。
 CATLは当初から角型金属缶タイプの車載用LIBを開発し、ビジネスをしている。しかし、ほとんどのローカルメーカーのLIBはアルミパック包装材を使用するラミネート型に特化している。しかし、ラミネートタイプでグローバルビジネスを展開できている電池メーカーはLG化学とAESCの2社のみである。すなわち、200社近い中国の電池各社は、日韓のこの2社との競合を必然的に迫られる。そのような状況になれば、日韓2社との差が明確になり、ローカル各社には大きな逆風が吹くことになるだけでなく、淘汰が急速に進むことになるだろう。
 そうなれば、EVメーカーでのシナリオが崩れると同様に、中国政府が目指してきた「電池立国」にもひびが入る。もっとも中国政府にとっては、弱小のLIBメーカーは不要という割り切り感もあるかも知れない。
 このシナリオでは、中国の電池産業界は大打撃を受けることになるのだが、中国政府がそこまでは容認できないということになれば、新たな策を打ち出す可能性も否定できない。2020年からの補助金政策を新たに設け、新ホワイトリスト制度をかざして、再度、外資系電池企業を排除するシナリオのリスクはないだろうか?あるいは税金政策で、ローカルと外資に差を付けることも実行しようとすれば可能な中国である。
 仮に、中国政府が新たな政策を打ち出せば外資、特に大投資を進めている韓国勢の電池各社にとっては大打撃になる。このリスクヘッジをとっておかないと、何でもありの想定外の制度を押し付けることができる中国政策とは渡り合えないことになるだろう。

日系電池各社のありたい姿
 車載用電池では韓国がトップ3で事業集約が進行している。中国ではグローバルビジネスを展開するCATL、BYD、そして新たに加わるAESCがトップグループとしてビジネス攻防を強化する。
 その点、日本はどういう構図か? 電池各社が多いことでバラツキも多い。パナソニックは、サプライチェーンを構築しているトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、そしてテスラ事業で拡大を目指すことで自立化を進める。トヨタはプライムアースEVエナジー(PEVE)を子会社として運用していることから、PEVEの発展性はほぼほぼ保証されている。
 ジーエスグループはホンダとの合弁事業(ブルーエナジー:BEC)と三菱自動車の合弁事業(リチウムエナジージャパン:LEJ)ビジネスを強化できれば自立化と持続可能性はある。
 東芝は、スズキの簡易HVシステムであるエネチャージとのビジネスを拡大中だ。同社はインドでの事業を展開するために、スズキとデンソーとの3社で電池工場を建設中。ただ、フルHVやプラグインハイブリッド車(PHV)向けには、同工場で手掛けるSCiB電池では低電位(2.5V)の特性上、ビジネス構築は困難を極める。他方、蓄電池ビジネスでは電力会社等の産業用途で存在感を有している。
 日立化成の電池事業(旧新神戸電機⇒日立ビークルエナジー)は、GMへのLIB供給でビジネスを構築しているが、GMの投資計画とリンクする成長戦略が描けていない。日立グループとしては、LIB事業に対して強いマインドを有していない模様で、事業売却も視野に入れているようだ。とすれば、東芝と日立の電池事業を統合して、LIBの特性とラインナップを確保して協業することは意味がありそうだ。
 2013年1月から、筆者は電池業界再編の検討委員として関わった。ソニー、日産、NEC、AESCの統合を目指したこのプロジェクトは、ソニーのLIB事業売却撤回のあおりを受けて水泡に帰した。結果として、AESCもNECエナジーデバイスも中国企業の傘下に入る。
 日系勢としては、グローバルにかつ自立可能な路線を描き、投資力のある筋肉質電池企業となることが生き残りの条件となる。そのために日系勢としては、パナソニックグループ(PEVE含む)、ジーエスユアサグループ、東芝と日立を中心にした新会社グループの3勢力に束ねるのが得策ではないだろうか。

2018/12/13

第132回コラム

インド市場における自動車の電動化と矛盾
技術経営――日本の強み・韓国の強み
期待を寄せるのは日本、毛嫌いしているのは中国
2018年12月13日(木)
佐藤 登

 11月23日から26日まで、初めてインドを訪問した。筆者が所属するキャパシタフォーラム(会長:東京大学・堀洋一教授)が企画したインドでのシンポジウムと視察に参加するためである。
 これまで、インドは仕事でも旅行でも敬遠してきた国であった。しかし、今回はインド政府筋との意見交換やホンダ・インド研究所への訪問協議が組み込まれていたので、絶好の機会と思って参加した。今回の骨子は、インド政府が唱えている自動車の電動化計画に関するもので、インドを直接体験し意見交換をすることでいろいろなことが見えてくるはずと考えたからである。
 首都デリーの日本人は2600人、新興都市グルガオンには日系企業が多く2400人が住んでいる。早晩、グルガオンの日本人はデリーを超える。インド全体の日系企業は2017年時点で1350社と、直近で急増している。それだけ、今後の産業経済の発展が期待されている証拠である。
 インドは世界7位の面積。人口は13億6000万人で日本の11倍。中国の人口は13億9000万人であるが、3~4年以内にインドが中国を超えるといわれている。しかし一方では、デリーの交通渋滞、大気環境は中国より酷いとされており、大きな社会問題と化している。排ガス問題、PM2.5(300~500μg/m3、日本基準は70μg/m3以下)は切実な課題である。教室でも本が読めなくなることもあり、その場合には学校が休みになるほど。インド政府は技術が唯一の解決策と表現している。PM2.5のほかに、農場収穫後の焼き畑や、ホームレスが暖をとるためにプラスチックやごみを燃やすことで大気環境を悪化させている。
 インド訪問直前の11月21日に開催された東工大シンポジウムで講演した際、インド企業BERGENのKumar氏の講演が興味深かった。彼はインド政府トップ筋との繋がりが強く、インドの政策にも精通している。
 彼によれば、インドは巨大な市場で産業成長率は次の5年間でCAGR(年間平均成長率)35%に達するという。しかし、日本や韓国が完成した技術を、中国がダンピングをしてインドに持ってきてビジネスをしていることが大きな問題であるとも。とにかく今後のインドは、脱中国依存を実現したいという思惑である。
 またインド政府は、EVを2030年時点で40%規模(400~500万台)まで拡大することを目標にしているという。しかしこのままの勢いだと、EV、リチウムイオン電池(LIB)、充電器とも、中国がインド市場をとることになりそうだと。したがって、日印の協力により中国のビジネスを阻止したいとのことだ。現状、EVはゼロだが段階的に拡大する計画で、インド政府は約3000億円を投資する計画中とのことであった。

インド政府筋との意見交換
 インドでのシンポジウムでは、日本側からはホンダ・インド研究所、日本ケミコン、日立研究所、東京大学が、インド側からは、電気化学中央研究所(Central Electrochemical Research Institute:CECRI)の政府系研究機関がプレゼンし、主に議論するスタイルで進められた。インド政府系関係陣としてはCECRIの他に、インド政府科学技術省、インド自動車研究所(日本の自動車研究所:JARIに相当)、非鉄金属技術開発センター、インド工科大学(IIT)が名を連ねた。
 インドの発電は石炭発電(しかも低効率)が80%以上、電力負荷が上限を超えることで瞬停は頻繁に発生している。2017年、インドでの自動車販売数は400万台を超えた。モディ首相は今後のEV政策を主導しているが、自動車のテールパイプから排出される排ガス(Tank to Wheel)ゼロ化を進めている。それだけに、発電から排ガス(Well to Wheel)の議論が進んでいなかった。ようやく、一部の間でWell to Wheelの議論が交わされるようになってきた程度だ。
 チェンナイにあるCECRIは、15年前からLIBの研究を推進してきた。正極材、負極材の研究開発をしつつ、角型、円筒型のLIBの試作評価まで実施中だ。
 IITのムンバイ校は、LIBのセル製造設備開発およびLIBの材料開発を推進中。2030年にLIBの製造が可能になるよう開発を進めているとのこと。安全性と15年の耐久性を実現目標に掲げている。正極材料はNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)三元系の8:1:1の比率で、日韓中が目指しているところまで検討中だ。

インド市場の拡大を目指すホンダを訪問
 1995年に設立されたホンダのインドの生産拠点ホンダカーズインディア・リミテッド(HCIL)を尋ねた。生産規模は2工場で年間30万台。そのうち、5%程度を南アフリカやミャンマー等に輸出中。現状7車種を生産、2019年には「シビック」を追加する。
 インド市場ではオートマ(AT)車よりもマニュアル(MT)車の方が人気とのこと。全長が4500mm以上のセダンが人気。ホンダの「シティ」は日本でいうとトヨタの「クラウン」並みのステータスとも。また、好まれるカラーは白が圧倒的で、シルバー、ベージュと続く。PM2.5で大気環境が悪いことから、汚れが目立つ黒は敬遠される。
 見学した生産現場はホンダらしく、整然としていて綺麗だ。ただし、人件費が安いこともあって、日本では完全ロボット化されている溶接工程も人海戦術にて対応しているなど、全工程に人が多い。生産タクトは135秒、日本では50秒タクトで完成車が出てくるので日本よりはかなり遅い。
 日系自動車企業でのインドでの存在感は圧倒的にスズキが大きい。インド国内での四輪車の50%をスズキが生産している。スズキの次はホンダ(5%の市場シェア)で、トヨタよりもホンダのプレゼンスが高い。さらに二輪車のスクーターセグメントでは、シェアが60%とホンダが断トツである。
 研究所の設計部門が生産工場に隣接しているので、自動車の組み立てが行い易い設計など、開発段階からの議論が一緒にできるので生産効率が上がり、その成果が如実に現れている。
 2016年には最長1時間の工場停電があったが、最近は緩和されており、大規模停電はなくなってきた。瞬停は引き続き発生しているが、UPSで対応している。
 ローカルコンテンツ(現地調達)は70%程度、日本でしか製造されない部品等もあるので、これ以上拡大する目標はあるが容易ではない。スズキは100%近い部品をインドで調達中、この分野でもスズキが先導している。
 ホンダの2030年における全世界電動化比率の目標は、内燃機関35%、ハイブリッド車(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)で50%、EVと燃料電池車(FCV)で15%という構成にある。インドでの電動化対応としての構成をどうするかは、今後の課題である。

インド市場における今後の展望
 2017年には400万台となったインドの自動車市場は、ドイツを抜いて4位に浮上した。2020年には日本を抜いて、2030年には1000万台規模になる見込みである。
 法規制は厳しい方向に向かっている。CO2規制は世界各国で欧州が最も厳しい(2021年から95g/km、以降段階的に削減)が、インドも欧州に準拠した水準で規制を強める。ガソリン車の自動車税を40%、EVには12%程度など、大きな差を付けることで電動化を進めようとする気運にある。
 石炭発電80%以上の現状で全面的にEVというのは極端な話だ。インド政府は、CO2が増えてもGDPが向上すれば良いと言う認識(上記のCO2削減目標とは矛盾)にある。2030年のGDPは、約1130兆円と展望される。
 確かに、現状のままEVを普及させてもCO2は減らないし(上記のCO2削減目標とは矛盾)、PM2.5は増加の一途を辿る。直近で市場にマッチする最大の解はハイブリッド車(HEV)と筆者は見通す。しかし、それを主張できるのはホンダ、トヨタ、スズキの3社のみなので、3社との考え方の連携、そして政府筋に提言する必要があるのではないか。モディ首相を取り巻く参謀に接触して、首相の外堀から教育する仕組みが良いのではないかと考える。
 “Make in India”を標榜するインド政府としては、日印の関係を大変重視しており、一方ではあからさまに中国を嫌う姿勢が鮮明だ。
 インド政府としてはLIBを国内で生産することをサポートする。LIBの四大部材(正極、負極、セパレータ、電解液)のどれもが現状では国内で生産できないが、とにかく“Make in India”に固執している。中国を毛嫌いしているので、中国のLIBセルが増えるようになればセルにも課税を検討する動きもあるようだ。政府は、イノベーションを促進する研究開発環境を充実させる計画をもつ。
 スズキは2017年にグジャラート州にて新工場を稼働させた。さらに、「スズキ―デンソー―東芝」が合弁でLIB生産拠点を同州に建設中。2020年の稼働と共に、スズキの電動車(日本で発売しているエネチャージ)を生産・販売することになり、インド市場における電動化の先駆けとなる。この延長上で、ホンダやトヨタのHEVがインド市場に拡散していくことを期待したい。

2018/11/22

第131回コラム

EVが減速する中国、加速する欧州
技術経営――日本の強み・韓国の強み
積極的なEV投資にはリスクも共存
2018年11月22日(木)
佐藤 登

 10月11日に「トップブランド参入で超激戦を迎えるEV市場」というタイトルのコラムを記述した。そこでは、電気自動車(EV)で先行してきた日産自動車、三菱自動車、米テスラ、そして中国ローカルメーカーに追随して、日米欧のトップブランドが本格参入する構えを打ち出していることで、EV市場は超激戦の競争を強いられることを述べた。

VWの抜きんでた電動化投資
 11月18日の日本経済新聞は、独フォルクスワーゲン(VW)がEV企業へ変身する準備に入ったことを報じた。それによると、同社は2023年までの5年間で、電動化の分野に約3兆8500億円を投資するという。25年には欧州生産分の17~20%をEVにするという積極的なEV路線をとる。
 電動化に加えて、自動運転とデジタル化の3分野に約5兆6000億円を投資するとのことなので、電動化だけの投資は全体の約70%を占めることになる。これまでの投資計画から比較すると30%の投資増に相当する。
 この投資とは別に、中国での電動化対応として5000億円強の投資を行い、2020年までに30車種のEVとプラグインハイブリッド(PHV)を市場に供給する計画とのこと。同社は既に、本年10月から上海市でEV生産工場建設に着手している。電動化投資では、先行する各社に対して断トツの投資額を示しているが、15年に発生させたディーゼル排ガス不正問題の払拭につなげるべく、かなり積極的に取り組んでいる様子が窺える。
 この一連の計画に伴い、電池生産についても触れている。独ジャーマン3(VW、ダイムラー、BMW)は、近年、モジュール(下図参照、セルユニットの集合体)以降の開発を自社内で推進する体制を整えてきた。
 今回のVWでの計画では、韓SKイノベーションと合弁でセルを生産する可能性があるという。SKイノベーション自体は元々、200億円の投資で韓国瑞山工場のリチウムイオン電池(LIB)の生産キャパを2018年内に3.9GWhまで拡大する計画を持ち、ハンガリーには850億円規模の投資で7.5GWhの生産キャパを構築し、2020年に稼働することを目標としている。さらには、中国での生産拠点を構える方針だ。今回のVWとの合弁は何処で実現させるのかは定かではないが、今後のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすものと考えられる。
 VWが19年から量産を開始するEV「I.D.」シリーズは、一充電走行距離が550kmにまで達する。EV専用プラットフォーム「MEB」を適用することで、価格もディーゼル車と同等レベルにする計画だ。EVの量産は、独東部のツウィッカ工場、北部エムデン工場、そしてハノーバー工場の3拠点で、年間100万台規模の生産を計画中とのことだ。

日系各社に迫るEV戦略
 日系自動車各社でのEV戦略も動き出している。スペイン政府は、2040年までにガソリン車、ディーゼル車、さらにはハイブリッド車(HV)までも販売を禁止する方針を示した。純然たる内燃機関自動車の制限は理解できなくもないが、電動化で燃費向上を実現しているHVまで制限するのは現実的ではない。ディーゼル車規制の代替として位置づけられるHVの価値に理解を示していないといえる。
 消費者目線で考えれば、PHVと違って家庭内に充電器を設置しなくても良いHVは、燃費特性でも内燃機関自動車を上回ることで価値が高い。その価値を否定する考えは、欧州自動車各社がHVではなくPHVやEVを積極的に推進していることで、仮にHVを市場から締め出しても欧州勢にとっては痛くもない。むしろ、HVを制限することは、HVで強いビジネスを進めているトヨタ自動車とホンダの2トップに対する牽制そのもので、欧州自動車業界の保護政策とも見える。
 2021年から30年まで段階的にCO2排出量を制限する規制が先には控えている。ただし、この規制では自動車各社の商品ラインナップに任せる形で、電動化の種類を制限していないところに合理性があった。しかし、スペイン政府のようにHVまでに制限を加えることの意図は、欧州勢が進めるPHVとEV路線に対する防壁機能としてHVを排除しようとする考えがあるのだろう。
 そのような中、特にトヨタは近年、欧州でのHV販売を急速に伸ばしている。18年1~9月の欧州販売に占めるHVとPHVの割合は46%に達した模様だ。それだけ欧州におけるHVは市民権を得ていることになる。そのトヨタも、いよいよ2020年にはレクサスブランドで多目的スポーツ車(SUV)「UX」のEVを欧州で販売する計画になっている。HVに対する風当たりが強まる中、対抗策の一つとして構える。
 ホンダも19年には欧州で小型のEVを販売する計画だ。マツダも同様に、20年には日米欧向けにEVを供給するという。いずれにしても日系各社としては、欧州自動車各社が進めつつあるPHVとEV戦略に対して十分に競合できる商品が必要とされている状況にある。
 一方、中国市場においては中国政府が2019年から適用する新エネルギー車(NEV)規制の導入に呼応した日系各社の対応が進む。トヨタはNEV対応の一環として、18年9月から合弁相手の広州汽車ブランドでのEV販売を開始した。さらに、トヨタの自社ブランドEVを20年に発売することになっている。
 ホンダは、中国専用EVである「理念VE-1」の生産を来月12月から開始する計画だ。また、提携先の広州汽車集団との合弁企業が約530億円を投じて、年産17万台のNEV生産拠点を構えるという。
 マツダは合弁相手の中国長安汽車集団と共同でLIBやモーターを調達し、マツダがデザインと車体設計を主導する形で中国専用EVとして投入する。そのEVは小型SUVベースとなる模様で、日米欧で販売する独自開発EVとは異なるという。
 日産自動車は、中国で自社ブランド初のEVを18年8月から生産を始めた。先行した日産自動車に続き、トヨタ、ホンダ、マツダが中国市場で追いかける格好だ。
 となれば、中国のEV市場で苦戦するのは外資系自動車各社と真っ向勝負を迫られる中国ローカルメーカーであることは明らかだ。これまでは大規模な補助金で支えられてきたローカルメーカーであるが、昨年から補助金の減額が進んでおり、中国のEV販売にはブレーキがかかっている。さらには本年より、一充電走行距離が300km以下のEVに対する60%程度の補助金減額、150km以下のEVに対する補助金ゼロ化、一方、400km以上の走行距離を出せるEVに対しては補助金アップなど、メリハリのある補助金政策が打ち出されている。
 400km以上の走行距離を実現できる中国ローカルメーカーは、EV最大手のBYD(2018年1~10月で16万3306台:シェア20%強)や、中国2位の北京汽車集団(同期間で11万4474台)など大手メーカーに限られる。よって、本年からは弱小のEVローカルメーカーの淘汰が始まっている。
 次なる中国市場での競争段階は、2019年から一層市場に供給される日米欧のトップブランドメーカーのEV間での競争、そして中国ローカルメーカーとの競合であろう。
 そして次なる競争が待ち構える。それは20年に撤廃される中国政府の補助金ゼロ化政策である。底上げで保護されてきた中国ローカルメーカーにとっては試練の場となる。ブランド力や技術力、信頼性や安全性の高い外資系各社のEVと真っ向勝負はできるだろうか? 現状のレベルを考えれば勝負にならないはずだ。ローカルメーカーが生き残るためには、外資系との合弁事業にて外資の技術力やノウハウに依存することが不可欠だろう。

新規参入組によるEV市場の更なる激化
 既に、英ダイソンはEV開発に多大な投資と開発を進めている。2020年以降を目標にシンガポールでの生産を開始するとのこと。家電製品での基幹デバイス開発と販売での実績は立証されているが、信頼性や安全性、耐久性が要求されるハードルが遥かに高いEV領域である。トップブランドの既存自動車各社が全面的に市場競争を繰り広げる段階で、競争力あるEVをどこまで打ち出せるのか、いささかの不安材料とリスクは拭いきれない。
 最近の11月6日に、調査会社のDIGITIMES Research社が報道した内容によれば、米アップルがEV「アップル・カー」に関して、欧州中堅自動車メーカーと台湾系の受託生産企業との協力で、計画が進行しているとのこと。一時はEV事業を断念した同社であるが、19年にはアップル・カー事業を運営する会社を他社との合弁で設立し、20年にアップル・カーの発表というロードマップのようである。この報道の信憑性は詳らかではないが、この計画が実行されることになれば、ますますEV市場の競争が拡大することになる。
 米国ゼロエミッション(ZEV)規制、中国NEV規制、欧州CO2規制等の法規が強化されていく中、電動化の勢いは止まらない。しかし、その中で中国NEV規制が適用される中国市場を中心に、そして欧州においてEV偏重と言える壮大な事業展開が起ころうとしている。
 中国政府は2020年にEVを主とする新エネ車を200万台、25年には700万台を目標に掲げる。現在、中国国内で新エネ車を生産する現地企業は250社に及ぶという。その各社が計画する新エネ車を積み上げると、年2000万台を超えるとの試算もある中、かなりの無理が共存しているのも実態だろう。
 ビジネスチャンスという理解とリスクが両輪のように動きつつあるEVシフト。勝利の方程式を導ける構図は、各市場におけるEV顧客規模の試算、使用上のハンディを極力減らせる魅力あるEVの開発、信頼性と安全性をリードできる製品戦略、補助金に依存しなくても自立できるビジネス、競合他社との差別化、電動化比率におけるEV比率のバランスなど、複雑な要素が絡み合う解が求められている。

2018/11/10

第130回コラム

EVにおける中国の政策変化は外資への追い風?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
外資排除から外資との共存へ
2018年11月8日(木)
佐藤 登

「2018 CHINA-SAE CONGRESS & EXHIBITION」の講演会の風景。多くの聴講者で賑わった

 9月13日の本コラム「爆走中国EV、電池業界に起きている異変」において、中国の電池業界について論考した。アクセス数がそれなりに多かったのは、それだけ中国市場でのエコカーおよび電池ビジネスが関心を呼んでいるということだろう。
 それから約2カ月が経過した。わずか2カ月ではあるが、物事はいろいろ動いている。特に、中国市場におけるエコカーの動向と、そこにつながる電池業界では大きな変化があった。このような変化が起きている中、11月6~8日には中国・上海市で、中国自動車技術会(日本の自動車技術会に相当)主催の講演会と展示会「2018 CHINA-SAE CONGRESS & EXHIBITION」が開催された。筆者はこの中で、「新エネルギー車に関する技術と評価」のセッションに招かれ講演した。日本からは自動車技術会会長の坂本秀行氏(日産自動車副社長)、本田技研工業常務の三部敏宏氏が基調講演にあたった。

エコカーライセンスの効力は失効?
 2016年に発効した中国政府の「エコカーライセンス」は、中国産業保護政策の一環として打ち出された。プラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の3種類に限定したエコカーについて、生産~販売を許可するためのライセンスを与えるとの内容。既にエコカーで実績のあるBYDや上海汽車は対象外であったが、全20席のみにライセンスを与えるとした。
 早速、北京汽車を始め、ローカルの自動車メーカー、そして新規参入組の部品メーカーが名を連ね、14席が早々に指定された。その後暫くは、落ち着いていた本ライセンスであるが、17年秋に独フォルクスワーゲン(VW)が中国の安徽江淮汽車(JAC)と合弁で立ち上げたJAC Volkswagenが15番目に登録された。それまでは外資各社による中国の合弁会社は最大2社までという制約があったが、VWとしてはエコカー生産を目的にした3社目を必要としていた。そこで、独メルケル首相のトップ外交により特例として3社目の合弁が認められた。と同時に、JAC Volkswagenが外資として初めてライセンス登録されたのである。
 しかし、その後はどうだろう。16社目以降は話題として上っていないように映る。筆者はこれまで、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車のロビー活動について尋ねたが、各社はいずれも個別にロビー活動を展開しているとのことだった。しかし、現時点で日系各社が登録されているわけではない。
 10月22日から中国・江西省の行政一行20人が訪日し、10日間ほど滞在した。団長は日本でいえば経済産業省局長級を筆頭に、政策行政に関わる重鎮で構成されていた。江西省は資源が豊富な地区で、特にリチウムイオン電池(LIB)に必要な資源が豊富であることから、今後の資源政策や資源ビジネスを考える上で、日本の視察や講義を受けるために訪日したとのことだ。
 筆者は訪日直前に講義を依頼され23日に対応した。1時間のレクチャーの中で、このエコカーライセンスについて筆者が当行政側に尋ねたところ、「エコカーライセンスの枠は15番で止まっていて進んでいない」とのことだった。どうやら、このライセンス自体があまり意味をなさなくなっているような雰囲気であった。
 確かに中国政府もその後、規制緩和に乗り出した。これまで外資が合弁を形成する際の資本比率は49%が最大とされていたが、これを50%以上に拡大し外資が主導権を取れるように転換した。中国にLIB生産工場とEV生産工場を構えようとしている米テスラは、100%の自己資本での計画を進めているようだ。
 ではなぜ、中国政府は急にこのような転換を行ったのだろうか? エコカーで自動車強国を標榜する中国にとって、外資は重要な存在である。いくらエンジンがないEVを開発するとしても、LIBやモーター、インバーターなどの基幹デバイスは中国ローカルメーカーより外資の方が明らかに先行している。EV自体も全く同様であるから、外資の参入がなければ中国のEV政策は技術的に進化しない。だからこそ、外資に対する規制より緩和を優先する方針に切り替えたのだろう。
 とすれば、エコカーライセンスで外資をけん制する方策は正しいとは言えなくなる。したがって16番目以降の指定席を埋めることより、このライセンスの箍(たが)を外す方が得策と考えているとしたら、このライセンス規定は事実上失効しているのではないか。それよりも、自動車各社にエコカーの義務付けを強化することの方が技術は進化する。
 一方で、エコカーに対する補助金は2020年をもって終了予定だ。昨年から既に補助金減額が進行していることで、EV販売にブレーキがかかっていることは否めない。このまま20年の補助金廃止が進めば、ローカルのEVメーカーやLIBメーカーの大規模倒産、そして部材各社が経営悪化に至るだろうことを以前のコラムでも執筆した。18年からは、一充電走行距離が300km以下のEVについては前年対比で60%近くの大幅な減額が施行されている。また、150km以下のEVについては補助金を廃止、逆に400km以上のEVについては80万円程度まで補助金を拡大した。
 300km以下のEVが半数を占める中国EV群にとっては、淘汰の波が押し寄せている。2020年の補助金撤廃が実施されると、想像を超える混乱が中国市場で起こることは想像に難くない。

ホワイトリストの効力も失効か?
 中国政府が打ち出した「バッテリー模範基準認証」、すなわちホワイトリストも中国国内のLIBメーカーの保護政策として発したものである。これはこのリストに登録されたLIBを適用したEVには補助金が付く政策である。これまで75社ほど登録されているようだが、外資が登録されることはなかった。韓国のLG化学とサムスンSDIは幾度に亘る交渉も空しいままに終わり、大連にLIB生産拠点を構えたパナソニックもしかりである。
 しかし、このホワイトリストも効力を失いつつある。2020年にエコカーの補助金が撤廃されれば同時に、このリストも失効する。となれば、これまでエコカー市場から排除されてきた日韓電池メーカー各社にとっては状況が一変する。全くフリーな状況になり、国内ローカルメーカーとの競争は対等な関係になる。とすれば、日韓勢電池各社にとっては追い風となる。
 中国CATLとBYDに続く中国3位のEV用電池メーカーのOptimumNano Energy(昨年の中国市場シェア6.5%)は資金難となって、本年7月から生産ラインの稼働を半年間の予定で中断している。これまでは電池メーカーの設備投資にも補助金が大いに貢献し、各社の積極的な投資競争が展開されてきた。しかし、売掛債権などを担保で資金を借り生産設備を増やしてきたものの、EVへの補助金減額に伴いEV販売伸び率低減と共にLIBの過剰供給が続いており、このような状況になっている。
 ナンジンイルロンニューエナジー(昨年の中国市場LIBシェア2.2%)は、経営難で生産設備を差し押さえられたという。他にも中国の中小規模のLIBメーカーの破綻が相次いでいる模様だ。中国自動車技術研究センター(CATARC)によると、今年、中国ローカルLIBメーカーの約30%が廃業したとのこと。
 大韓貿易投資振興公社(KOTRA)中国地域本部南京貿易館によれば、「中国ローカル100社ほどの上場LIBメーカーのうち半分の52社が純損失を出した」とし、「2020年前後に全体の90%が危機を迎えるだろう」と予想している。中国政府の政策に無理があったことの裏付けととれる。
 2017年3月、中国政府は20年までEV用LIBの生産能力を拡大する「バッテリー産業促進案」を発表した。その後、大手のCATLやBYDなど上位10社は1年間で、生産キャパを99.5GWhから146.1GWhと、150%程度にまで拡大した。補助金を受けて背伸びをしすぎ、生産設備の拡張を実施してきた電池各社が、今は経営悪化に陥っているということだ。

日韓LIBメーカーの巻き返しなるか?
 中国政府が提供する補助金要件を満たすためには、EVの航続距離を拡大することが前提になる。それはすなわち、エネルギー密度(Wh/kg、およびWh/L)の高いLIBを適用することが必要とされる。中国ローカルのLIBメーカーでは、エネルギー密度を大きくしづらいオリビン酸鉄(LiFePO4)を正極に用いるケースが多く、高密度LIBを供給できるメーカーは限定されている。そこに、中国政府の補助金政策が終わりをつげれば、日韓LIB企業も中国企業と対等な競争が可能となる。結局は、韓国のLG化学、サムスンSDI、SKイノベーション、そしてパナソニック製のLIBが適用される可能性が高まっている。
 実際、韓国勢には勢いが付いてきた節がある。サムスンSDIは英ジャガーランドローバーの次世代EVへLIBを単独供給する契約を締結している。一方、LG化学は東南アジア市場に注目してベトナム自動車企業のビンファストと事業協力了解覚書を締結している。LG化学やサムスンSDIに追随し、SKイノベーションも850億円の大投資で、ハンガリーにLIB工場を新設中である。
 そのSKイノベーションはLIBへの大投資に加えて、2018年10月7日、中国江蘇省常州にLIB用従来セパレータとセラミックコーティングセパレータの生産工場を新設すると発表した。SKイノベーションによると、今回の常州工場建設は素材事業では初の海外進出とのこと。目的は、中国市場でのEV用LIBの需要を見込んだもので、投資総額は約400億円、2020年第3四半期の量産化を目指すとのこと。
 いずれにしてもこのような投資戦略は、中国市場における中国政府の政策とリンクするもので、常に政策と良循環で同期する戦略が求められている。中国の電池産業界の育成も、エコカーと同様に、外資の力が必要なのは明白だ。だからこそ外資排除ではなく、外資との共存を描いた中国側の戦略が進行しつつある。

2018/10/25

第129回コラム

グローバル会議を通じて考える日韓の強み
技術経営――日本の強み・韓国の強み
2018年10月25日(木)
佐藤 登

 本コラムの主題である「技術経営――日本の強み 韓国の強み」に相応しいフォーラムが10月18日にソウルで開催された。韓国メディア大手のECONOMY CHOSUNが主催した「Global Conference」である。同社が主催するフォーラムは毎年テーマが異なる。過去には経済分野を採り上げたフォーラムもあり、ノーベル経済学賞受賞者も登壇している。一方、今回のフォーラムは、「日本に学ぶ」というコンセプトに設定された。その結果、講演者6人は全て日本人という構成で開催された。
 グローバルビジネスの先端を走る投資家でMistletoe CEOの孫泰蔵さん、政治分野では内閣官房参与の浜田宏一さん、産業分野で筆者、大学側からは韓国を30年に及んで研究している早稲田大学の深川由起子教授、そして中小企業の代表格として石坂産業の石坂典子社長、日本レーザーの近藤宣之社長という講師陣。70分前後の講演と対談が執り行われた。参加費は2万円近くであったものの、約250人が聴講した。
 孫さんの話は、スタートアップ企業やベンチャーなどを発掘し、そこに投資をするビジネスモデル、起業するための心構え、そして日本の教育方針に対する提言などで、韓国の若い世代が関心をもって耳を傾けていた。浜田さんの講演は、アベノミクスの成果を中心に、深川教授は日韓の働き方などを中心に話題を提供した。

産業分野での日韓比較
 筆者は、ホンダとサムスンでの経験を通じて技術経営を分析した内容について講演した。例えば、ホンダでのイノベーションの代表格はホンダジェットの航空機だ。なぜこれが事業化に至ったのか。二足歩行ロボット「アシモ」も燃料電池車(FCV)もそうであるが、1986年に埼玉県和光市に創設された「和光研究センター」の機能に遡る。二輪事業、四輪事業などの既存事業とは全く異なる新規事業化のための使命のもとで進められた研究開発、そしてその成果である。2018年10月10日現在、85機を納入した航空機事業もFCVも、事業化に至るまでには、なんと30年の歳月を要したのである。
 この長きにわたる研究開発を持続するのは並大抵ではない。三菱電機のSiCパワー半導体も30年近い研究開発によって実用化されたが、開発陣も世代を超えてつなぐ必要があるし、経営陣にもそれ以上の連携が問われる。ホンダジェットも途中で中断の危機に見舞われたが、開発陣の情熱が経営トップを説得したといういきさつがある。だからこそ、その根底には経営陣と開発陣との密なコミュニケーションによる信頼関係が不可欠だ。
 一方、サムスンでの研究開発も事業化を意識して十分になされているものの、事業化までに20~30年の長きにわたるテーマはまずない。時間をM&Aなどの手段で短縮化して、タイミングを見計らって早期に事業化を展開することが得意である。それによって、世界トップの半導体事業、スマホ事業、モバイル用有機EL(エレクトロルミネッセンス)事業、薄型テレビ事業などでの存在感は極めて大きい。テレビ用の大型有機ELは、同じ韓国勢のLGディスプレーが市場を独占している。
 しかし、日本市場だけを見てみると必ずしも韓国勢の存在感が大きいとは言えない。以下の図にその状況を示す。
 有機ELやメモリー半導体は日本市場でも強いが、薄型テレビ、家電、自動車、素材・部材、装置の存在感は大きく低下する。現代自動車の日本販売店はすでに封鎖したし、車載用リチウムイオン電池(LIB)も、三菱ふそうのEVトラックに使われている韓国SKイノベーション製が唯一である。
 これは取りも直さず、その分野では日本の業界がそれぞれに強いからであり、そこに日本の強みの根幹がある。韓国の事業構造は、電機業界、自動車業界、造船業界を中心とする、いわゆるセット事業に強みがあるのは事実である。反面、素材・部材事業や装置事業などの基盤事業は弱体だ。サムスンのスマホにしても、日本の部材が多く採用されていることがそれを裏付けている。

日本の強みとその課題
 このフォーラムが開催される直前、世界経済フォーラムは140の国・地域の国際競争力ランキングを発表した。ランキングは12分野、全98の指標を統計などから指数化している。
 日本は、2015年6位、16年8位、17年9位と下降線をたどってきた。これは技術革新の評価が相対的に低くなったことが影響した。しかし、今回の18年版では5位に浮上している。市場開放性を重視するなどで評価指標を変えたというものの、それは他国も共通なので素直に喜んでも良いだろう。
 健康が1位、これに加えて食文化のこれまでの高評価、技術革新の再評価、成人の93%が日常的にインターネットを使用していることでのデジタル技術分野の高評価(3位)などの結果である。一方で社会資本は95位、企業統治は90位と大変低い評価となっている。企業統治では、製造業各社のデータ改ざんなどの不正問題が大いに影響したであろう。
 これもまた、このフォーラムの直前であったが、KYBのオイルダンパーのデータ改ざん問題が内部告発をきっかけに明るみに出た。現在、公共事業や原子力発電設備、マンション等々、対象は多岐にわたり大問題に発展している。本フォーラムでの日本に学ぶというコンセプトとは裏腹に、学んではいけない事柄として、これまでの神戸製鋼や三菱マテリアルのデータ改ざん、トヨタグループとホンダを除く日本の乗用車メーカー5社の完成車検査不正や燃費・排ガスデータ改ざん、そしてKYBによるデータ改ざんなど、日本の恥の部分として説明せざるを得なかったことは悲しい限りであった。
 ちなみに、09年から17年までトップの座をスイスに明け渡していた米国が、今回トップに返り咲いた。起業を後押しする文化、労働市場、ビジネス活力などが高い評価を受けている。課題は治安や健康分野とのこと。2位以下は、シンガポール、ドイツ、スイス、日本、オランダ、香港、英国、スウェーデン、デンマークと続く。韓国も昨年の26位から15位に急浮上した。
 ここで改めて日本の強みを以下に整理してみる。先に述べたホンダの事例のように、企業でも30年に及ぶ研究開発、科学部門では23人のノーベル賞受賞者、大企業と渡り合う中小企業の底力といったものは日本が世界に誇れる姿である。その結果でもあるように、日本には個人商店や小企業まで含めると創業100年を超える企業は10万社、1000年超えは7社もあるとされている。このような光景は韓国では全く見ることができない。
 ただし、今後の課題もある。数十年の長きにわたって研究開発を続ける企業が減ってきたこと。ノーベル賞のテーマも数十年に及ぶ長い道程と地道な努力があってこそだが、大学や研究機関を中心とする成果主義の圧力や研究費の貧弱さなど、体制弱体化がマスコミを賑わすほどになっているのが現状だ。今後のノーベル賞級の研究が、どこまで持続できるかが大きな課題となって立ちはだかっている。
 小企業でも世界に誇れる企業は日本にたくさんある。しかし、今後の課題は後継者による承継問題だ。良好な事業で経営環境も優れた企業でさえ、会社を畳むことが珍しくなくなっている。存在感のあるオンリーワン企業や、業界のトップを走る優良企業が廃業せざるを得ないという大変勿体ない事態が、今後もますます拡大されようとしている。創意工夫による新たなビジネスモデルを考える転換期に達している。

自前主義からの脱却
 ホンダの自前主義は伝統的に受け継がれてきた。ここに来て、軌道修正を図るビジネスモデルを積極的に推進している。米ゼネラルモーターズ(GM)とのFCV共同開発、同社との車載用電池の共同開発も進めている。直近の話題としては、以下の図に見る自動運転に関しての連携だ。既にソフトバンク、米グーグル、米エヌビデアとの連携を進めてきたホンダは、新たにGMとの共同開発にまで踏み込んだ。この連携により、グーグルとの連携に影響が生じることも考えられる。
ともかくかように、100年に1度と言われる自動車産業のパラダイムシフト、その両輪となっている電動化と自動運転の両分野に対して、ホンダとGMが急接近している。
 トヨタ自動車もつい最近、自動運転分野に関してソフトバンクとの連携を発表した。電動化では世界のトップを走ってきた日本の自動車業界ではあるが、自動運転では米国勢や独勢に対して劣勢な立ち位置にいる。この波に乗り遅れることは、業界勢力図に大きく影響することで緊張感が漂う。自動運転は真に覇権争いの段階に突入しているが、今後もグローバルアライアンスの波は大きくなるばかりだろう。

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