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2018/11/10

第130回コラム

EVにおける中国の政策変化は外資への追い風?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
外資排除から外資との共存へ
2018年11月8日(木)
佐藤 登

「2018 CHINA-SAE CONGRESS & EXHIBITION」の講演会の風景。多くの聴講者で賑わった

 9月13日の本コラム「爆走中国EV、電池業界に起きている異変」において、中国の電池業界について論考した。アクセス数がそれなりに多かったのは、それだけ中国市場でのエコカーおよび電池ビジネスが関心を呼んでいるということだろう。
 それから約2カ月が経過した。わずか2カ月ではあるが、物事はいろいろ動いている。特に、中国市場におけるエコカーの動向と、そこにつながる電池業界では大きな変化があった。このような変化が起きている中、11月6~8日には中国・上海市で、中国自動車技術会(日本の自動車技術会に相当)主催の講演会と展示会「2018 CHINA-SAE CONGRESS & EXHIBITION」が開催された。筆者はこの中で、「新エネルギー車に関する技術と評価」のセッションに招かれ講演した。日本からは自動車技術会会長の坂本秀行氏(日産自動車副社長)、本田技研工業常務の三部敏宏氏が基調講演にあたった。

エコカーライセンスの効力は失効?
 2016年に発効した中国政府の「エコカーライセンス」は、中国産業保護政策の一環として打ち出された。プラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の3種類に限定したエコカーについて、生産~販売を許可するためのライセンスを与えるとの内容。既にエコカーで実績のあるBYDや上海汽車は対象外であったが、全20席のみにライセンスを与えるとした。
 早速、北京汽車を始め、ローカルの自動車メーカー、そして新規参入組の部品メーカーが名を連ね、14席が早々に指定された。その後暫くは、落ち着いていた本ライセンスであるが、17年秋に独フォルクスワーゲン(VW)が中国の安徽江淮汽車(JAC)と合弁で立ち上げたJAC Volkswagenが15番目に登録された。それまでは外資各社による中国の合弁会社は最大2社までという制約があったが、VWとしてはエコカー生産を目的にした3社目を必要としていた。そこで、独メルケル首相のトップ外交により特例として3社目の合弁が認められた。と同時に、JAC Volkswagenが外資として初めてライセンス登録されたのである。
 しかし、その後はどうだろう。16社目以降は話題として上っていないように映る。筆者はこれまで、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車のロビー活動について尋ねたが、各社はいずれも個別にロビー活動を展開しているとのことだった。しかし、現時点で日系各社が登録されているわけではない。
 10月22日から中国・江西省の行政一行20人が訪日し、10日間ほど滞在した。団長は日本でいえば経済産業省局長級を筆頭に、政策行政に関わる重鎮で構成されていた。江西省は資源が豊富な地区で、特にリチウムイオン電池(LIB)に必要な資源が豊富であることから、今後の資源政策や資源ビジネスを考える上で、日本の視察や講義を受けるために訪日したとのことだ。
 筆者は訪日直前に講義を依頼され23日に対応した。1時間のレクチャーの中で、このエコカーライセンスについて筆者が当行政側に尋ねたところ、「エコカーライセンスの枠は15番で止まっていて進んでいない」とのことだった。どうやら、このライセンス自体があまり意味をなさなくなっているような雰囲気であった。
 確かに中国政府もその後、規制緩和に乗り出した。これまで外資が合弁を形成する際の資本比率は49%が最大とされていたが、これを50%以上に拡大し外資が主導権を取れるように転換した。中国にLIB生産工場とEV生産工場を構えようとしている米テスラは、100%の自己資本での計画を進めているようだ。
 ではなぜ、中国政府は急にこのような転換を行ったのだろうか? エコカーで自動車強国を標榜する中国にとって、外資は重要な存在である。いくらエンジンがないEVを開発するとしても、LIBやモーター、インバーターなどの基幹デバイスは中国ローカルメーカーより外資の方が明らかに先行している。EV自体も全く同様であるから、外資の参入がなければ中国のEV政策は技術的に進化しない。だからこそ、外資に対する規制より緩和を優先する方針に切り替えたのだろう。
 とすれば、エコカーライセンスで外資をけん制する方策は正しいとは言えなくなる。したがって16番目以降の指定席を埋めることより、このライセンスの箍(たが)を外す方が得策と考えているとしたら、このライセンス規定は事実上失効しているのではないか。それよりも、自動車各社にエコカーの義務付けを強化することの方が技術は進化する。
 一方で、エコカーに対する補助金は2020年をもって終了予定だ。昨年から既に補助金減額が進行していることで、EV販売にブレーキがかかっていることは否めない。このまま20年の補助金廃止が進めば、ローカルのEVメーカーやLIBメーカーの大規模倒産、そして部材各社が経営悪化に至るだろうことを以前のコラムでも執筆した。18年からは、一充電走行距離が300km以下のEVについては前年対比で60%近くの大幅な減額が施行されている。また、150km以下のEVについては補助金を廃止、逆に400km以上のEVについては80万円程度まで補助金を拡大した。
 300km以下のEVが半数を占める中国EV群にとっては、淘汰の波が押し寄せている。2020年の補助金撤廃が実施されると、想像を超える混乱が中国市場で起こることは想像に難くない。

ホワイトリストの効力も失効か?
 中国政府が打ち出した「バッテリー模範基準認証」、すなわちホワイトリストも中国国内のLIBメーカーの保護政策として発したものである。これはこのリストに登録されたLIBを適用したEVには補助金が付く政策である。これまで75社ほど登録されているようだが、外資が登録されることはなかった。韓国のLG化学とサムスンSDIは幾度に亘る交渉も空しいままに終わり、大連にLIB生産拠点を構えたパナソニックもしかりである。
 しかし、このホワイトリストも効力を失いつつある。2020年にエコカーの補助金が撤廃されれば同時に、このリストも失効する。となれば、これまでエコカー市場から排除されてきた日韓電池メーカー各社にとっては状況が一変する。全くフリーな状況になり、国内ローカルメーカーとの競争は対等な関係になる。とすれば、日韓勢電池各社にとっては追い風となる。
 中国CATLとBYDに続く中国3位のEV用電池メーカーのOptimumNano Energy(昨年の中国市場シェア6.5%)は資金難となって、本年7月から生産ラインの稼働を半年間の予定で中断している。これまでは電池メーカーの設備投資にも補助金が大いに貢献し、各社の積極的な投資競争が展開されてきた。しかし、売掛債権などを担保で資金を借り生産設備を増やしてきたものの、EVへの補助金減額に伴いEV販売伸び率低減と共にLIBの過剰供給が続いており、このような状況になっている。
 ナンジンイルロンニューエナジー(昨年の中国市場LIBシェア2.2%)は、経営難で生産設備を差し押さえられたという。他にも中国の中小規模のLIBメーカーの破綻が相次いでいる模様だ。中国自動車技術研究センター(CATARC)によると、今年、中国ローカルLIBメーカーの約30%が廃業したとのこと。
 大韓貿易投資振興公社(KOTRA)中国地域本部南京貿易館によれば、「中国ローカル100社ほどの上場LIBメーカーのうち半分の52社が純損失を出した」とし、「2020年前後に全体の90%が危機を迎えるだろう」と予想している。中国政府の政策に無理があったことの裏付けととれる。
 2017年3月、中国政府は20年までEV用LIBの生産能力を拡大する「バッテリー産業促進案」を発表した。その後、大手のCATLやBYDなど上位10社は1年間で、生産キャパを99.5GWhから146.1GWhと、150%程度にまで拡大した。補助金を受けて背伸びをしすぎ、生産設備の拡張を実施してきた電池各社が、今は経営悪化に陥っているということだ。

日韓LIBメーカーの巻き返しなるか?
 中国政府が提供する補助金要件を満たすためには、EVの航続距離を拡大することが前提になる。それはすなわち、エネルギー密度(Wh/kg、およびWh/L)の高いLIBを適用することが必要とされる。中国ローカルのLIBメーカーでは、エネルギー密度を大きくしづらいオリビン酸鉄(LiFePO4)を正極に用いるケースが多く、高密度LIBを供給できるメーカーは限定されている。そこに、中国政府の補助金政策が終わりをつげれば、日韓LIB企業も中国企業と対等な競争が可能となる。結局は、韓国のLG化学、サムスンSDI、SKイノベーション、そしてパナソニック製のLIBが適用される可能性が高まっている。
 実際、韓国勢には勢いが付いてきた節がある。サムスンSDIは英ジャガーランドローバーの次世代EVへLIBを単独供給する契約を締結している。一方、LG化学は東南アジア市場に注目してベトナム自動車企業のビンファストと事業協力了解覚書を締結している。LG化学やサムスンSDIに追随し、SKイノベーションも850億円の大投資で、ハンガリーにLIB工場を新設中である。
 そのSKイノベーションはLIBへの大投資に加えて、2018年10月7日、中国江蘇省常州にLIB用従来セパレータとセラミックコーティングセパレータの生産工場を新設すると発表した。SKイノベーションによると、今回の常州工場建設は素材事業では初の海外進出とのこと。目的は、中国市場でのEV用LIBの需要を見込んだもので、投資総額は約400億円、2020年第3四半期の量産化を目指すとのこと。
 いずれにしてもこのような投資戦略は、中国市場における中国政府の政策とリンクするもので、常に政策と良循環で同期する戦略が求められている。中国の電池産業界の育成も、エコカーと同様に、外資の力が必要なのは明白だ。だからこそ外資排除ではなく、外資との共存を描いた中国側の戦略が進行しつつある。

2018/10/25

第129回コラム

グローバル会議を通じて考える日韓の強み
技術経営――日本の強み・韓国の強み
2018年10月25日(木)
佐藤 登

 本コラムの主題である「技術経営――日本の強み 韓国の強み」に相応しいフォーラムが10月18日にソウルで開催された。韓国メディア大手のECONOMY CHOSUNが主催した「Global Conference」である。同社が主催するフォーラムは毎年テーマが異なる。過去には経済分野を採り上げたフォーラムもあり、ノーベル経済学賞受賞者も登壇している。一方、今回のフォーラムは、「日本に学ぶ」というコンセプトに設定された。その結果、講演者6人は全て日本人という構成で開催された。
 グローバルビジネスの先端を走る投資家でMistletoe CEOの孫泰蔵さん、政治分野では内閣官房参与の浜田宏一さん、産業分野で筆者、大学側からは韓国を30年に及んで研究している早稲田大学の深川由起子教授、そして中小企業の代表格として石坂産業の石坂典子社長、日本レーザーの近藤宣之社長という講師陣。70分前後の講演と対談が執り行われた。参加費は2万円近くであったものの、約250人が聴講した。
 孫さんの話は、スタートアップ企業やベンチャーなどを発掘し、そこに投資をするビジネスモデル、起業するための心構え、そして日本の教育方針に対する提言などで、韓国の若い世代が関心をもって耳を傾けていた。浜田さんの講演は、アベノミクスの成果を中心に、深川教授は日韓の働き方などを中心に話題を提供した。

産業分野での日韓比較
 筆者は、ホンダとサムスンでの経験を通じて技術経営を分析した内容について講演した。例えば、ホンダでのイノベーションの代表格はホンダジェットの航空機だ。なぜこれが事業化に至ったのか。二足歩行ロボット「アシモ」も燃料電池車(FCV)もそうであるが、1986年に埼玉県和光市に創設された「和光研究センター」の機能に遡る。二輪事業、四輪事業などの既存事業とは全く異なる新規事業化のための使命のもとで進められた研究開発、そしてその成果である。2018年10月10日現在、85機を納入した航空機事業もFCVも、事業化に至るまでには、なんと30年の歳月を要したのである。
 この長きにわたる研究開発を持続するのは並大抵ではない。三菱電機のSiCパワー半導体も30年近い研究開発によって実用化されたが、開発陣も世代を超えてつなぐ必要があるし、経営陣にもそれ以上の連携が問われる。ホンダジェットも途中で中断の危機に見舞われたが、開発陣の情熱が経営トップを説得したといういきさつがある。だからこそ、その根底には経営陣と開発陣との密なコミュニケーションによる信頼関係が不可欠だ。
 一方、サムスンでの研究開発も事業化を意識して十分になされているものの、事業化までに20~30年の長きにわたるテーマはまずない。時間をM&Aなどの手段で短縮化して、タイミングを見計らって早期に事業化を展開することが得意である。それによって、世界トップの半導体事業、スマホ事業、モバイル用有機EL(エレクトロルミネッセンス)事業、薄型テレビ事業などでの存在感は極めて大きい。テレビ用の大型有機ELは、同じ韓国勢のLGディスプレーが市場を独占している。
 しかし、日本市場だけを見てみると必ずしも韓国勢の存在感が大きいとは言えない。以下の図にその状況を示す。
 有機ELやメモリー半導体は日本市場でも強いが、薄型テレビ、家電、自動車、素材・部材、装置の存在感は大きく低下する。現代自動車の日本販売店はすでに封鎖したし、車載用リチウムイオン電池(LIB)も、三菱ふそうのEVトラックに使われている韓国SKイノベーション製が唯一である。
 これは取りも直さず、その分野では日本の業界がそれぞれに強いからであり、そこに日本の強みの根幹がある。韓国の事業構造は、電機業界、自動車業界、造船業界を中心とする、いわゆるセット事業に強みがあるのは事実である。反面、素材・部材事業や装置事業などの基盤事業は弱体だ。サムスンのスマホにしても、日本の部材が多く採用されていることがそれを裏付けている。

日本の強みとその課題
 このフォーラムが開催される直前、世界経済フォーラムは140の国・地域の国際競争力ランキングを発表した。ランキングは12分野、全98の指標を統計などから指数化している。
 日本は、2015年6位、16年8位、17年9位と下降線をたどってきた。これは技術革新の評価が相対的に低くなったことが影響した。しかし、今回の18年版では5位に浮上している。市場開放性を重視するなどで評価指標を変えたというものの、それは他国も共通なので素直に喜んでも良いだろう。
 健康が1位、これに加えて食文化のこれまでの高評価、技術革新の再評価、成人の93%が日常的にインターネットを使用していることでのデジタル技術分野の高評価(3位)などの結果である。一方で社会資本は95位、企業統治は90位と大変低い評価となっている。企業統治では、製造業各社のデータ改ざんなどの不正問題が大いに影響したであろう。
 これもまた、このフォーラムの直前であったが、KYBのオイルダンパーのデータ改ざん問題が内部告発をきっかけに明るみに出た。現在、公共事業や原子力発電設備、マンション等々、対象は多岐にわたり大問題に発展している。本フォーラムでの日本に学ぶというコンセプトとは裏腹に、学んではいけない事柄として、これまでの神戸製鋼や三菱マテリアルのデータ改ざん、トヨタグループとホンダを除く日本の乗用車メーカー5社の完成車検査不正や燃費・排ガスデータ改ざん、そしてKYBによるデータ改ざんなど、日本の恥の部分として説明せざるを得なかったことは悲しい限りであった。
 ちなみに、09年から17年までトップの座をスイスに明け渡していた米国が、今回トップに返り咲いた。起業を後押しする文化、労働市場、ビジネス活力などが高い評価を受けている。課題は治安や健康分野とのこと。2位以下は、シンガポール、ドイツ、スイス、日本、オランダ、香港、英国、スウェーデン、デンマークと続く。韓国も昨年の26位から15位に急浮上した。
 ここで改めて日本の強みを以下に整理してみる。先に述べたホンダの事例のように、企業でも30年に及ぶ研究開発、科学部門では23人のノーベル賞受賞者、大企業と渡り合う中小企業の底力といったものは日本が世界に誇れる姿である。その結果でもあるように、日本には個人商店や小企業まで含めると創業100年を超える企業は10万社、1000年超えは7社もあるとされている。このような光景は韓国では全く見ることができない。
 ただし、今後の課題もある。数十年の長きにわたって研究開発を続ける企業が減ってきたこと。ノーベル賞のテーマも数十年に及ぶ長い道程と地道な努力があってこそだが、大学や研究機関を中心とする成果主義の圧力や研究費の貧弱さなど、体制弱体化がマスコミを賑わすほどになっているのが現状だ。今後のノーベル賞級の研究が、どこまで持続できるかが大きな課題となって立ちはだかっている。
 小企業でも世界に誇れる企業は日本にたくさんある。しかし、今後の課題は後継者による承継問題だ。良好な事業で経営環境も優れた企業でさえ、会社を畳むことが珍しくなくなっている。存在感のあるオンリーワン企業や、業界のトップを走る優良企業が廃業せざるを得ないという大変勿体ない事態が、今後もますます拡大されようとしている。創意工夫による新たなビジネスモデルを考える転換期に達している。

自前主義からの脱却
 ホンダの自前主義は伝統的に受け継がれてきた。ここに来て、軌道修正を図るビジネスモデルを積極的に推進している。米ゼネラルモーターズ(GM)とのFCV共同開発、同社との車載用電池の共同開発も進めている。直近の話題としては、以下の図に見る自動運転に関しての連携だ。既にソフトバンク、米グーグル、米エヌビデアとの連携を進めてきたホンダは、新たにGMとの共同開発にまで踏み込んだ。この連携により、グーグルとの連携に影響が生じることも考えられる。
ともかくかように、100年に1度と言われる自動車産業のパラダイムシフト、その両輪となっている電動化と自動運転の両分野に対して、ホンダとGMが急接近している。
 トヨタ自動車もつい最近、自動運転分野に関してソフトバンクとの連携を発表した。電動化では世界のトップを走ってきた日本の自動車業界ではあるが、自動運転では米国勢や独勢に対して劣勢な立ち位置にいる。この波に乗り遅れることは、業界勢力図に大きく影響することで緊張感が漂う。自動運転は真に覇権争いの段階に突入しているが、今後もグローバルアライアンスの波は大きくなるばかりだろう。

2018/10/12

トップブランド参入で超激戦を迎えるEV市場

技術経営――日本の強み・韓国の強み

テスラ包囲が着々と進む

2018年10月11日(木)

佐藤 登

 9月27日のコラム「中国製リチウム電池が信頼できない理由」には大きな関心を寄せて頂いた。今回は、今後展開される電動化シフトの中でも、特に超激戦区となる電気自動車(EV)に関して、起こり得る状況について考察したい。

自動車業界に迫る環境規制
 上記の表は2018年、およびそれ以降に発効する各種の環境規制を示す。この中で、米国ゼロエミッション自動車(ZEV)規制、そして19年に発効する中国新エネルギー車(NEV)規制で、ハイブリッド車(HV)はクレジットの対象外とされている。これは取りも直さず、HVではトヨタ自動車とホンダが2トップとして市場を席巻していることから、HVをクレジット対象としても恩恵を受けられない自動車各社が大半であることが、規制枠設定で影響したと考えるべきだ。
 そのような意味から、ZEV規制もNEV規制も合理性はやや欠けると感じられ、特にNEV規制では内燃機関を含まないEVに著しく偏重していることに疑問を感じる。中国の発電システムを低効率な石炭発電に委ねている現状では、CO2およびPM2.5の削減は、全くと言って良いほど期待できないのであるから。
 一方、欧州が進めるCO2規制は2021年から適用されるが、これは地球温暖化を抑止する政策としての合意事項である。そしてその規制を満たす自動車の手段は問わず、自動車各社の都合で設定できるものであり、合理性が高いといえよう。

日本勢がPHVで存在感
 そのような中、各種規制のクレジット枠に入るプラグインハイブリッド車(PHV)とEVの商品開発および技術開発に、自動車業界は大きな舵を切っている。
 PHVでは日本勢が新車攻勢で存在感を発揮している。2017年2月に発売したトヨタのプリウスPHVは12年のPHVと比較して、リチウムイオン電池(LIB)の搭載容量を2倍の8.8kWhまで増やし、EVモード走行で68.2kmを実現した。12年のPHVはEV走行では26.4kmのみだったことで消費者からの不満が噴出したこと、そしてEV走行距離に応じて得られるクレジットが拡大することで、新型でのEV走行を大きく伸ばした設計とした。
 ホンダが2013年に市場へ供給したアコードPHVでは、6.7kWhのLIB搭載でEV走行は37.6kmであった。それに対して18年7月に新発売したクラリティPHVでは17kWhのLIBを搭載し、何とEV走行を114.6kmにまで拡大した。限りなくEVに近いPHVであるが、プリウスPHVとの差別化を図る意味を込めた設計と映る。
 そして三菱自動車も2018年8月に新型アウトランダーPHVを発売した。LIBは13年の前モデルに比較して、容量を15%向上させ13.8kWhに設計変更した。アウトランダーPHVは、これまでグローバル累計販売が14万台を超えている人気の旗艦モデルとなっている。PHVでは日本勢各社の新商品を軸に、今後、グローバル競争が本格的になる。

超激戦のEV市場にどう対峙するか
 PHVに対してEV市場ではさらに異なる状況が待ち構える。EVでは2009年に発売を開始した三菱自動車の「i-MiEV」、10年に発売した日産自動車の「リーフ」が先行した。そして米テスラの「モデルS」が市場に出現すると大きな話題を呼び、バックオーダーも相当数抱える状況が生じた。そのモデルSは13年に5台の火災事故を立て続けに発生させたが、それでも人気への陰りはなかった。参入企業が少なかったその時点での存在感は殊更大きく、それ以外で起きた火災事故でも、その勢いの方が勝っていた。
 しかし、今後はどうであろう。状況はがらりと一変する。先の表に示したZEV規制、NEV規制を中心に、大手自動車各社にはEVを自社の生産ラインナップから外すシナリオは存在しない。そして、その動きは既に始まっている。トヨタ自動車は2020年の市場への供給を目標に、グループを巻き込んだ体制で進めている。ホンダは中国市場でのNEV対応の一環として、中国側での開発を進めて18年にEVを供給する。

 一方、ドイツでもモデルS販売は好調だった。9月6日の日本経済新聞によると、2017年の欧州市場でメルセデス・ベンツの「Sクラス」の販売台数が1万3359台。しかし、モデルSは1万6132台を販売し、Sクラスを抜いたとされている。

 その動きを注視していたドイツ勢は、モデルSを迎え撃つ戦略を次々と発している。その先端を走るのは独アウディである。2019年にアウディは840万円を超えるEVを発売すると発表した。独ポルシェも同様に、19年には高級車EV「タイカン」を準備していると言う。さらにダイムラーも19年に向けて、高級車EV「EQC」の開発最終段階にあるとのこと。
 これはすなわち、モデルSがドイツでの販売を伸ばしてきたことが背景にあり、この勢いにブレーキをかけるために独勢が迎え撃つ戦略に出たと言える。すなわち、テスラの高級EVにとっては強力なライバルが眼前に現れて包囲網を作り出していることにほかならない。また日本勢では、2021年に日産自動車が同様な高級EVを発売すると伝えている。早晩、日欧で高級車EVの路線が構築されることになる。
 一方の普及版EVであるモデル3は生産が軌道に乗らない「生産地獄」が暫く続いた。しかし最近は、瞬間的に週5000台に達し、あるいはそれ近くにまで生産が可能な状況に改善されてきた。そうであるものの、普及版EV領域には高級車EV群以上に日米欧の自動車各社が商品開発を行い、市場に供給する計画が着々と進んでいる。
 図にはテスラを迎え撃つEV群勢力を示す。この構図を見れば、高級車EV群では、これまで通りのテスラの販売が続くとは思えず、相当なブレーキがかかると予測される。それにも増して、普及型EV群の競争加速が予想される。と言うのも、世界のトップブランド自動車各社が、遅ればせながらではあるもののEVを市場に供給するからである。逆に迎え撃つテスラの戦略は如何に。歴史とブランド、信頼性の高い既存の自動車各社と新興テスラが真っ向勝負できるのだろうか?
 商品企画、信頼性、耐久性、アフターサービスのいずれにおいても、既存ブランドメーカーには一日の長がある。テスラのEV群が、それを巻き返す要素がどれだけあるかにかかるのだが、その要素は雲がかかって視界が開けない。
 テスラが抱える一連の経営問題、すなわちキャッシュフローの悪化、幹部人材の離脱、訴追問題などの懸念材料をさておいたとしても、純粋にEVという商品自体の議論でもテスラEVには劣勢条件が多々あるようだ。そういう課題を払拭しないまま、上海にEVおよびLIBの生産拠点を構えると言うのは、リスクが大きいように思うのだが果たしてどうか。その結果は遠くない時期に表れることになろう。
 今後、大手自動車各社のEVが市場に投入される中、消費者層が限られるEV市場において、選ばれるEVにはどんな条件が付きまとうのだろうか? 斬新なデザイン、すなわち既存自動車と類似した商品ではないもの、航続距離的にはモード走行で400km以上、LIBの長寿命、商品価格、信頼性やアフターサービスの充実度と言った複数の要素が求められるだろう。そもそもEVを積極的に購入したいという需要は限られるEVであるがゆえに、販売不振のEVが市場でだぶつく光景として現実的な問題となるのではないだろうか。

2018/09/28

第127回

中国製リチウム電池が信頼できない理由

車載用電池に対する自動車各社の異なる見方
2018年9月27日(木)
佐藤 登

北京モーターショー2018に展示された米ゼネラルモーターズのEV「ヴェリテ 6(Velite 6)」(写真=AFP/アフロ)
 9月13日のコラムでは、「爆走中国EV、電池業界に起きている異変」を執筆した。これまで報道されてきた中国でのEVシフトや、そこに連結する電池業界の勢いが以前ほどないこと、それどころか経営危機に陥る企業も出てきていること、そしてその背景にあるものなどについて考察した。
 変化が起きている最大の要因は、中国政府が打ち出してきたエコカーへの補助金を減額していることによるものだ。補助金は2020年には消滅する予定になっている。となれば、事態は一層深刻化すると思われるが、中国政府の面子もかかっているこの状況の中で、新たな政策がどのように出てくるのかが着目される。

中国製電池の信頼性は大丈夫か?
 米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道を、中国メディアの「OFweek」が9月14日付で伝えた。それは、米ゼネラルモーターズ(GM)が2019年に市場投入を予定しているビュイックブランドのEV「ヴェリテ6(Velite 6)」に関するもの。適用している電池メーカーのリチウムイオン電池(LIB)の性能が要求に届かないこと、更には安全基準にも適合しないため、発売を遅らす可能性が高いというニュースである。
 報道によると、ヴェリテ6にLIBを供給するのは中国Wanxiang Group(万向集団)傘下のA123システムズである。浙江省杭州の工場でヴェリテ6に搭載するEV用電池を生産している。ヴェリテ6にはプラグインハイブリッド車(PHV)もあるが、こちらは近く生産に入るとのことだ。
 OFweekによると、GMは当初、韓国LG化学製のLIBを採用する計画であった。しかし中国政府が定めた16年の規定、それは「バッテリー模範基準認証(通称、ホワイトリスト)」を取得していない企業のバッテリーを搭載するクルマは中国国内での補助金を認められないというものだが、日韓勢のLIBは認定されることはなかった。すなわち、LG化学製LIBを搭載したエコカーには補助金が付かないということを意味し、LG化学のビジネスモデルが崩れたのである。代わりに、GMは補助金を受けられるA123システムズ製のLIBの採用を決めたという経緯である。
 このような影響はほかでも起きている。独フォルクスワーゲン(VW)も中国市場でLG化学のLIB適用を検討していた。しかし、このホワイトリストの影響により、VWはLG化学から中国CATL製のLIBに転換しているようだ。独BMWは、2013年に投入したEV「i3」、およびPHV「i8」にはじまって、すべてのEV、PHVに韓国サムスンSDIのLIBを調達してきた。そのBMWも中国市場でのビジネスモデルを勘案し、新たにCATLとの契約を取り交わしている。
 A123システムズのLIBがどの部分でGMの要求性能に満たないのか、そして安全基準を満足しないのか、その詳細は明らかではない。A123システムズは、元はと言えば米国で育ったベンチャー電池企業である。米国カリフォルニア州で1990年9月に発効したゼロエミッション車(ZEV)法規に適合させるべき、1991年には米国先進電池研究組合(USABC)が設立された。以降、米国では電池研究から事業化を目指す電池ベンチャー企業が乱立した。A123システムズもその一つであり、米国生まれの企業である。
 同社はマサチューセッツ州ウォルサム市にて2001年に創業した。米マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発が進められていたオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)をLIBの正極材料に適用したEV用電池の事業化を進めていた。A123システムズのEV用LIBの開発は、ブッシュ大統領が推進していた水素エネルギー政策に打って変わって、2008年に就任したオバマ大統領がグリーン・ニューディール政策を打ち出したことで、米エネルギー省から2億4900万ドルの助成金を獲得するに至った。ミシガン州の生産工場を基盤として、その後は中国にも工場を進出させた。
 潤沢な開発資金を手にした同社は、米国を中心に自動車メーカー各社と契約を結び供給を開始した。しかし、A123システムズ製のLIBを搭載した米フィスカー・オートモーティブの高級PHV「フィスカー・カルマ」が、2011~12年にかけて炎上や爆発事故を起こした。原因はLIBの品質にあるとされ、PHVはリコールの対象となった。
 A123システムズには5500万ドルものリコール費用が発生しただけでなく、製品の評価が奈落の底に落ちてしまった。その後も、LIBの供給商談が破談になるなど致命的な打撃を受けた。同時に、中国企業の万向集団がA123システムズを2億5600万ドルで買収した。米国政府が税金を投じて育成したはずの米国ベンチャーは国籍を中国に変える形となり、米国籍を失った。この一連の煽りを受けて、13年11月には、フィスカー・オートモーティブも経営破綻に陥ってしまった。

安全に対する開発基準と意識が異なる日本勢
 歴史をヒモ解けば、LIBが車載用、特にEV用に適用されたのは、2009年に三菱自動車が発売した「i-MiEV」、そして翌10年に日産自動車が発売した「リーフ」に遡る。10年からは中国ローカルメーカーも、タクシーやバスなどに適用し始めた。しかし、そこからEVの火災事故が多発した。BYDのEVバスもご他聞に漏れない。
 米テスラのEVである「モデルS」は、13年に米国市場で立て続けに5台の火災事故を起こしている。16年にはフランスの試乗会で火災事故を起こし、その他、ノルウェーやスウェーデン、そして中国市場でも火災事故を起こした。
 一方、日系勢のEVはこれまで、火災事故を1件も発生させていない。日産のリーフは累積販売台数が35万台を超えている。火災無事故は誇るべき実績である。BMWのi3も、そして販売台数規模は小さいものの12年に発売したトヨタ自動車のEVである「eQ」、同様にホンダの「FIT EV」も火災事故とは無縁である。
 ではなぜ、このような差が生じるのか? それには筆者の持論がある。筆者がホンダ時代に車載電池の研究開発に直接携わり、自動車メーカーの視点で取り組んできた経験、更に、サムスンSDIではLIB開発から事業に至る供給側の立場で取り組んできた経験から以下のように考える。
 電動車開発における重要コンポーネントとしては、モーター、電池、インバーターなどが代表として挙げられるが、何といっても火災事故の誘因となるものは電池である。とすると、自動車側の立場では車載電池をいかに安全で信頼性の高いものに設計・開発するかという視点が極めて重要となる。
 LIBでは充電放電に伴う発熱は適用する正極材料によっても異なる。また、充放電時の正極の結晶構造の変化度合いも材料によって異なる。逆にいえば、様々なLIBを設計できることにもなるが、安全性と信頼性の確立は殊更重要だ。電池が暴走しないような充放電制御機構や冷却システムも不可欠である。
 制御系が万が一、故障してもLIBの火災や爆発を起こさない設計・開発が基本的に必要だ。そのためには、開発品のLIBが過酷な条件においてどうなるかという、いわゆる限界試験による確認が大切である。1991年から着手したホンダでの電池研究開発においても、当初から独自の限界試験を相当盛り込んだのである。
 2004年9月にサムスンSDIに移籍してからは技術経営に臨んだ。その折に、世界の自動車各社を訪問した。そして、同社を退社する12年末までに多くの協議を重ねてきた。ホンダ時代にはできなかった自動車各社への訪問は確かに新鮮であった。なぜならば、自動車各社が車載用電池に対してどれだけの意識をもって開発にあたっているか、そしてその試験法や基準がどういうものかを直接知ることができたからである。もちろん、国内の古巣であるホンダやトヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、マツダ、スズキ、スバル、日野自動車などとも、かなりの協議や意見交換をしてきた。
 そこで実感したのは、欧米自動車各社と日系勢自動車各社のLIBに対する安全性確保のための開発指針が異なっていたことである。日系勢の多くは、自社独自の評価法と独自基準を持ち、かつ限界試験を適用していることに特異性がある。
 一方、欧米勢は自社独自の評価法と独自基準は持っているものの、日系勢のそれよりも一段低い所に位置していた。そして、限界試験なるものはほとんど行われていなかった。したがって共同開発する、あるいは供給する電池各社も自動車各社の基準に合わせることで良かったのである。
 ここで言う欧米勢はGM、米フォード、独フォルクスワーゲン(VW)などで、先のベンチャーは含まない。フィスカー・オートモーティブやテスラのEVで火災が多発したのも、結局は車載用LIBの安全性評価や基準が既存の欧米勢に比べても、更に低かったからだろうと類推される。
 事実、サムスンSDI時代に若手エンジニアを引率して日系自動車各社を訪問し協議をしている過程で、自動車各社から高い基準や限界試験を主張されると、彼らは「なぜそこまで必要なのか?」と疑問を抱くことになった。立場上、同席していた筆者が彼らに説明して納得させる場面も少なからずあった。取りも直さず、欧米勢の自動車各社と主に付き合ってきた彼らだから、その基準に慣れきっていたのである。
 そういう欧米勢も、ここ3年ほど前から安全性開発姿勢に変化が見られる。日系勢をベンチマークしてのことだろうが、基準を上げながら、そして限界試験も積極的に取り入れるなど、安全性に関する意識が高まってきた。だからこそ、冒頭に紹介したGMがA123システムズのLIBの性能品質や安全性に不満を持つようになり、開発遅延が生じているのだろう。

中国の車載用LIB規格が変わった
 他方、中国の電池メーカーは、これまでローカルの自動車メーカーとの協業を中心に進めてきた。ローカルの自動車各社の信頼性はエンジン車でも元々低かったのに対し、EVでは新規参入組が多く現れ、入念な開発を行って信頼性を高いものに築き上げるマインドは不足している。短期間に開発して市場に投入することが優先されるがゆえに、事故に至る現象が今も続いている。BYDのLIBをBYDのEVバスに供給しているビジネスモデルでも例外ではない。
 電池各社がそういうローカル系自動車各社のみとビジネスをしている限り、その基準内で今後も開発を進め続けるだろう。ここに来て、中国No.1とNo.2の電池メーカーであるCATLとBYDは今後、ローカル以外の日欧米グローバル自動車各社とのビジネスを開始する。新たなビジネスモデルで懸念されるのは、知財と安全性・信頼性の問題だ。逆に、この協業連携によって両社は先進自動車各社の洗礼を受ける可能性が高い。
 中国市場で車載用LIBの安全性を担保するために、GB規格が適用されている。GB/T 31485-2015で「電動自動車用動力バッテリーの安全要件および試験方法」、GB/T 31486-2015で「電動自動車用動力バッテリーの電気的性能要件および試験方法」が課せられている。
 この規格は当初、中国自動車技術研究センター(CATARC)が検討、立案していた。ところがここ数年、CATLが勢いを付けてきたことで、CATARCに代わってCATLが試験法の制定や基準を設定し、CATARCは試験を実施する側にと役割を分担している。この役割見直しによって変わったことがある。LIBのGB規格試験法から「釘刺し試験」を除外した。その理由は、「EVでの事故が発生しても釘を刺したような現象は起こらない」という理屈からであった。もっとも、中国電池業界の開発負荷を低減させる狙いもあったようだ。それだけでなく、この試験を適用すればパスしない中国製LIBが少なからずあるからだろう。
 車載用国連規則で認証が義務付けられるECE R-100.02 Part.IIの9項目の試験法にも釘刺し試験は含まれていない。上述したように、GB規格には当初含まれていたが、後に除外された。しかし、日系自動車各社や電池各社の大半は自主的に釘刺し試験を実施する。さらに、各社独自の試験法や基準、限界試験を導入し開発にあたっている。国連規則や中国GB規格はクリアして当然の義務教育であるので、これに甘んじているだけではグローバルビジネスとしては不十分である。
 日系勢が進めている各社の自主的な、そしてより厳しい試験法と基準、それに限界試験を付加する高等教育をクリアすることで、安全性と信頼性が一段と高い次元で実現する。
 以下の図は、エスペックが運営している宇都宮事業所の「バッテリー安全認証センター」の機能と国連規則を挙げたものである。国連規則やGB規格をワンストップで提供できる機能を有している。試験項目によっては、中々クリアできないLIBもある。それを短期間で効率的に改善開発するために、自動車業界や電池業界に貢献するビジネスモデルを提供している。それのみならず、各社の高等教育をクリアするためのオーダー試験についても随時対応できる機能も有している。

中国系LIBを調達する日系企業への提言
 日系自動車各社が、中国市場で中国製LIBを調達する動きもある。日産自動車はCATLのLIBを採用すると既に判断した。ホンダも近い将来に向けた調達のための共同開発をCATLと開始している。トヨタ自動車のCATL詣でも報じられている。
 他方、日本市場でも定置用途や太陽光発電用の蓄電システムとして中国製LIBを調達するビジネスが急速に進んでいる。その理由は、この分野でのLIBシステムの価格差が要因になっている。日系勢のLIBと中国系勢のLIBの価格差が2倍以上もあるためだ。
 そこで中国系LIBを調達する日系企業、特に自動車メーカー以外の業界に対して提言したい。LIB各社の性能仕様は顧客に提出されるが、供給側にとっては支障の無い仕様表現であることが多い。ましてや過酷な条件や限界試験の際の事象など記述する訳もない。それを要求しても実施するかどうかも協議をして見ないと不明だ。書面だけの仕様で判断するのは非常にリスクを伴う。
 日本市場でもこれまで、中国製モバイル用LIBとモバイル充電器の事故が多発してきた。特にモバイル充電器に関しては度々、テレビのニュースでも報道されているほど頻発している。車載や定置用の大型LIBでは、人命に関わる事故にもつながりかねない。
 中国製LIBやモバイル充電器を導入しようと検討を進めている各社においては自主的に、かつ過酷な試験法の適用で安全性と信頼性を確保していただきたい。自社で試験設備を導入して対応するには、時間と投資がかかり非効率である。また、試験のノウハウも重要なので、エスペックのような受託試験機能や認証センターを積極的に活用いただきたい。それが、日系企業の安全性・信頼性を担保し、優れた品質性能を具現化する大きな手がかりとなるのだから。

2018/09/13

第126回コラム

爆走中国EV、電池業界に起きている異変
技術経営――日本の強み・韓国の強み
日系各社のビジネス戦略にも変化が
2018年9月13日(木)
佐藤 登

 7月26日の本コラム、「中国の新エネルギー車規制にどう対応すべきか?」では、中国の電池業界トップ2の中国寧徳時代新能源科技(CATL)およびBYDの勢いについて記述した。欧州においてリチウムイオン電池(LIB)の生産拠点を構えつつある韓国トップ3(LG化学、サムスンSDI、SKイノベーション)が、ポーランドおよびハンガリーを拠点として選択した。一方で、CATLはドイツのチューリンゲン州にLIB生産拠点を構築することで、ジャーマン3であるダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン(VW)とのビジネスの距離感を一層縮める展開に出ている。このことは、韓国勢にとっても大きな脅威となることを述べた。
 欧州の電動化シフトと共に、韓国勢および中国勢の電池各社が勢力を増強させているのは紛れもない事実である。逆に見ると、欧州および米国での日本勢の電池各社の存在感がかなり薄らいだ格好になってきた。

電池業界のビジネスモデルの歴史を振り返る
 では、何故このような勢力図に移り変わってきたのだろうか。まず、電池業界のビジネスモデルを振り返ってみよう。
 車載用ニッケル水素電池を搭載したハイブリッド車(HV)としては、1997年にトヨタ自動車が「プリウス」を、そして99 年にはホンダが「インサイト」を市場に投入した。すると2000年以降には米フォード・モーター、そしてVWも追随するに至った。もっとも、フォードの場合はトヨタハイブリッドシステム(THS)のライセンスを受けて実現に至っており、電池システムは日本勢が独壇場だった。当時の三洋電機はフォードやVW向けに、電池制御システム(BMS)を包含した電池パックシステムを納入しており、すなわちTier1のような立場でビジネスを構築していた。それによって、三洋電機は米欧の大手自動車メーカーからの圧倒的な信頼を勝ち得ていったのである。
 車載用途でのLIBは、2009年に三菱自動車の電気自動車(EV)「i-MiEV」に搭載されたもの、そして10年に市販された日産自動車のEV「リーフ」に搭載されたものと続く。世界に先駆けた車載用LIBの適用事例であったといえる。
 その礎を築いたのが、1991年、ソニーが世界に先駆け民生用途ではあるがLIBの量産を実現したことである。ソニーはその後、車載用途のLIBの研究開発を日産自動車、そしてホンダと共に展開して大型LIBの開発を先導した。しかし、その先導役であったソニーは1998年、当時の出井伸之社長の判断の下、「人命に関わるビジネスはしない」という戦略に基づき、車載用LIBの研究開発から手を引いた。ホンダでは筆者がソニーとの共同研究をプロジェクトリーダーとして推進していた最中の出来事であった。
 この頃から、三洋電機、日立製作所、日本電池なども車載用電池研究に取り組むようになり、将来に向けたビジネスモデル戦略を描き始めたのである。ホンダでは、筆者が1999年に三洋電機の経営陣へ申し入れをして、車載用LIBの共同研究をスタートさせた。
 この時点では、韓国のサムスンSDIもLG化学もモバイル用LIBの量産を目指して、日本勢をベンチマークしつつ実用化を図る段階にあった。車載用LIBの開発はその数年後に始まるのである。サムスンSDIがモバイル用LIBの量産を開始したのはソニーに9年遅れの2000年のことである。韓国勢が車載用LIBの研究開発に踏み切ったのはその後間もなくの2002年くらいであるから、時間的にも数年遅れ、また技術面や信頼性・安全性の面でも日系のレベルからは相当後ろを歩くことになる。

自動車業界が電池業界に期待する重点要素の変化
 ただ、韓国勢のスピード感の速さには目を見張るものがあり、日本製LIBのベンチマーク、積極的な技術開発・マーケティング、世界各国からの人材採用等を実行してきた。2004年9月にホンダからサムスンSDIに移籍した筆者は、この実態を直接見てきたほか、そのような技術経営に自らも携わってきた。
 2010年後半には、サムスンSDIのモバイル用LIBが、それまでトップシェアを占めてきた三洋電機を初めて超えた。車載用電池のビジネスでも、韓国勢は2010年を過ぎると頭角を現してきた。以来、韓国勢はLIBの技術力、マーケティング力、安全性・信頼性を確立することで、日韓のLIBにおける性能や安全性に対する差異はなくなった。
 その後は、中国のLIBメーカーも乱立。EVを国策として進める中国では、完成度の低いLIBを搭載したEVが火災事故を頻繁に起こすなどの社会問題にも発展した。その中国では、「失敗したことは仕方がない。これから巻き返すことが大切」という命題のもとで、事故を起こしつつも新規参入組のEVメーカーや電池メーカーの乱立が進み、拡大方向の路線が展開されてきた。
 世界の自動車各社における日本の立ち位置は、日系自動車各社との電池協業や調達を推し進めるものの、欧米では様相が異なる。特に、2015年頃を境に、欧米自動車各社の電池業界に期待する要素が大きく変わったように映る。そのストーリーを以下の表に示す。

 2015年以前での重点要素は性能面、安全性、パック化技術、コストが主流であった。以降は、性能面では日韓の優位差がなくなり、そして安全性・信頼性でも同等になり、更には自動車各社がパック技術を要求するビジネスモデルから、モジュール(セルの集合体)以降を自社で手掛けるビジネスモデルに大きく転換を図った。
 逆に、2015年以降の重点要素は更なるLIBコストの低減、とりわけ25千円/kWh以下、しかも10千円/kWhに近づけたい自動車各社の思いが如実に現れている。そしてもう一方の指標は、投資力によるLIB生産キャパである。
 現在、LIBのコストリーダーはLG化学である。近年、LG化学を意識しているCATLが激しく追随している。日本勢は、業界でのコスト低減を前面に打ち出す、あるいはコストリーダーとなる戦略を唱える企業は無いに等しい。逆に、パナソニックは価格競争に持ち込まない戦略といっているが、果たしてどこまで通用するのだろうか。
 一方の投資による生産キャパ拡大においては、韓国のトップ3と、国からの補助金前提ではあるがCATLとBYDの存在感が浮き彫りになっている。日系ではパナソニックの投資力が韓中に対抗しつつある水準ではあるものの、それ以外の電池各社の投資力には見劣りがある。
 このように、コストと投資力が競争領域になっているわけだが、似たような経緯はあちこちで確認されてきた。これまでの産業界の歴史を紐解けば、いや紐解かなくても液晶事業、薄型テレビ事業、携帯電話事業、スマホ事業、半導体事業など、日本から韓国をはじめとするアジア勢に勢いがシフトした事例は枚挙に暇がない。
 こういう状況を勘案すると、日系電池業界としては電池各社の個別展開よりも、体力と筋肉質のある業界への転換が必要な時期に差し掛かっているのではないだろうか。業界再編もその一つのアプローチであるだろうが、そうでなければ競争力の乏しい企業は淘汰されるシナリオになりかねない。

中国市場における変化点と展望
 先の7月26日のコラムでも、中国において2020年からエコカーに対する補助金がなくなった場合のケーススタディを示した。それもさることながら、以下の表に示すように現時点で様々な異変ともいえるべき事象が生じている。2020年の補助金ゼロ化がもたらす影響は計り知れないと思う。

中国市場における気になる動き
 EV各社の資金繰り悪化によるしわ寄せが電池業界に及んでいる。昨年からの補助金減額の影響で、EV各社のLIBサプライヤーへの支払い遅延で経営が悪化する電池企業が既に現れている。例えば、CATL、BYDに続く中国3位メーカーであるOptimumNano Energyは、18年7月から半年間のLIB生産停止を決断した。その他、CATLの利益大幅減少、LIBメーカーの40%がマイナスのキャッシュフローであるなど、厳しい状況に陥っている。
 そこに追い打ちをかけるように中国政府は18年、航続距離300km以下のEVについては補助金の減額幅を前年対比で最大58%減にすることを決定した。航続距離が300km以下のEVが約50%と主流を占める中国ローカルのEV各社、そしてそこにつながるローカルのLIBメーカーには必ずや淘汰の波が押し寄せることになる。
 CATLはこれまで生き馬の目を抜くような成長拡大路線を遂げてきた。日系自動車各社、部材メーカーのCATL詣でも多くのタイミングで報道されてきた。トヨタ自動車の頻繁なCATL訪問協議、日産自動車においては中国で生産するEVでのCATL製LIBの調達決断、ホンダは調達までの決断はしていないものの、中国で生産する電動車(xEV)への調達を目指すためのLIBの共同開発と、日本の自動車トップメーカーが大きな期待を寄せている。
 ご他聞に漏れず、LIBの部材事業を展開する日本の化学メーカー各社もCATL詣でを行ってきた。正極材料、負極材料、セパレータ、電解液の四大部材を中心とした事業は日本のお家芸であったのだが、2015年以降は特に中国ローカル部材メーカーが躍進してきた。
 日系部材メーカーの強みはハイエンドを主体にミドルレンジ級の部材ビジネスの展開を図っていることである。一方、中国ローカルの部材業界はローエンド系からミドルレンジ系のビジネスモデルという格好で、日系のビジネスとはターゲットがやや異なる。
 しかし、CATLの日系部材メーカーとのビジネス協議では、CATL側が中国ローカル部材メーカーの価格をちらつかせ、日系部材メーカーに価格交渉を迫って有利に進める姿勢を示している。そういった状況を頻繁に目の当たりにして、ビジネス商談から引き下がる日系メーカーが増えてきたとされる。
 CATLのこのようなビジネススタンスで日系部材業界が供給しない状況になれば、ハイエンド系を採用する日韓電池メーカーとの技術に再び優位差が生じることになる。知財も含め、価格交渉でもパートナーとしての意識をもち、交渉相手に対する丁寧な姿勢を示さないと、日系のCATL離れが進みそうな気配がある。
 サムスンSDIやLG化学がLIB事業を伸ばしてきた最も大きな原動力の一つに、日系部材メーカーとのパートナーシップ意識をもって、双方のWin-Winを構築する信頼関係を築いてきたことがあげられる。CATLの対応次第では、その勢いに急ブレーキがかかることも予想され、今後に注目が集まる。

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