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日経ビジネスオンライン

2018/08/09

第124回コラム

電動車の米ダブルスタンダード法規の行方と波紋
技術経営――日本の強み・韓国の強み
自動車業界への影響は多大、技術開発にブレーキも
2018年8月9日(木)
佐藤 登

 自動車の電動化は、1990年に米国カリフォルニア(CA)州で発効したゼロエミッション車(ZEV)規制が、大きな影響を及ぼした。同規制はその後、CA州を含む全米10州で導入されてきた。
 ZEV規制発効28年後の2018年からは、これまでの米国自動車メーカーと日本のビッグ3(トヨタ自動車、日産自動車、ホンダ)に加えて、独ダイムラー、独BMW、独フォルクスワーゲン(VW)、韓国現代自動車・起亜自動車の4グループが規制対象として追加された。規制内容も一段と厳しくなり、純粋なZEVとしての電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)の合計で販売台数の最少2%、一方で過渡的なゼロエミッション車(TZEV)として定義されるプラグインハイブリッド車(PHV)は最大2.5%という枠組みで格段に強化された。以降も、25年まで段階的に一層厳しくなる。
 中国の新エネルギー車(NEV)規制は2019年から適用され、NEVの対象車となるのはPHV、EV、FCVの3車種である。この対象車の定義はZEV規制をベンチマークして設定したことが背景にあり、ZEV規制と同一にしている。それだけ、ZEV規制は世界に対して大きな影響を与えて来たことを意味している。
 当然のごとく、世界の自動車各社は電動化政策に対応すべく、PHVとEVを中心に大きな舵を切っている。これまで後れをとっていた欧州勢も大規模投資で巻き返しを始めている。欧州勢にとっては、ZEV規制、NEV規制を考慮しつつ、21年から適用される欧州CO2規制も勘案すれば、あらゆる解決手段で規制をクリアする必要があり、最大の解が電動車になっている。

米国ダブルスタンダードへの反旗

 オバマ政権下で制定された25年までの自動車の燃費基準を撤廃して、21年以降の新基準を策定することを、米環境保護局(EPA)と米運輸省高速道路交通安全局(NHTSA)が8月2日に発表した(8月3日の日本経済新聞より)。その中で、全米での燃費基準を統一する目的から、米10州が導入しているZEV規制も対象となり、廃止の方向で交渉を進める。
 これまで米国自動車業界は、連邦政府と州政府のダブルスタンダードを解消するようトランプ政権に要望してきた。米国ではピックアップトラックや多目的スポーツ車(SUV)など、利幅が大きい大型車の人気が高く、電動化政策の促進は大型車ブームに水を差すからだ。
 このような動きは、本年6月上旬にCA州サンディエゴで開催された国際会議「AABC(Advanced Automotive Battery Conference)2018」でも議論された。ZEV規制を制定したカリフォルニア大気資源局(CARB)からのメッセージでは、この反旗に対して強硬に反発していたのが印象的であった。

ダブルスタンダード撤廃が及ぼす影響
 仮にダブルスタンダードが撤廃され、ZEV規制が失効した際の影響について考えてみる。自動車業界の各社の立場は微妙に異なるであろう。ZEV規制の撤廃でメリットを受ける最大の自動車メーカーは米国自動車メーカーであることに違いはない。厳しいZEV規制の開発呪縛から逃れることも可能である。
 しかし一方、欧州で21年から適用されるCO2規制強化は電動化を排除しては成立しない。それがゆえに、欧州自動車各社はジャーマン3(ダイムラー、BMW、VW)を中心に大胆な電動車シフトを始めている。ZEV規制が撤廃されても欧州勢は電動化の手を緩めることはないだろう。
 また、ZEV規制を模倣して導入したNEV規制は、中国の「自動車強国」を実現するための錦の御旗である。これまで10年近くの歳月をかけて展開してきた中国の電動化政策では、ローカルの産業競争力を向上させるためのあからさまな政策を打ち出してきた。例えば、エコカーを生産販売できるための「エコカーライセンス」、さらには電動車の補助金を受けることのできる電池メーカーを制限する「バッテリー模範基準」、いわゆるホワイトリストなどに代表される。
 政府の補助金を受けて急速に発展してきた電池メーカーは、中国寧徳時代新能源科技(CATL)や中国BYDを中心に少なからずある。一方で、昨年から補助金が減額されていることで、中国市場では顕著に影響が現れ、EV販売にはブレーキがかかっていることは前回のコラム「中国の新エネルギー車規制にどう対応すべきか?」で記述した。
 しかし、政府側としても標榜する「自動車強国」の御旗を下げるわけにはいかない。ここまで来れば、仮にZEV規制が撤廃されたとしても、NEV規制は自主的に継続していくことになろう。

日本勢には一層のビジネスチャンスに
 では、日本勢の自動車各社にとってはどのような影響が生じるだろうか。欧州CO2規制とNEV規制が維持強化される限り、電動化開発への対応姿勢は揺るがない。しかし、18年から25年まで段階的に一層強化されるZEV規制の中では、EVとFCVに対して大幅な生産販売が課せられていた。その規制が撤廃されれば、EVとFCVの大幅な削減が可能になる。その結果、開発負荷の低減、コスト高で経営に負荷が増すシナリオから逃れることが可能になる。逆に、日本勢が最も得意としているHVの開発と拡販に弾みをつけることにもつながる。
 トヨタとホンダにしてみれば、ハイブリッド車(HV)でエコカービジネスを先導している戦略がますます生きてくる。NEV規制と欧州CO2規制に対して最低限のEVとFCVを組み込む形で良く、経営を圧迫する負荷を大きく緩和できることになる。

米国勢にはリスクも混在
 最も影響を受けるのは米テスラであろう。ZEV規制があったおかげで、これまで他社にEVクレジットを販売できた同社だが、同規制の撤廃は同社のビジネスモデルに水をかける形になる。「モデル3」の生産台数では目標の5000台/週を達するに至ったが、損益では赤字が拡大しており、18年4~6月は約800億円の赤字で、過去四半期ベースで赤字記録を更新した。
 同社は8月下旬までに「モデル3」の生産台数を6000台/週に増やすとのことだが、CA州フリーモントの生産工場は決してスマートではない模様だ。また、生産は完全自動化を諦め人海戦術、それも販売店の整備士を工場に動員したと日本経済新聞は報道している。さらには、従業員の解雇、待遇に不満を持つ者の情報漏洩、会社側の内部告発の妨害など、労使関係も大きく揺れている。
 今後、果たして生産台数の増強は順調に進むかどうかは別にしても、ZEV規制の撤廃は同社にとってマイナス面は多々ある中、プラスに作用する事象はないだろう。
 米国勢の享受もさることながら、一方ではリスクも垣間見える。ZEV規制を排除しても、他の環境規制が続く限り対応せざるを得ないのが現実である。また、中長期的に見れば自動車の電動化シフトは止まらない。とすれば、積極的かつ戦略的に電動化を進めることができる自動車メーカーが、将来の勢力を増強することになろう。
 この仮説を裏付ける事実は歴史的に証明されている。1990年の最初のZEV規制発効時点で、日米自動車各社の反応は全く逆であった。すなわち、日本のビッグ3は、この法規がCA州の更なる大気改善になるものと真摯に受け止めた。その結果、間髪を入れずにEV開発のための電池やモーターなど、重要コンポーネントの研究開発を立ち上げたのである。
 一方、米国ビッグ3は、発効したZEV規制の撤廃を求め、ロビー活動を通じてCARBへの交渉を迫ったのである。このような活動に米国勢が時間を費やしている間に、日本勢は着々と開発を推し進めた。1997年になると、日本勢は先進電池搭載のEVを世界に先駆け、CA州市場へ送り込んで行った。このような状況がもたらした結論は、日本勢の電動車とそのコンポーネントの研究開発レベルが世界トップになったことであり、これは今現在も優位性をもっている。
 更に遡れば、1970年代の排ガス法規であったマスキー法案も同様である。大気浄化のために発効したマスキー法に対しても、日本勢はいち早く課題に取り組み、燃焼制御や排ガス制御の技術開発に取り組んだ。一方の米国勢は、開発コストがかかるなどの理由で本法を無効にするロビー活動を展開した。
 その結果、ホンダが世界でいち早くマスキー法をクリアするCVCCエンジンの開発に繋げ、商品化したことで世界から大きな注目を浴びた。結局は米国勢も同法案に対応せざるを得ない状況に追い込まれた。その延長上で日系自動車各社は、低エミッションの技術や燃費性能で世界トップの座に君臨してきた。
 すなわち、過去の歴史が証明しているように、社会に対して貢献する合理的な法規は技術革新をもたらし、その具現化された製品がいずれは市場に普及する。そうなると、先行した企業がメリットを受けやすいビジネスモデルが生まれる。逆にフォロワーは、先行企業の製品と同等以上の効能があるか、より低コストの製品に仕上げないとインパクトがなくなってしまう。
 トランプ政権が提唱しているダブルスタンダードの撤廃と、それに伴うZEV規制の無効化は、米国自動車業界にとって長期的に見れば産業競争力を阻害することにもなりかねない。目先の規制緩和が得策になるのかならないのか、大局的な判断が必要なのではないだろうか。

2018/07/27

第123回コラム

中国の新エネルギー車規制にどう対応すべきか?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
自動車業界、電池各社の思惑と過度な期待
2018年7月26日(木)
佐藤 登

 6月14日の本コラムにて、「車載電池のグローバル市場揺さぶるCATL旋風」を執筆した。その中で、「欧州での生産拠点構築を標榜している中国寧徳時代新能源科技(CATL)に対して、ドイツ政府はドイツ国内への生産拠点構築を働きかけているようだ。仮にCATLが相応の生産キャパをドイツで構えることになれば、CATLへのジャーマン3の期待感と依存度は急速に拡大する。これは、ポーランドやハンガリーに拠点を構え、あるいは構えようとしている韓国3トップにしてみても脅威になるだろう」と記述した。

CATLの欧州地固めの具現化

 その噂は真実となった。日本経済新聞の7月11日の報道によれば、中国の車載用リチウムイオン電池(LIB)のトップメーカーであるCATLが、海外初の生産工場を独チューリンゲン州に建設する。2017年には車載用電池でパナソニックを抜いて、世界最大手の電池メーカーとなった同社は、ドイツでの投資を1000億円を超える規模にするとのこと。
 7月9日に、CATLの首脳陣がチューリンゲン州で独州政府関係者と会って、生産工場建設に関する契約に対して正式調印したとされている。21年に稼働させ、22年には14GWhの生産キャパにするということだが、このキャパは17年のCATLの世界出荷実績12GWhを上回ることになるから、半端ない規模になる。新規雇用も600人とのこと。2020年におけるCATLの全生産キャパは、50GWhを予定している。
 確かに、独BMWからCATLが数千億円規模の電気自動車(EV)用LIBを受注したという事実、他にも独ダイムラー、独フォルクスワーゲン(VW)、仏PSAグループ、英ジャガー・ランドローバー(JLR)などとの供給契約を交わしてきた既成事実が背景にあることで、確度の高いビジネスモデルを構築した格好だ。
 欧州では、既にLIB生産拠点の稼働を開始した韓国LG化学、18年内に稼働を予定している韓国サムスンSDI、そして20年の稼働を目標としてハンガリーに850億円を投資する韓国SKイノベーションの韓国トップ3とCATLの4社が、欧州自動車各社からの受注争奪戦を繰り広げる舞台が整った格好になった。

BYDも強気の戦略を明らかに
 中国BYDの生産キャパ拡大の強気な戦略についても、6月28日の日本経済新聞は大きく取り上げた。その報道によれば、青海省西寧市で車載用LIBの新工場を稼働させ、2020年には生産キャパを現在の4倍に拡大する。これまでは、知財の障壁もあり、あくまで中国国内での自社内でのビジネスに留めていたが、今後は自社以外の自動車メーカーへの外販も開始し、先頭を走るCATLを追い上げる戦略に出る。
 同時にリチウム資源を含めて3000億円以上の投資という。青海省は塩湖が多く、中国国内のリチウム資源の約8割を占めることから、本社がある深センから北西2000kmも離れているこの地を中核拠点にする理由がある。
 新工場の生産キャパは24GWhとされ、1700億円規模の投資とのこと。このキャパは、BYDが17年に生産する新エネ車の10倍以上の販売台数がカバーでき、BYDのプラグインハイブリッド車(PHV)換算で120万台に相当するという。このため、自社内ビジネスに限らず外販ビジネスを行うのが前提となる。
 この新工場以外にも、車載LIBの工場建設で地元政府と合意しているとのことで、1500億円規模の投資で新たに20GWhのキャパを構築しようとしている。既存の広東省の2工場は16GWhの生産キャパを有していることから、2020年には全体で60GWhの能力を持つことになる。この急速なキャパ拡大を見ると、どうもCATLとの覇権争いのような数字競争のようにも映る。
 と言うのも、現在の中国の新エネルギー車(NEV)規制が必ずしも論理的でなく、かなり歪んだ法規になっていることで、その法規制がそのまま上手く浸透するとは思いにくいからである。もしそうであるならば、CATLにしてもBYDにしても、その思惑が軌道に乗らないリスクもあり得るだろう。

歪んだ政策には歪が生じる

 中国NEV規制の矛盾を考えてみる。NEV規制は米国ゼロエミッション車(ZEV)規制を見習った法規で、下の表のような内容である。すなわち、自動車各社に対しエコカー導入を強制するものだが、対象は年間3万台以上を生産する企業となっている。エコカーで対象となるのは、PHV、EV、そして燃料電池車(FCV)である。
 中国内でのエコカーの実態はカテゴリーによって大きく異なる。PHVはエコカーの対象になっているものの、所詮はハイブリッド車(HV)の延長上の車である。中国政府はエンジンがあるHVは、ローカルの自動車メーカーでは日本勢に敵わないことからエコカー群から外している。PHVもHVと同様な難度であるから、中国のローカルメーカーがPHVを開発し生産するのはハードルが高い。その証拠に、PHVを生産販売しているのはBYDのみという実態からは、今後もPHVを生産販売するメーカーは出現しにくいものと見られる。
 FCVは更に難度が高い。部品点数の多さ、コストの高さ、水素を高圧(350~700気圧)で扱うこと、各部材やコンポーネントの10年以上にわたる長期信頼性の確保など、EVに比べると新規参入は極めて厳しい。
 全世界で市販に漕ぎ着けたのは、トヨタ自動車、ホンダ、韓国現代自動車の3社のみである。トヨタとホンダは米国での販売も累積で500~700台規模となったものの、現代自動車は1台も販売できていないという大きな差が生じている。トヨタとホンダは基礎研究時代から数えると、おおよそ30年の歳月をかけて実用に供した。
 そのトヨタやホンダでも、ZEV規制やNEV規制に対してクレジットをクリアするためにFCVの台数を増やせば増やすほど、経営を圧迫することになりかねない。一方、日産自動車・ダイムラー・フォード連合は、本年になって開発を凍結している(6月28日コラム「日産が開発凍結を宣言した燃料電池車の行方」参照)。
 このような実態の中で、現在の中国におけるFCV開発のレベルは、実用化した3社とは技術的な側面や知財面、ビジネスモデルで大きな乖離がある。今後の推移を考慮しても、中国ローカル自動車メーカーが本格的にFCV開発を進めるとは考え難い。とすれば結局、中国勢にとっての最大の可能性はEVという解となる。しかし、これは消去法的選択肢であり、EVの拡大に過度な期待を抱いている現実は、大きなリスクを抱えるものでもある。

補助金制度の行方とシナリオ
 前の表に記述してあるように、EVを中心とした補助金制度は2年後の2020年に終了する。昨年からは補助金を受けた規模に応じて、既に減額されつつある。最も補助金を受けたBYDが減額スピードを速められている。事実、補助金減額の進行と共に、中国でのEV販売にブレーキがかかっているのも事実だ。20年の補助金制度の行方によって、そのシナリオに応じた様々な現象が想定される。いずれにしても大きな問題を抱えることになろう。
 補助金制度の終了による最悪のシナリオは、補助金頼みの中国ローカル自動車各社とつながる電池メーカー各社、および部材メーカー各社の大規模倒産または経営圧迫だ。このような事態になれば、中国政府が唱える「自動車強国」は破綻するだろう。
 2017年8月、日産傘下にあったオートモーティブエナジーサプライ(AESC)は、中国ファンド企業のGSRキャピタルに売却されることが決定。順調に進めば18年4月1日付けで、「AESCエナジーデバイス」として新スタートを切る予定であった。しかし、4月末まで延期され、その後6月末までへの延期となったが、GSRに出資する投資家の一部が200億円規模の資金確保ができなかったことで、GSR側の買収はキャンセルとなってしまった。
 投資家の資金調達が順調に進まなかった真相は明らかにされていないが、昨今の補助金減額が明らかにEVビジネスに大きな打撃を与えている現実から、20年以降のビジネスリスクを考慮したと捕らえても不思議ではない。
 一方、21年から新たな補助金制度を導入してEVシフトを再度支援することになれば、一時的なビジネス拡大にはつながる。しかし、補助金がなくても自立できるビジネスにならなければ、いずれは破綻する。
 中国の消費者がHVの価値に気が付き始めていることで、補助金なしでも自立できているトヨタとホンダのHVビジネスには更なる追い風が吹く。すなわち、1990年9月のZEV規制発効からの長期にわたり、全方位的に開発からビジネスを進めてきた日系勢には、中国ローカルメーカーとは真逆なビジネスチャンスになるだろう。

2018/07/12

第122回コラム

燃料電池車を生んだホンダ基礎研究所の実力
技術経営――日本の強み・韓国の強み
ホンダジェットやASIMOは成功か失敗か?
2018年7月12日(木)
佐藤 登

 前回のコラム、「日産が開発凍結を宣言した燃料電池車の行方」では、ホンダにおいての燃料電池の研究開発は、基礎研究所として新たに発足した和光研究センターで1986年にスタートしたことを述べた。当時のホンダでの燃料電池の開発は、定置用を目的として出発し、1990年代初頭までは燃料電池車(FCV)用を目的としたものではなかった。
 1993年、米国カリフォルニア州のゼロエミッション車(ZEV)規制への対応に加えて、独ダイムラーや米ゼネラル・モーターズ(GM)の影響を少なからず受けて、定置型目的の燃料電池の研究開発は、FCV用に方向を転じた。そして30年の歳月をかけて、2016年3月にFCVの市販に漕ぎつけた。
 2014年12月に世界で初めて市販化したトヨタ自動車に遅れはしたものの、FCVへの転換は結果として正しい選択であった。もっとも先のコラムにも記したように、今後のFCVの普及については課題が山積しているのも事実である。

本田宗一郎の夢を乗せて
 そもそも、1986年に創設された和光研究センターのミッションは、ホンダにおける新事業を開拓するための革新的な研究を担うことにあった。それだけにハードルと難度の高い研究テーマを推進するプロジェクトが選定されたのである。
 その成果は様々な領域で具現化された。その最たるものが、ホンダの子会社であるホンダエアクラフトが事業化しているホンダジェットである。これも30年前に始めた基礎研究から事業化に至ったもので、現在の量産化はホンダのDNAを象徴したものである。創業者の本田宗一郎が残した言葉、「やがては空を飛びたい」に端を発している。
 1978年にホンダへ入社した筆者も、その創業者のメッセージは良く聞いていた。ジェットビジネス業界では明らかに後発であったが、その分、したたかに、かつ不屈の精神を持って基礎研究から事業化に結び付けたのである。途中での紆余曲折もあり、事業化を見送ろうと考える経営トップ(福井威夫社長の時代)に対して、現在のホンダエアクラフトの藤野道格社長は直談判したこともあった。長きに亘るホンダ開発陣の努力と同様に、経営陣の忍耐は賞賛されるべきであろう。

基礎研究所からの数々のアウトプット
 和光研究センターが成果として誇れるものはほかにもある。その一つは、ナビゲーションシステムだ。高橋常夫エグゼクティブ・チーフエンジニアが先導したもので、実用化に至るまでの研究開発の過程は、日本経済新聞で連載された「小説本田技研」でも採り上げられた。
 高橋氏は、本田技術研究所の中で筆者が尊敬する人物の一人である。常に新たな革新を追求する姿勢、しかし驕らず謙虚に、しかも客観的かつ冷静に物事を判断する洞察力を備えているからである。現在はNF回路設計ブロックの会長として活躍されている。
 高橋氏の経営戦略の実施により、ここ数年で同社は大幅に業績を拡大した。高橋氏が新たな会社で好業績をもたらせたのは、日本ではトップランナーとして開発を実現したナビゲーションシステムに携わり、実績を出した自信が根底にあるからだろう。
 一方、ホンダの3代目プレリュード(1987~1991年)には、量産乗用車では世界初となる機械式四輪操舵システム(4WS)が搭載された。この4WS機構は、後に和光研究センターでの走行制御機構の研究開発を更に加速させたエグゼクティブ・チーフエンジニアの佐野彰一氏とチーフエンジニアの古川修氏(2002年に芝浦工業大学の教授に転身)との開発成果である。全国発明表彰や内閣総理大臣賞を受賞してホンダの技術力の高さを世に問うことになった。
 筆者が感銘を受けたのは、米国自動車技術会(SAE)から4WS機構が表彰されたことであった。当時のSAEは、自動車業界の技術分野では最大の権威を誇示していた学会であったこともあり、ホンダの社内壁新聞に、この受賞が大きく報道された。これをきっかけに、この二人も筆者が尊敬する対象となった。

車載用電池研究の着手も
 筆者は1990年に和光研究センターに異動したが、研究テーマを探索していた同年9月、米国ZEV法規が発効した。ホンダに対しても大きな規制対応が迫られたこの時、和光研究センターで電気自動車(EV)用の電池、モーターなどの重要コンポーネントの研究開発がスタートした。
 誰が電池研究のリーダーを務めるかの議論がなされていた時に、先の佐野彰一氏が「錆と電池」という用語をホンダの中で発信してくれた。結局、以前に錆問題を電気化学的アプローチにより問題解決した筆者の実績が買われ、電池研究開発のリーダーを任されることになった。佐野氏の影響力が大きいことを実感した一幕であった。
 この研究開発は、全く何もなかったところから、人材を集めるなど、すなわちゼロベースからのスタートだった。設備としては、電池開発に必須な充放電電源システムや恒温恒湿槽、いわゆるチャンバーなどに投資した。
 基礎研究所で着手した電池研究の成果は、1993年には同社和光研究所へ全面移管した。そして本格的実用化を目標に、95年1月1日付で栃木研究所へと、組織と機能を全面的に移管した。その後、99年には車載用リチウムイオン電池(LIB)の研究開発も、筆者がプロジェクトとしてスタートさせた。しかし2002年頃になると、研究所の経営陣が「車載用としてのLIBは実用には至らない!」と発し、そこから研究開発の流れが大きく変わった。その発言を幾度となく否定し続けた筆者も限界を感じ、結局、2004年9月に韓国サムスンSDIの役員として転じた話は、本コラムでも記述した通りである。

ASIMOの二足歩行ロボット開発中止
 ASIMO(アシモ)の人型ロボットも和光研究センターの成果である。「人はなぜ二足歩行できるのか?」と問う人間研究からスタートし、これも30年近い研究開発のもとで実用化への可能性を提示している。
 1990年後半、ASIMOの研究室へ出向いた時は、今のASIMOよりは大きな体型で開発が進められており、ゆっくりと動いていたのを思い出す。当時の研究室を束ねていたのが先に登場した古川修室長、そしてプロジェクトリーダーとしての開発責任者は広瀬真人氏(後に研究職としてはトップの主席研究員に)であった。
 2000年に公式に発表したASIMOは、Advanced Step in Innovative Mobility(新時代へ進化した革新的移動性)の略である。開発の動機は手塚治虫の鉄腕アトムがヒントになっている。完成度の高さから世界から評価され話題となった。
 その後、ASIMOは三越デパート本店から、年収2000万円で契約社員としてスカウトされた。仕事は、来店するお客様に対してパフォーマンスを披露し、顧客誘導に繋げることであった。ここでは話題を提供したものの、2年目の契約更改には至らず、1年で解雇された。
 というのも、仕事をする時間が極端に短かったからである。当時はニッケル水素電池を搭載しており、ASIMOが活動できる時間は約15分、残りの時間は充電でお休みということだから、「何と仕事をしないロボットか!」ということでクビになってしまったのである。その後は電池開発も進み、今ではLIB搭載により、活動可能時間も4倍ほどに拡大している。
 国内はもとより、海外のあちこちでのパフォーマンスの演出で、世界に羽ばたくASIMOの認知度はかなり高まった。様々なイベントに借り出されるスター的存在にまで上り詰めた。しかし、本格的なビジネスモデルで仕事をする場の開拓には、なかなか至らなかったのである。
 本年6月末、ホンダがASIMOの開発を中止することが報じられた。ホンダの公式発表ではなかったものの、ASIMOという姿形の商品自体が実用化に至らなかったと言う意味では、事業化の失敗という評価になるかもしれない。
 しかし、長年の研究開発からは多くの知財や知見、ノウハウが培われた。6月29日の日本経済新聞でも紹介されているが、発展的解消と言う意味で社会に実際に貢献することを目標に、今後の開発が行われることになる。
 2011年3月11日の東日本大震災で起きた原発事故に対して、人間が中に入り込めないところへASIMOの技術が応用され内部の検査等で活躍した。ASIMOもこの活動には喜びを感じたことであろう。
 自動車業界において、電動化と自動運転は今や生命線の両輪となっている。その自動運転の開発に、ASIMOの開発に関わってきた複数のエンジニアが異動したとのことで、センサー技術や人工知能を応用できることになり、ホンダの自動運転の開発に拍車がかかることになろう。あるいは、リハビリ用の歩行訓練機器も開発されてきたが、その機能を一層高い次元で実現することにも貢献することになるだろう。

失敗事例も同様に
 一方で、和光研究センターでの失敗事例もある。現在、実用に供され、今後の社会にも多用されるパワー半導体のSiCは、三菱電機が30年もの歳月をかけて社会に送り出した。これに対抗するものとして、和光研究センターでのテーマとして、ガリウムヒ素(GaAs)系の研究開発に多大な投資を行った。結果としては残念ながら失敗に終わり、花咲くことはなかった。
 また、CIGS(銅-インジウム-ガリウム-セレナイド)化合物系太陽電池も、結果としては失敗の一例である。20年近い歳月をかけ、2006年にホンダソルテックとして事業化したところまでは良かったが、全世界的な参入企業の増加、中国企業の価格破壊主導を受けて、競争力を発揮できないまま14年に事業撤退した。
 基礎研究は長い道程を歩き走る。そこに必要な条件は、開発陣のチャレンジ精神と情熱、そして大いなる努力が必要だ。一方、経営陣としてはより高い次元から可能性を判断すると共に、リスクヘッジを同時進行しながら、冷静に判断できる姿勢も不可欠である。そしてその上で、最も重要な条件は、開発陣と経営陣間の密なコミュニケーションによる信頼関係を構築することにあろう。

2018/07/01

第121回コラム

日産が開発凍結を宣言した燃料電池車の行方
技術経営――日本の強み・韓国の強み
燃料電池車開発の歴史から見る今後の展望
2018年6月28日(木)
佐藤 登

ホンダが2016年3月に発売したFCV「クラリティ フューエル セル」(写真:つのだよしお/アフロ)
 昨今、電気自動車(EV)へのニーズが高まるにつれて、世界の自動車各社と車載電池各社が戦略的に事業化を進めている。それは遡れば、1990年9月に発効された米国カリフォルニア(CA)州のゼロエミッションビークル(ZEV)規制が発端となった。他方、燃料電池車(FCV)に関して言えばZEV規制が発端ではなく、数社の自動車メーカーが自主的に開発を進めてきたことの色合いが強く、現在に至っている。
 というのも、90年に発効したZEV規制は、CA州で販売台数の多い米国ビッグ3と日本のトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車の6社に課したもので、98年から各社の販売台数の2%をEVにすべきという法規であったから、この時点ではFCVの開発が義務付けられてはいなかったのである。
 しかしそういう中で、独ダイムラーと米ゼネラルモーターズ(GM)は1990年初頭から自主的にFCVの開発を世界に先駆けて着手した。当時のホンダは、燃料電池の開発は定置用を主目的として、1986年に本田技術研究所・和光研究センターが創設されてからほどなく研究が開始された。すなわち、1990年初頭まではFCV用を目的とした燃料電池ではなかったのである。
 ただし1990年代初頭のダイムラーやGMのFCV開発は、世界の自動車業界に対して大きなインパクトを投じた。それがあっただけに、ホンダの燃料電池研究開発も定置型からFCVへ方向転換したのも事実である。
 しかし、当時のダイムラーを筆頭とするFCVの開発は、現在主流の「固体高分子膜型燃料電池(PEMFC)」ではなく、「直接メタノール改質型燃料電池(DMFC)」に集中していた。ところがDMFCの場合には、車両にメタノールを貯蔵し、オンボード、すなわち車両内でメタノールを改質触媒のもとで水素に改質するシステムであった。車両内で化学反応による改質を前提としたシステムは、システム自体が大きな容積を有すこと、車両が必要とする化学反応速度に追随できにくいこと、システムが複雑で高コストになるものであり、筆者としては当時から否定的にみていた。
 こういう表現をすると、読者の一部の方は結果論ではないかとコメントされるかも知れないので敢えて記述しておくが、筆者が1995年に出版した「自動車と環境の化学」(大成社)にもそのように記述している。結果として、ダイムラーもGMもDMFCの研究開発は断念し、さらには両社とも単独でのFCV開発には見切りを付けた格好になった。
 そもそも日本政府が2000年代中盤にFCVの普及⽬標台数として掲げた数値では、18年時点で200万台と設定されていた。しかし、これは全く現実味のない数値と化したことが現在立証されている。
 歴史を遡れば2001年には、第43代米国大統領に就任したジョージ・ウォーカー・ブッシュが、水素社会や水素エネルギーに傾注する戦略を打ち出したことで、水素に対する期待感が一気に高まった。FCVに関してはZEVのクレジット係数がEVの10倍にまで高められた。すなわち、FCV1台の販売でEV10台分に相当する重みづけを付与したのである。
 そのころから、トヨタもホンダもFCVの開発を重点的に加速していくことになる。2005年ごろには欧米勢の勢い以上となって、FCVのプロトタイプの完成度では日本勢が世界をリードすることになった。当時、トヨタもホンダも、究極のエコカーはEVではなくFCVと位置づけ、そして来るZEV規制に適合させる戦略を描いた。その時系列を以下の表に示す。
1990年代から現在に至るまでのFCVのトップリーダーの移り変わり

 しかし、情勢は激変する。2009年に第44代米国大統領に就任したバラク・オバマはブッシュ政権の水素社会戦略を踏襲せず、再生可能エネルギー戦略を打ち立てた。そこには二次電池を主体とするエネルギー戦略が組み込まれ、力強く進められていた水素社会の減衰をもたらすこととなった。
 その結果として、FCVに対するZEVのクレジット係数は10分の1に下げられ、EVと等価になった。大きなクレジット係数を利用してFCVでZEV規制に適合させようと目論んでいたトヨタもホンダも当てが外れた格好となることに。
 2018年から25年にかけてZEV規制でゼロエミッション車比率が高まることで、EVとFCVへの取り組みは強化される。ここに来て、勢いはEVに流れてきたと言える。これは、課題の種類や難度がFCVよりEVのハードルが低いからという見方である。また一方では、FCVではトヨタとホンダが2強で群を抜いた格好になったことで、特許に対する抵触等、他社が敬遠したことにもなる。
 FCVの状況といえば、トヨタが2014年12月に、ホンダが16年3月に市販を開始したが、この2社以外では韓・現代自動車が発売している程度だ。現代自動車においては、日系2社よりも価格帯が2倍程度の1500万円台であることから、とても普及につながるようなFCVではない。
 2016年12月8日の筆者コラム「エコカー戦略における燃料電池車の位置づけは?」には、日産自動車がFCVの開発を見直し、遅延判断したことを記述した。すなわち、日産のFCVに対する方針はトヨタとホンダとは異にする。2025年のゼロエミッション車16%(EVとFCVのみでクレジットがカウント)に向けて、主流のEVビジネスを拡大することの表明である。
 そして、18年6月中旬に日産はFCVの開発を凍結することを表明した。それまで、FCV連合を組んでいた日産とダイムラー、そして米フォード陣営がFCVの凍結宣言をしたということは、それだけに切羽詰まった困難なビジネスモデルだったと言えよう。
 日産自動車が表明したFCV開発の凍結理由は、二つの要素が混在しているように見える。一つは客観的に市場および顧客ニーズを展望すれば、FCVの普及があるとしても2030年以降にあるかどうかという懐疑的な視点。ならば、ZEVやNEV規制の直近で要求されているEVの方が、同社が得意としているビジネスモデルに理が適うこと。
 そしてもう一つは、トヨタやホンダが先行してきたHVと同様に、FCVでも出遅れ感があり、特許等の知財的な縛りがあるゆえに競争力の点で見劣りすること。したがって、先行しているEVで世界をリードしようとする戦略に打ってでたのであろう。
 とすると、全世界的にFCVをリードしているトップはトヨタ、次いでホンダという順で、その他の追随はかろうじて現代自動車という現状であり、今後の進展がどこまであるのかないのかが問われることでもある。

FCVの今後の行方
 2016年のコラムで記述した解決すべき課題は、その後2年近くの間でどこまで進化したのだろう?
 課題① FCVは、部品点数ではEVの比ではないほどに多く、また個々のデバイスや部品コストの高さでもハンディはある。水素燃料タンクに特別な炭素繊維を使用、燃料電池システムで水素酸素反応を加速させるため白金触媒を使用、エネルギー回生やパワーアシストのために二次電池の搭載が必要など、いずれもコストが高くなる要因だ。
 ⇒ コストダウンがどこまで進んだかの表明がないので詳らかではないが、白金触媒のような高価な原材料をどこまで減らせるかも大きな鍵である。筆者がホンダを去った2004年時点での白金使用量は、100kW級FCVでは1台当たり100gが必要とされていた。FCVを積極果敢に開発してきたトヨタとホンダの2トップは、白金削減実績を明らかにしていないが、恐らく50%の削減までには至っていないと思われる。他に、水素貯蔵タンクの素材や固体高分子膜などの機能材料分野は日本が最も得意とする分野で、日系企業が支配している強みでもある。
 課題② 水素燃料自体はゼロエミッションではなく、天然ガスからの水素生成の段階でCO2を排出している。究極的には燃料生成段階でのゼロエミッション化が求められる。
 ⇒ 本課題はかなり根深いものであり、今後の長期課題であることに相違ない。いかにしてライフサイクルとしてのゼロエミッションプロセスで水素を生成すかという命題に対し、太陽光発電を用いて水の電気分解を行おうとする計画もあるようだが、生成効率と生成コストで見れば現実的な解とは言えないだろう。
 課題③ さらに1基で約4億6000万円と言われる、水素ステーションの設置費用も課題だ。加えて水素燃料を高圧で貯蔵するための圧縮機も約1億4000万円。インフラの整備は力づくしの世界でできるものの、ステーション数の増大は巨額な費用がかかる。
 ⇒ これも同様に根深いものであり、インフラとして普及するための大きな障壁となっている。
 課題④ HVやPHVは消費者にとってはランニングコストとしての燃料代が還元され、そういう観点では商品としての魅力がある。EVは電力消費料金としてガソリン車と比較するとエネルギー代金でのメリットを受けられる。一方のFCVでは航続距離はガソリン車と比べそん色ないのだが、水素燃料代がガソリンより安くなるわけでもなく、消費者にとって直接見える価値が乏しい。
 ⇒ 燃料消費価格で魅力がなければ、消費者メリットは何も得られないのが実情だ。これは課題③ともつながっているが、いかに水素生成コストを抑えることができるかという開発が伴う。

FCVに対する今後の展望
 このようにFCVの課題を考慮して見れば、限定されたルートを走行するFCバスは現実的な解となる。この場合、水素ステーションも最小限で整えれば良いことになる。なんと言っても、都内にはガソリンスタンドが1000カ所あるのに対し、FCV用の水素ステーションはようやく14カ所設立されたレベルである。
 現在のFCVシステム技術を反映して、トヨタは2020年に、バスとトラックでFCVの実用化を図ると表明している。トラックやFCバスの価格は大きな課題として残るものの、そこからコストダウンのシナリオを考え、FCVに応用拡大していくプロセスは価値があるだろう。
 このような動きに呼応するがごとく、6月26日の日本経済新聞の記事によれば、東京都の小池知事は都営バスをFCバスに転換していきたい意向を示していることを明らかにしたという。公共事業政策を後ろ盾に、FCバスの普及を加速させようとする前向きな方針であると思う。
 日産、ダイムラー、フォードがFCVの凍結を決断しても、トヨタとホンダの開発から事業化に対しては今後もそれなりの力を注ぐはずだ。かつてFCVに積極的であったGMも自社単独での開発を諦め、ホンダとの共同開発で2020年以降の本格事業化を目標にしている。トヨタも日野自動車などグループ企業との連携を図りながら開発を進めていくものと思われる。
 しかし、トヨタとホンダの2強のみがFCVの開発から事業化を進めれば進めるほど、同業の自動車業界や各国の政策方針においても逆風が吹いてくるだろう。特に、NEVでは18年規制で認めているPHVとEV、そしてFCVであるが、ガソリン自動車やHVではエンジン技術の高性能性が必要で、それができないと表明している中国政府策ではHVが排除された。
 FCVに至っても、水素酸素反応を促す白金触媒技術、PEMFCでは重要な技術とされるプロトン交換型固体高分子膜、700気圧にまで耐え得る高圧水素タンクの素材技術などは、もともと日本のお家芸である。NEV規制の表面上ではPHVもうたっているものの、ZEV規制のスライドだから取り入れた感がある。所詮、内燃機関が包含されていることからHVとは何の相違もなく、日系自動車各社との距離感はHV同様に大きい。その証拠に、中国メーカーでPHVを商品化しているのはBYDのみであり、他はほとんどがEV事業に注力している。
 GMにしてみればホンダを頼りにし、BMWはトヨタとの共同研究などを展開しているものの、FCV開発から量産技術においては現時点でトヨタとホンダが2トップであることに変わりはない。とすると、両社が得意としてきて世界をリードしてきたHVと同様な現象が起こり得る可能性が見え隠れする。
 すなわち、FCVを全面的に支援する政策や規制を打ち出せば、恩恵を受けるのはトヨタとホンダ、そしてホンダとつながるGMという構図になる。際立った恩恵を受けることから、両社がリードすればするほど、今後のZEVおよびNEV規制でも何らかの新たな政策方針が打ち出されても不思議ではない。

2018/06/14

第120回コラム

車載電池のグローバル市場揺さぶるCATL旋風
技術経営――日本の強み・韓国の強み
迎え撃つ日系電池各社はどのように闘うか
2018年6月14日(木)
佐藤 登

昨年秋に開催されたフランクフルトモーターショーには、メルケル首相が視察に訪れた(写真=ロイター/アフロ)
 欧州のCO2規制が強化される中(2019年時点ではCO2の排出量が95g/kmと規制され、それが段階的に厳しくなる)、加えてディーゼルの規制強化により、EVシフトが着実に進んでいる。特にドイツのダイムラー、BMW、そしてフォルクスワーゲン(VW)のいわゆるジャーマン3が率先してEVシフトに積極的な投資を進めている。各社はそれぞれ、2025年を目途に、プラグインハイブリッド車(PHV)と電気自動車(EV)の合計で生産台数の25%程度を占めることを目標としている。

ドイツ政府のトップ外交
 しかし、ドイツの憂鬱は自国内に電池産業がないことであり、この件に関してはメルケル首相も嘆いていた。ただ嘆いているだけでは何も進まず、首相はトップ外交を精力的に進めているのも事実である。
 そのトップ外交の一つが、ドイツ国内に電池産業を根付かす働きかけである。これに呼応すべく、自動車各社が電池事業を自社内に抱える戦略に打って出た。といっても、電池セルの生産を手掛けるのではなく、セルは電池メーカーから調達し、モジュール(セルの集合ブロック)以降を自社内で開発から組み立て生産までまかなうビジネスモデルだ。
 ダイムラーはACCUMOTIVEを完全子会社化して、モジュール以降の電池パックとバッテリーマネジメントシステム(BMS)を全て自社で内製する方針に移行した。従来は、独ボッシュのようなTier1にパックシステムまで任せてきたジャーマン3であった。ところが、任せれば任せるほど、自社内に技術の蓄積ができない、差別化のための開発ができない、さらにはコスト低減もできないという3重苦を背負っていることに気が付いたからだ。
 もっともホンダでいえば、1990年に発効した米国ゼロミッション自動車(ZEV)規制を受けて、筆者は電池研究室をホンダ内に創設した。研究開発段階では、電池はセルメーカーからの調達としていたが、モジュール以降は付加価値が高いこと、設計自由度を自在に活用できること、そしてBMSも自社で開発することにより電池の最適な使い方を担う制御技術の確立、コスト低減も同時に図ることができるという背景から、そのようなビジネスモデルを展開してきた。1997年にHVで世界初の商品をプリウスで具現化したトヨタも、全く同様な開発プロセスを選択してきた。
 ともかく、技術開発力があればモジュール以降の開発は自社でできるわけだから、差別化やコストダウンの必要性が高ければ高いほど、自前開発のニーズも大きくなる。ジャーマン3の方向転換は、ここ3~4年の間で進んだ。
 そうかといって、今さら電池セル製造まで行うかといえば、ここはジャーマン3も避けて通ろうとしている。それもそのはず、電池産業で一番利益を出しづらいのがセル製造プロセスであるからだ。図には電池研究の上流から電池の国際標準、あるいはサービスに関わるスマイルカーブを示す。

 すなわち、セルの製造プロセスが底に入る構図で、上流側と下流側に大きなビジネスチャンスが存在する。また、セル工程での製造不良、例えば、モバイル用で頻発しているパナソニックのリチウムイオン電池(LIB)のリコールなども、製造過程での異物混入という説明が終始なされている。この製造段階ではリコールになり得るリスクを抱えているにもかかわらず、利益を押し上げるプロセスではないところが課題の1つだ。
 日本や韓国勢の電池メーカーをベンチマークして、セル事業から着手するのは、いくらジャーマン3といっても、利益率を確保できる可能性が高くない割には参入障壁が高いといえる。
 一方、独勢各社は電池用新素材の研究開発にも余念がない。基礎研究での知財を目指し、可能ならセルメーカーに知財をライセンスするところまで進めることができる可能性を狙っている。BMWは、ミュンヘンに電池素材研究センターを建設中で2019年から本格稼働させる計画だ。
 メルケル首相が打って出た第2のトップ外交は、より強烈であった。それは、2016年に中国政府が打ち出したエコカーライセンス制度に関するものである。BYDや上海汽車のようにEV生産に実績のある企業は、このライセンスを取得しなくても良いとされている一方、それ以外では20社に限定してライセンスを供与することで、電動車の生産と販売を許可するというプロセスである。
 17年の秋口までは20席の指定席のうち、14社の中国ローカル自動車メーカーと部品メーカーにライセンスが供与されたが、外資系企業は全くライセンスを得られていなかった。
 中国市場で外資系自動車メーカーのトップはVWである。同社が中国市場でのEVシフトに乗り遅れれば、それだけに影響は甚大だ。同社は上海汽車と第一汽車との間で、既に2つの企業と合弁事業を展開していた。エコカーライセンス政策にマッチするEVなどを市場に供給するには、新たな合弁が必要となっていた。しかし、中国政府は外資企業の合弁相手を2社までしか認めていなかったのである。ところが急遽、17年の秋口にその規制を緩和し、合弁相手を3社まで例外的に認める方針を表明した。これはVWへの大きな配慮であった。
 その結果、VWと中国ローカルのJACとの合弁(江准大衆)設立が可能となって、20席の指定席で15番目に、JAC-VWがライセンスを正式に受けることになった。では、何がそれを可能とさせたのか? VWの事業が中国で好調な事業を展開し続けないと、ドイツ政府にとっても大きな痛手となる。そこで動いたのがメルケル首相だ。中国の習近平国家主席とのトップ外交を通じて実現させた背景がある。
 残り5席の指定席には、未だにVW以外の外資がライセンスを受けたという話は無い。日系ビッグ3もやきもきしているのだろうが、一方で、合弁企業を立ち上げる際の外資側の比率を50%以上まで引き上げることを認める方針を、今年になってから中国政府は打ち出した。その背景には、テスラが中国にEVとLIBの生産拠点を構えることに配慮したこと、外資が新エネルギー車(NEV)を積極的に中国市場で展開しなければ、中国のローカルメーカーは技術や事業で成長できないという判断をしたからのようだ。
 もっとも、エコカーライセンスそのものが現在も神通力になっているのかどうかは不明である。昨年の秋以降、このライセンスに関しての新たな進展、すなわち16番目のライセンス供与の話は聞こえて来ない中、規制緩和は進行している。日系自動車メーカー各社にしても、大きな障壁ともとらえていなさそうであることを鑑みれば、その政策方針の実効性が気になるところでもある。
 ともかく、中国政府が打ち出しているエコカーライセンス政策に対し、また電池産業のドイツ内事業への取り込みなどに対し、メルケル首相が積極果敢に動いている事例と実績は如実に存在している。

韓国政府のトップ外交
 韓国政府もトップ外交に関しては決して弱気ではない。韓国電池企業トップグループのサムスンSDIとLG化学の2強が、補助金を受けられるための条件である中国政策の「バッテリー模範基準認証」、いわゆるホワイトリストから今も排除されている。韓国勢にとっては、SKイノベーションも含めて、これは極めて手痛い仕打ちであった。
 2015年に、いち早く中国市場にLIB生産拠点を構えた両社であったが、その後の中国政府のTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)問題に端を発した韓国企業の締め出しにより、ホワイトリストに組み込まれなかった。そのような中で、昨年12月の韓中トップ会談で韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と習近平国家主席との間で、この問題解決を韓国側が提起したほどトップ外交を積極的に推し進めた。残念ながら実りある結論は引き出せなかったが、電池産業を巡る外交政策を積極果敢に進めているところは日本の立場とは大きな違いがある。

日本政府のトップ外交の貧弱さ
 日本政府も「科学技術立国」「電池立国」と錦の御旗を掲げてきてはいるが、いざトップ外交という意味では相対的に弱さを感じる。例えば、ホワイトリストの件では、中国大連にLIB生産拠点を構えているパナソニックも、いまだにライセンスを受けていない。そういう苦境にありながらも、政府筋としては何ら行動指針を示していないのは韓国政府とは対照的だ。
 日本政府は、2000年代までとても強い事業を展開していた日本の電池業界が他国勢力に脅かされるなどの危機意識が少なく、民間事業の課題案件は民間企業が解決すべきというスタンスであると考えられる。
 ドイツや韓国、そして中国もエコカーや電池事業政策ではトップ外交で新たな展開を推し進めている中、日本の外交政策の弱さが浮き彫りになっている。このように、消極的な立場でしかない外交政策の現状からは、「電池立国」の座は、韓国や中国に奪われてしまう危機感が漂うのだが、果たしてこのままで良いのだろうか。

ドイツ政府のしたたかな第3の潮流

 ドイツ政府絡みでは第3の潮流が起きている。以前のコラムでも執筆したが、欧州自動車各社がセル事業のないドイツの環境下で働きかけを行い、韓国電池トップ3が欧州展開をスピード感をもって積極的に展開しているのだ。
 ポーランドでの第1期生産拠点作りで400億円を投じたLG化学は、ジャーマン3や仏ルノーとの着実なビジネスを軌道に乗せつつある。サムスンSDIも、2013年からの強いパートナーであるBMW(EVの「i3」とPHVの「i8」にLIBを供給)とのビジネスモデルを一層拡大すべく、ハンガリーに400億円規模の投資をし、本年から稼働を開始する。
 韓国第3勢力のSKイノベーションも、850億円を投資してハンガリーに生産拠点を構え、20年からの稼働を目標にしている。トップ顧客はダイムラーである。しかし、既存の韓国トップ3を中心に展開されているサプライチェーンにも、新たな割り込み旋風が巻き起こっている。

CATLのしたたかな事業戦略
 BMWを独占的に顧客としていたサムスンSDIに割って入ってきたのが中国CATLで、既に供給契約を交わしている。中国市場でのビジネスが前提というものの、今後は中国以外での市場拡大方向も狙っている。一部、LG化学もこの牙城に食い入る状況になってきた。
 ダイムラーは、これまでSKイノベーションを優遇してきたが、ここに来てCATLとの調達契約も交わしている。基本は中国市場でのビジネスが突破口だが、同様にその枠を超える可能性がある。
 VWにとって、HV事業でのニッケル水素電池の調達パートナーは旧三洋電機であった。2000年代までは良好なビジネスモデルを展開してきた両者であった。三洋電機がパナソニックに飲み込まれ、そしてLIBビジネスに事業がシフトしてからは、VWとパナソニックとの縁はほとんど途切れた状態に至っている。代わりに、LG化学が牛耳る形で、一部PHVでサムスンSDIが入り込むチェーンになってきたが、VWにおいてもCATLは供給契約を交わすなど、存在感を増してきた。
 中国のNEV規制対応で積極果敢に展開してきたVWは、中国市場でもLG化学のLIBの適用を前提に検討してきた。しかし、LG化学がホワイトリストからはじき出されたことで、中国本家本元のCATLとのビジネス契約に繋げている。
 すなわちCATLにしてみれば、ジャーマン3との供給契約を着々と進めている実績を打ち出している。そして、ドイツ勢からの更なるCATLへのラブコールもあるようだ。
 欧州での生産拠点構築を標榜しているCATLに対して、ドイツ政府はドイツ国内への生産拠点構築を働きかけているようだ。仮にCATLが相応の生産キャパをドイツで構えることになれば、CATLへのジャーマン3の期待感と依存度は急速に拡大する。これは、ポーランドやハンガリーに拠点を構え、あるいは構えようとしている韓国3トップにしてみても脅威になるだろう。
 このように欧州と韓国、そして中国が政府と産業界が共になって強いビジネスモデル構造が着々と進めている状況が意味するものは、日本の電池業界が欧州でのビジネスにおいては蚊帳の外状態になっていることに他ならない。

日本勢の憂鬱
 車載用に限って見れば、米ゼネラルモーターズ(GM)のHV用LIBで供給ビジネスがある日立製作所は、GMの電動車種が増える中でもLIB供給の拡大が見込まれていない状況だ。一方のCATLはしたたかに、GMとのビジネスを策定中にある。
 東芝のLIB「SCiB」は、スズキのエナチャージャーでのビジネスモデルで勢いはある。しかし、それ以外でのHVやPHVでのビジネスモデルではなく、簡易HV用電源としてのビジネスモデルだ。電池電圧が2.5Vであることから、LIBの3.6V級に比べれば、同じエネルギー量を搭載するには他社のLIBに比較して電池容積と質量は拡大し不利になる。搭載スペースや質量制限をあまり受けないEVバスや、定置型蓄電システムなどではビジネスモデルはあるだろうが、ZEVやNEV規制で問われるPHVやEV系での発展拡大は期待しづらい。
 では、ジーエス・ユアサコーポレーション(GSY)グループはどうだろうか。実業としては三菱自動車と三菱商事を含めた合弁で形成したリチウムエナジージャパン(LEJ)と、ホンダとの協業で双方の子会社としたブルーエナジー(BEC)の2本柱が重要なポジションを占める。
 三菱自動車は燃費不正問題が引き金となり、日産自動車の傘下に入った格好だ。もっとも、電動化戦略では相性の良い関係ができていると察する。三菱自動車はEVの「i-MiEV」を2009年に、日産は10年末にEVの「LEAF」を市場に投入した。量産モデルのEVを先駆けて市場に供給したことは共通項である。一方、PHVでは三菱自動車の「アウトランダー」が先行した。今でも、その人気は各社PHV系の中でも高く評価されている。
 一方、日産自動車は、NECとの合弁事業を手掛けた子会社のオートモーティブ・エナジー・サプライ・コーポレーション(AESC)を切り離した。日産としては車載電池を調達戦略に切り替えた。この関係で好転の兆しも考えられる。三菱自動車、および日産自動車の調達戦略でLEJのビジネスモデルが拡大する可能性があるためだ。逆に、このようなシナリオがなかったとしたらLEJ自体の生き残りが難しかったのではないだろうか。
 そのような中、日産自動車は中国で販売するEVにCATLのLIBを調達する方針を示した。日系自動車メーカーが正式にCATLとの調達契約を結んだ最初の事例である。日系自動車各社の車載電池に対する安全性や信頼性の基準と試験評価条件の厳しさは世界トップだ。筆者がサムスンSDIに在籍していた時代(2004~12年末)に世界の自動車各社を訪問協議して実感した事実である。だからこそ、CATLの安全性や信頼性は、他の中国ローカルメーカーとは一線を画すと評価される。
 そしてもう一方のBECである。2009年にホンダとの合弁で形成された同社であるが、当然ながらホンダ以外への外販はない。ホンダの電動車へのLIB供給は、HVやPHVの出力型電池での協業を推進している。EVに必要な容量型LIBは外部調達戦略をとってきた。2012年にEVとして発売した「Fit EV」では東芝のSCiBを適用したが、その後はホンダと東芝との絆は希薄になっている。
 パナソニックは車載用電池では日本のトップを走る。ただし、欧州自動車メーカーとの連携がないことが大きな課題であろう。米フォードとはHVやPHV用LIBでのビジネスがあるのだが、EV用ではLG化学がビジネスを始めている。そしてCATLにおいてもフォードとのビジネスを虎視眈々と狙っているので、パナソニックとしても安閑としてはいられない。
 ホンダの電動化戦略は、トヨタに次いで先頭集団を走っている。北米で間もなく「インサイトHV」が市販されるとのことだが、ここにはパナソニックが大連で生産するLIBが搭載されるようだ。逆な見方をすれば、BECのサプライチェーンにパナソニックが食い込んだ形式となる。
 ホンダにとってみれば、2015年にセカンドサプライヤーとして選択したのがパナソニックである。それまでは、東芝、そしてサムスンSDIにも少しの可能性があったものの、選択の対象には選ばれなかった。GSYは三菱自動車のEV化に連動して国内投資を過剰に実施したこと、それがゆえに、中国市場での生産拠点構築のための設備投資余力はなかった。
 中国で現地生産するホンダやトヨタにとっては、LIBの供給を中国市場で実行可能な電池メーカーこそが必要であった。これは前半に述べたジャーマン3が希望するセルメーカーの近隣拠点構築と同一のビジネスモデルである。ホンダがパナソニックに期待する理由の1つはここにある。
 しかし、17年12月13日に発表されたトヨタとパナソニックによる車載用LIBの金属缶角型電池での協業は、ホンダにとって衝撃だったはずだ。それ以降、ホンダとしてもパナソニックとの協業をどこまですべきかを、戦略的に考えている状況にあろう。
 そのような中、5月24日付の日本経済新聞に、ホンダがCATLと車載用電池の共同開発を進めるという報道がされた。立て続けに6月8日の同新聞には、GMとの車載電池の共同開発も報道された。まさしく、トヨタがパナソニックと強い絆で協業を開始すると表明した方針に対抗するがごとくの構図にも見えるのだが、この先行きに注目したい。

パナソニックは韓中勢力と闘えるか?
 パナソニックは、車載用電池で大きな4つの事業を抱えている。1つはビッグプロジェクトとしてのテスラとのギガファクトリー事業、次にトヨタとの車載用LIB協業、そしてホンダに対する第2サプライヤーとしての事業、さらに、大連での本格的稼働と新ビジネスモデルだ。
 欧州自動車各社のビジネスモデルの時流に乗っていないパナソニックとしては、今後の事業戦略が問われているように見える。欧州から弾かれても、トヨタとホンダの電動化戦略をうまく連携していくことで、将来の発展性は描けるだろう。その手段として、大連の事業をうまく噛みあわせれば、その推進力は大きくなる。
 とすれば、課題はテスラとの協業ではないだろうか。筆者の個人的見解では、ここはリスクが少なからずありそうだ。テスラの生産地獄(生産計画と実態との大きな乖離)は大量生産の経験がないまま短期間で突っ走っていること、2013年から頻発した「テスラモデルS」での火災事故と現在に至るまでの事故連鎖、そしてオートパイロット自動走行での複数の事故、さらには幹部級人材の絶えない離脱などを鑑みると、リスク不安の要素が複合的に絡まっている。自動車事業に対する安全性や信頼性では、グローバルトップブランドの自動車各社との隔たりは、かなり大きいと言わざるを得ない。
 そしてそもそも、現状においてEVを購入したい購買人口は世界中でいったどれだけいるというのだろう。航続距離、充電時間、車両価格、中古車市場での暴落、すべてがハンディキャップなのである。
 ZEV規制、NEV規制、ディーゼル規制と言う縛りの中でもがき続けているEV事業は果たして、社会のため人類のために本当に有益な解なのかどうかの冷静な見究めが必要だ。筆者の以前のコラムでも提言したが、EVを前面に打ち出している中国のNEV政策も、低質な石炭と35%程度の低発電効率で充電されるEVが、中国では本当に環境改善になるのだろうか。
 欧州のCO2規制、ZEV規制、NEV規制にしても合理的法規の部分と、そうではない法規の部分が混在している。ZEV規制もNEV規制も、18年からは端からHVを除外したが、HVこそをベースにしてPHVの上乗せ、その上にEVを上乗せする政策こそが、世界の環境改善に君臨すると思うのだが。

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