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日経ビジネスオンライン

2018/04/12

第116回コラム

テスラが抱える三重苦、経営危機に陥る?

技術経営――日本の強み・韓国の強み

自動車トップブランドとはどこに差があるのか?

2018年4月12日(木)

佐藤 登

 2018年度がスタートした。新たな企業戦略や企業方針策定のもと、チャレンジングな展望を進めるところ、着実な事業拡大を標榜するところ、保守的な戦略で安定を求めるところ――など各社各様であろう。
 そんな節目の時期に、いろいろな事態が生じている。自動車業界では自動運転と電動化を両輪として、激しい開発競争が繰り広げられている。そういう状況下でカリフォルニア州では、米テスラの自動運転車両が3月23日に死亡事故を起こした。運転支援機能であるオートパイロットが作動している中での死亡事故とされている。この事故は世界に衝撃をもたらした。
 この事故をどのように考えるべきなのか。日米欧のトップブランド各社が自動運転の開発に余念がない。それだけに留まらず、世界の大手自動車各社が自動運転を巡って覇権争いの状況を呈しつつある。そんな中での事故だった。

テスラが実証した自動運転覇権争いの弊害
 2016年8月、米フォード・モーターが21年までにレベル5の高度完全自動運転を実用化すると発信した。立て続けに、独フォルクスワーゲン(VW)と同BMWも同年の量産化を発表したことで、自動車業界に大きなインパクトを与えた。米国自動車技術会が定義した自動運転の定義を以下の図に示す。
 そして本年1月11日になると、米ゼネラルモーターズ(GM)がレベル5とはいかないが、基本的にドライバーに委ねないレベル4を19年に量産すると発表した。この報道は、21年と発表したフォード、VW、BMWの開発計画よりも時期が早く衝撃的であった。
 日本の自動車各社は、このような実用化時期に関しては明言していない。3月に発生したテスラの自動運転死亡事故を受けて、トヨタ自動車は暫し自動運転車の公道実験を中断すると発表した。かといって、欧州の自動車各社はこの事故を冷静に見ているし、地元の米国自動車各社も公道実験を中止するようなことは現時点で発信していない。
 とすれば、欧米自動車各社は、テスラの事故は起こるべくして起こっている、あるいは技術が未成熟なまま公道実験を急ぎ過ぎていると分析している可能性が高い。日本勢が公道実験を保留にしている間に、欧米勢がいち早くこのような量産化に向けて推進していけば、日本勢の立場は後手に回ってしまうだろう。
 それにしても、テスラの事故をどう見るかが重要だ。新興自動車ベンチャーとして見れば、既存のビッグ自動車各社と競合するには相当の覚悟が必要だ。その場合に必要とされる要件は、既存の大手企業を出し抜く突出した技術、そして既存企業が追い付いてこられないほどの開発スピード感だろう。少なくともこの要件のどちらかが必要になる。
 テスラにとっては前者のアドバンテージはもともとなかった。とすれば、勝負は後者のスピード感である。しかし、そこには熟成度や信頼性が高い次元で求められる。結果としては、その完成度が高くないままチャレンジしたことにほかならなかったと見るべきだろう。
 この教訓から考えるべきことは、今後の自動運転開発で世界の期待を裏切ってはいけないということだ。先進諸国の既存自動車各社は、このような事故を起こさないようにリスクヘッジしている。ドイツ勢は、自動車各社と政府筋との密な関係を築き法規策定や事故時の責任体制など、緻密に動いている。
 威信をかけて自動運転で世界をリードしようとしているドイツ勢も、米国各州で公道実験が認められているGMやフォードも、そして日本の自動車各社も公道実験は行ってきたが、信頼性には細心の注意を払っている。それだけに、これまでも重大事故を起こしてはいない。それに比べると、新興テスラは脇が甘いと言わざるを得ない。そこだけに留まらず、既存自動車各社が着実に展開している先進技術開発と実証試験に水を差すような事態を招いている。

甘く見た電気自動車大量生産の壁
 一方、テスラの「モデル3」における生産地獄、すなわち同社の目標生産台数とは全く乖離するほど生産台数が未達であること。この件に関しては既に、本年2月8日の筆者のコラム「窮地のテスラに立ちはだかる自動車トップ」で執筆した。
 その後の進展としては、本年1月から3月までの電気自動車(EV)の販売台数が2万9980台と日本経済新聞では報道されている。内訳は、「モデルS」が1万1730台、SUV「モデルX」が1万70台、そして「モデル3」が8180台とのこと。この数字は、17年10月から12月までの台数から増えているわけではないという。
 一方、「モデル3」の生産計画は遅延が繰り返される中、本年6月末までで週間5000台を目標にしている。同車種の生産台数は1~3月で9766台とされており、直近の3カ月対比で4倍になったという。しかし、1週間当たりの換算では約750台に相当するだけで、本年6月末までの目標である週5000台とは大きなギャップが存在する。すなわち、目標値の15%程度にとどまっている状況を鑑みれば、6月末までの目標計画も更に先延ばしになるものと予測される。
 大量生産に関する生産技術は奥が深いのである。既存のトップブランドメーカー各社が築いてきた歴史は、大量生産や多くの車種を同じ生産ラインで流す混合生産を含めて、長年の生産技術開発の努力によって具現化された実績なのである。そこに、新興テスラが超短期間で同様な大量生産を行おうとしたところに無理がある。
 日本の産業用ロボットの技術力とビジネス力は世界をリードする。ホンダが2013年に稼働させた埼玉県にある寄居工場は生産技術の粋を示すもので、世界トップレベルの自動化が具現されている。筆者はホンダOBの特権を生かして16年に同工場を見学できたが、筆者が入社直後に現場実習で体験した生産工場とは全く異次元の別世界であった。
 そこには長年培ってきた生産技術に関する拘りと開発、そして安川電機やファナックが得意とする産業用ロボット技術とのコラボ開発によって具現化されたプロセスが実力を発揮している。高度な生産技術が詰まった生産工場を目の当たりにして、筆者はいたく感動した。
 仮に、テスラのイーロン・マスクCEOが事前に、ホンダの寄居工場を視察する機会があったとしたら、無謀とも言える「モデル3」の短期大量生産には躊躇したのではないかと思う。さらには、少量生産方式で「モデルS」や「モデルX」の付加価値の高いハイエンドビジネスに集中していたのではないだろうかとさえ思う。

環境因子を悟れなかった腐食リコールのリスク
 自動運転での死亡事故、現状も続いている生産地獄、さらにこれらに輪をかけたのが腐食問題を発生させた最近の12万3000台に及ぶリコールだ。遡れば、腐食問題は日本勢の自動車各社も、1980年代前半に手痛い目にあった歴史がある。筆者がホンダに入社した直後に、「このままではホンダが潰れるかも知れない」とささやかれるほどの錆クレーム問題であった。トヨタ自動車もご多分に漏れず、同様な経験をしている。
 3月29日に報道された内容では、テスラの「モデルS」で、パワーステアリングのモーターを固定しているボルトが腐食したとのこと。その結果、機能不全に陥る可能性があるというリコール内容だった。対象車は2016年4月以前に生産されたものとのこと。17年末までの累計販売台数が約28万台だったことから、全累積生産の44%に及ぶ。
 そうこうしているうちに、4月9日のロイター通信によれば、同じ「モデルS」を中国でもリコールすることが報道された。同一内容でのリコールで、対象台数は8898台とのこと。リコール比率は47%にまで拡大する計算になる。そうならば、日本に輸入された「モデルS」は大丈夫なのか? 同様に、対象となっていない国や地域でのリコールは必要ないのか? 徹底した検証が必要となるはずだ。
 ここでふたつの疑問が生じる。ひとつは、16年4月以降に生産した「モデルS」が何故対象外なのか、ボルト仕様を変えたという話は筆者が知る限り伝えられていない。単に、それ以降の製品で腐食が起こっていないという理由で対象期間を設定したのではないだろうか。ならば何を根拠に16年以降は問題ないと言うのだろう。
 そしてもう1つの疑問。このボルト以外でも腐食問題が起こらないのか、いや起こる可能性があるということだ。筆者がホンダで腐食制御技術の開発を担ってきた経験からの推察である。
 腐食反応は時間的要素も伴う。詳細なメカニズムは省くとしても、この当該ボルトだけで済むことではないかもしれない。なぜなら腐食を起こし得る部品や部材は、自動車では多々あるからだ。その腐食環境と腐食リスクを十分に把握していたとは思えない。まして駆動系の部品であることから、この問題も重大事故につながる危険性をはらんだものだ。自動車各社の過去の塩害問題を十分にリビューできていなかったのは仕方のないことではあるかもしれないが、これは同社にとってかなり大きな試練となるだろう。
 以前、某外資系証券企業が六本木で大々的に主催した投資家への講演に招かれた。筆者がサムスンSDI在籍時の2009年から毎年、13年まで依頼され対応した。その中で、米国投資家の最大関心事項の1つに、テスラのEV事業があったことで、筆者には多くの意見を求められた。
 13年には、特定の米国投資家から意見を求められた。その場で筆者は、テスラのEV事業に対して否定的な考えを示した。例えば、「EVという範疇でも、新興勢力が既存ブランドメーカーに技術や信頼性ですぐに追いつくことはできないのではないか」「自動車の製品開発に信頼性は付き物で、そのノウハウに乏しいテスラが、一朝一夕に自動車勢力図をひっくり返すことはできないだろう」と。件の投資家は怪訝な顔をして、筆者の意見に反論することはあっても、賛同する場面はなかった。しかしどうだろう。今は、筆者が投資家に説明した通りになっているように見える。
 いずれにしても自動車業界のビジネスモデルは、人命に直接関わるもので、他の工業製品よりも圧倒的な信頼性と安全性が求められるものである。新興勢力として脚光を浴びてきたテスラであるが、信頼性、生産技術、品質という極めて重要な指標の中で大きな墓穴を掘っているように映る。
 年々拡大するテスラEV事業における赤字規模、悪化するキャッシュフローという財務上の大きな課題が経営を圧迫していることで投資家の意欲を削いでいる事実があるが、それ以前に、本当の「ものづくり」が、そもそもできているのであろうか。

2018/03/23

第115回コラム

新社会人がキャリアを形成するために必要なこと
技術経営――日本の強み・韓国の強み
企業人としての40年の経験から抽出できたものとは
2018年3月22日(木)
佐藤 登

 4月を目前にし、新社会人となる方々にとっては人生の大きな節目を迎えることになる。3月中旬の段階で、本年卒業しようとしている大卒以上の就職率は91.2%に達しているというから、日本の好調な景気環境を映し出している。2008年のリーマンショック直後の極めて大変な就職氷河期を経験した当事者達から見れば、何とも羨ましい状況に映っていることだろう。
 閉幕した平昌(ピョンチャン)オリンピックとパラリンピックでは、日本人の大活躍で大きな成果をあげ、日本はもちろん世界にも感動を届けた。正に、2年後の東京オリンピックでの更なる活躍に繋がる道筋を付けたことになる。同年代の新社会人も、大きな刺激を受け鼓舞されたであろうし、自分自身も頑張ろうと思う意識が更に強くなったのではないだろうか。
 一方、世界を取り巻く情勢として、相変わらず政治情勢の不安定な中東やアフリカ、緊張状態が最高レベルにある米国と北朝鮮関係、さらには神経剤の使用によって、ロシアのスパイとその娘を暗殺したとするイギリス側のロシアに対する厳しい非難から、両国間の対立が悪化している情勢など、政治的問題があちこちに点在している。いずれも、グローバルな国家間関係に進展する問題が突き付けられている。
 経済的側面では、各国の輸入製品に大きな関税をかけようとしているトランプ政権、それに抗う欧州勢の逆制裁の検討、そして鉄鋼やアルミ製品などを中心に、日本製品も対象になるかもしれないなど緊迫感が漂う。また、圧倒的勝利のもとで続投となったプーチン政権のロシアは、経済的貧困層の拡大と若者の政権離れが進行している。
 このような一連の世界情勢を垣間見れば、往々にして豊かさを実感できる日本は、仕事のしやすさでもトップレベルにあるだろう。きっと新社会人諸君は、夢と希望を抱きつつ社会に羽ばたこうとしているものと思う。しかし、仕事環境が整っているとしても、気を引き締めて取り組む姿勢が求められる。結局は、本人自身の意識と活力、そして自身が自身のためにどう取り組もうとしているのかが問われている。
 就職環境の逆境下時代でも大きな成果をあげている企業や個人もいれば、仕事環境が良好であるにも拘らず企業や個人の成果に結び付けられていない事例もある。

新社会人時代を振り返れば
 筆者が社会人になったのは、今から40年前の1978年4月1日。当時はオイルショックの影響下にあり、化学系企業は採用を控えていた時代。化学を専攻していた筆者の選択は非化学系企業を対象にしたものの、即決とはならず、結局はホンダに入社。その時、筆者は、「将来の自動車産業界には、化学系や材料系の人材が活躍できる場が、いずれ到来するはず」というモチベーションを自らもったことで、それを仕事の原動力とした。
 もうひとつの原動力は、創業者・本田宗一郎の名言。「会社のためではなく自分のために仕事しろ」「技術論議に上下関係は無い」「信念をもって仕事に臨め」等々、当時の企業経営の中では異論ともいえる目が覚めるほどの格言に共感したことであった。
 その筆者の思いや考えは、将来ではなく、ホンダが抱える大きな課題を解決するためにすぐに実践すべきときがやってきた。日本の自動車業界が欧米等に輸出を始めてほどない数年後のこと。冬季に道路に散布する塩化カルシウムを主とする凍結防止剤によって、自動車が塩にまみれて大変な腐食問題を起こしたのである。これはホンダのみならず、トヨタをはじめ輸出を開始した自動車各社が経験した大変な問題であった。この問題が解決され、市場で評価を受けるようになったのは1985年頃である。
 1年間の現場実習を終え、1979年4月に三重県鈴鹿製作所の塗装部門に正式配属された。全く予期していなく、考えてもいなかった配属先にがっかりして塞ぎ込んでいた時に、その大きな問題と業務が降りかかってきた。
 この腐食問題が全ホンダ事業所の課題だった。「年間30億円のクレーム費が流出する錆問題がこのまま続けば、ホンダが潰れる」と言うトップメッセージの下、事業所間を横断する大プロジェクトに発展し、筆者も配属直後にこのメンバーとして加わることになった。電気化学を専攻していた筆者にとっては、活躍できる分野と直感したのも事実である。力を発揮できる課題にタイミング良く関わることができたことで、これをチャンスとしようとしたのである。
 結局、数年はかかったが、自分の論理を組み立て、技術立証を行いつつ根本的対策技術を打ち出した。材料設計と生産技術を主体に、量産技術を確立したことで、数年に亘る腐食問題に終止符を打つことができた。プロジェクトに携わっていた初期の頃には、腐食環境と実態調査のためにオランダに半年ほど長期滞在した。その経験から、「あらゆる事象は、それが起こっている現場で直接確認すること、そしてどのような対応策が適しているのかを自ら実験考察し、立証・提案すること」の大切さを実感した。
 この成果は会社からも評価され、1988年の記念式典での表彰、そして次へのステップのチャンスを提供してくれた。当時の鈴鹿製作所所長であった吉野浩行常務から直接、「大きな成果を出したのだから、次は何処に行って何のテーマに取り組んでも良いから、自ら提案しなさい」と、自由度という贈り物をいただいた。

生産技術の現場から最上流の基礎研究部門への異動
 「いろいろ相談しながら提案しなさい」という吉野常務の言葉を踏まえ、最終的に提案したのが埼玉県和光市にある基礎研究部門の和光研究センターへの異動であった。その理由は、「21世紀を迎えれば、自動車産業は環境問題やエネルギー問題などに直面し、化学系や材料系人材が今以上に必要になる。取り組むべき課題も必然的に拡大する」と考えたからである。
 1990年2月に基礎研究部門へ異動となる。ここでも、タイミングの重要性を本当に実感した。一部の研究テーマに関わりつつも、自ら主体で進めるテーマ探しをしていた後半の9月に、米国カリフォルニア(CA)州でゼロエミッション自動車(ZEV)法規が発効し、世界に衝撃をもたらした。CA州で販売量での実績を有していたホンダ、トヨタ自動車および日産自動車の3社が、日系ではZEV法規の対象となったからである。
 ZEV法規では、1998年にCA州へ供給するクルマの一定台数を電気自動車にすることを課せられた。まずは電池やモーターなどの基幹部品の研究から着手することになる。腐食問題を解決した筆者に、車載用電池研究開発の責任者となる業務指示が出た。これも筆者にとっては「渡りに船」だった。人材も研究設備も、研究スペースも無いゼロベースからスタートしたこの大プロジェクトを、最初から責任者として関われたタイミングの良さを実感した。
 ここでも、「自分のキャリアなら成果を出せる」と考え、自身を鼓舞させた。その後、多くの研究開発を通じて知見を得つつ、その論理展開に反論される逆境を浴びながらも自分の信念を貫き、業務を遂行した。その結果、ホンダでの居場所を失うことになったが、それは今でも後悔していない。むしろ、次への飛躍になる転換点となったのである(2013年8月8日公開の「企業戦略に振り回される技術者」参照)。

サムスンへの移籍が大きな刺激とやる気に
 縁があって2004年9月に、韓国財閥サムスングループのエネルギー部門を担うサムスンSDIの常務として移籍した。そこでも、ホンダでのキャリアを軸にして業務の連続性を展開した。確かに、日本企業とは異なる文化に戸惑うことも少なからずあったものの、この経験はまた大きな価値観を筆者にもたらした(2013年8月22日公開の「サムスン移籍の理想と現実」参照)。
 考え方や業務の進め方で、同方向のベクトルを共有する韓国人役員もいたし、対立する関係にある役員も同等にいる中で、自身の論理や信念を曲げることはしなかった。ホンダでの経験、とりわけ信念の維持を基本に、反論意見を展開する幹部たちとの論理的闘いなどを経験した8年4カ月のサムスン人としての期間は、現在の筆者にとっては大きなキャリア財産となっている。

新社会人に届けたいキーワード
 筆者自身の40年間における企業人としての経験から、これから新社会人になる方々へ、届けたいキーワードループを以下のようにまとめてみた。

 流されない、ぶれない信念の貫きを起点・原点としていただきたい。ここが体幹であり軸になるからだ。その下で、不断の努力を惜しまないこと。努力は直接携わる業務のみならず、他の自己研鑽も必要だろう。
 それを通じて、大きな成果でなくても、小さくても良いから成果を導くこと。成功体験がなければキャリアの拡大にはならないから、常に成果導出を意識すること。それによって達成感や充実感に結びつけられる。
 そういうプロセスで自身のキャリアが形成される。キャリアは自身の武器となる。所属する企業や機関で、あるいは転職や転社においても、そして起業するうえでも、キャリアは最大の武器になる。逆に、キャリアを積まないと道は開けない。
 結局は、「自身が目指す自己実現とは何か?」を意識し、それに向かっている自分を発掘することに繋げて頂きたい。そして、信念を再確認するような循環ループである。
 筆者の実社会での経験と、そこから誘導した考えを記述したが、少しでも参考にしていただけたら幸いである。

2018/03/08

第114回コラム

合弁が難しい電池事業、韓国勢はフリーを選ぶ

技術経営――日本の強み・韓国の強み

電池業界の勝ち組になるための個社戦略は?

2018年3月8日(木)

佐藤 登

 2月28日から3月2日まで東京ビッグサイトで、新エネルギーに関する展示会「スマートエネルギーWeek」が開催された。二次電池展、水素・燃料電池展、太陽電池展などエネルギー関連の展示会に多くの参加者が駆け付けた。参加者登録だけで7万人を超え、海外からも8000人以上が参加すると言う盛況ぶりであった。
 参加者の所属機関や参加者自身を眺めれば、この業界でどういう動きになっているのかが伺い知れる。二次電池展では、海外勢はやはり中国、韓国が多く、欧州がそれに続く格好だ。二次電池では、欧米および中国市場での車載事業が活発になっていることがわかる。
 また、部材メーカーの展示ブースよりも、設備メーカーや試験機器メーカーの方に見学者が流れている傾向がある。それは、電池開発から生産技術開発というゾーンよりも、電池製造や品質確認と言うゾーンに関心の中心が移ってきたことを物語っている。
 昨今の中国NEV(New Energy Vehicle)規制、米国ZEV(Zero Emission Vehicle)規制、欧州CO2規制が絡み合い、自動車業界と電池業界は激動の中にいる。戦略、駆け引き、更には策略と言ったところまで、なかなか大変な状況に陥っている。
 これまで、どの自動車メーカー系列にも属さない電池メーカー間のランキングは、パナソニック、韓国LG化学、韓国サムスンSDI、中国CATL(Contemporary Amperex Technology Limited)、中国BYDであった。直近の状況は、パナソニック、LG化学、CATL、BYD、サムスンSDIという見方もある。それだけ、中国勢が躍進している。
 自動車の電動化シフトが進むことで、自動車業界、Tier1と電池業界における合弁事業や合弁事業解消など、動きが活発になっている事例が多々ある。以下に代表的な動きをまとめてみる。

(1)進むトヨタとパナソニックの協業
 1996年12月まで遡るが、当時のトヨタ自動車とパナソニックが、ニッケル水素電池の合弁事業をスタートさせた。パナソニックEVエナジー(PEVE)として協業を開始した(出資比率はトヨタ60%、パナソニック40%)のである。この時点で、最も動揺したのがホンダであった。と言うのも、トヨタと同様にホンダも97年には、当時の松下電池製ニッケル水素電池を搭載する電気自動車(EV)を米カリフォルニア州に供給する予定で、その直前の出来事だったからだ。
 この時、筆者はホンダ側のEV用ニッケル水素電池の開発責任者だったが、ホンダに対して何の事前説明もないままでの協業提携発表に関係者は不信の念を抱いた。その結果、ホンダでの以降のHV用電池の開発から調達戦略では、サプライチェーンを変える必要性が生じてくることになった。
 1997年12月にトヨタが世界で初めて市場に供給した「プリウス」は、PEVEで開発~生産された円筒型ニッケル水素電池を搭載した。そして、2000年には角型ニッケル水素電池に切り替え、現在もPEVEは角型に特化した電池開発から製造に軸を置いている。
 ホンダの最初のHVは、99年12月に発売された「インサイト」であったが、適用したニッケル水素電池は、松下電池工業の茅ヶ崎事業所で生産された円筒型ニッケル水素電池とした。これは、トヨタの息がかかっているPEVEからの調達を避ける戦略的判断であった。
 もっとも、インサイトへのエネルギー貯蔵主電源としては、大容量キャパシタを適用するビッグプロジェクトとして進められていた。しかし、技術判断する側と開発チーム側双方の論理に即しない無理な展開が強引に進められていた。「技術は嘘をつかない」と言う筆者の論理とともに、このプロジェクトは2006年に白旗を上げ、幕を閉じ、闇に葬られた。これについては、本コラム「企業戦略に振り回される技術者(2013年8月8日公開)」でも取り上げた。
 その後のホンダにおけるHV用ニッケル水素電池開発は、パナソニック系列から脱却する目的で、東芝との共同開発に切り替え、より性能や競争力の高いニッケル水素電池の開発に成功した。しかし、2000年に東芝が三洋電機に本電池事業を売却したことで、ホンダも方向転換を迫られた。結果として、東芝とホンダが開発した高性能ニッケル水素電池の技術が三洋電機に移植され、その後に、ホンダは三洋電機のニッケル水素電池を調達すると言うシナリオにたどりつくことになる。
 そのトヨタ側のPEVEに対する方針転換としては、2010年に出資比率をトヨタ80.5%、パナソニック19.5%として主導権を強化した。同時に「プライムアースEVエナジー(PEVEの表記は維持)」として新たな出発を果たした。また13年には、中国江蘇州常熟市に「トヨタエナジーシステム」を設立し、ニッケル水素電池パック事業を、そして14年には同地域に「科力美オートモーティブバッテリー」を設立し、セルからモジュール事業を立ち上げ、トヨタのHVに供給している。
 時が経過し、2017年12月13日にトヨタとパナソニックが、今度は車載用角型リチウムイオン電池(LIB)で協業する記者会見を開いた。ニッケル水素電池での協業から約20年の時を経て発信したこの提携劇は、自動車業界や電池業界に大きな波紋を投じた。中でも、15年にパナソニックのLIBを第二サプライヤーとして調達戦略を定めたホンダにとっては、96年に続く第2の衝撃となったはずである。
 上述したニッケル水素電池協業でのこれまでの実績を勘案すれば、トヨタとパナソニックのLIB事業での協業も自然の流れとも言える。両者間の事業ポートフォリオについては、現在検討中で詳細は明らかにされていないが、ニッケル水素電池事業と類似したビジネスモデルに発展する可能性はあるだろう。
 ただし、これまで角型LIB事業を特定の自動車メーカーに縛られず、フリーな立場を維持推進してきたパナソニックにとっては、これまで強いビジネスを構築してきたホンダや、米フォード・モーター、独フォルクスワーゲン(VW)との距離をどのようにとるのか、その戦略が問われるだろう。

(2)日産とNECの協業終止符から新たな展開へ
 2007年4月に設立された日産自動車とNECの合弁事業は、オートモーティブエナジーサプライ(AESC)としてスタートした。10年12月の日産初の量産EVである「リーフ」をはじめ、日産の電動車事業に貢献してきた。相模原市にあるNECエナジーデバイスで製造されるLIB電極をAESCに供給し、LIB完成品に仕立てるビジネスモデルである。
 しかし、電池業界間でのAESCの競争力不足感、および調達先を拡大することでの自由度確保とコスト低減などを理由に、日産は2016年夏にAESCの事業売却を決断した。1年の時間を費やし、AESCとNECエナジーデバイスは日産およびNECの本体から切り離された。17年夏に中国のファンド企業GSRに事業売却され、親会社は中国企業と言う形になった。4月1日付けをもって、「AESCエナジーデバイス」として再スタートする模様だ。
 NECエナジーデバイスは、電池工業会の正会員としても日本に貢献してきた。親会社が中国企業となったとしても、事業は国内で維持継続されることから、電池工業会の正会員としても継続されるとのこと。
 また今回、日産との資本関係が途切れたことで、フリーの立場を貫けるメリットも少なからずあるように見える。ひとつは、目下EVシフトの先端を走る中国市場で、中国の資本傘下になったことでビジネスモデルが大きく変わること。中国では補助金を受けられるエコカーの対象は、中国政府が認可した「バッテリー模範基準認証」、すなわちホワイトリストに登録された電池メーカーのLIBを搭載した場合に限られる。昨年後半、AESCは親会社が中国企業になったことからホワイトリストに登録された。これで補助金を受けようとする中国自動車各社にとって、調達先が増えたことになる。
 中国の自動車業界のみならず、日米欧韓の自動車各社にとっても調達戦略として活用できる。日産の中国におけるEV用LIBをはじめ、仏ルノーや現代自動車にとっても都合が良い。ルノーはこれまで韓LG化学のLIBと一部AESCのLIBを適用してきたからである。
 一方、現代自動車はLG化学製LIBを中心に事業展開してきた。しかし、LG化学がホワイトリストから排除されている現状は、ルノーと現代自動車の中国EV事業にとってLG化学は戦力外となる。LG化学が開発~生産しているラミネート構造の大手電池メーカーは、ほかにはAESCだけであることを考慮すれば、両自動車メーカーにとって使いやすいAESCのLIBが調達できることになる。これは米ゼネラルモーターズ(GM)においても同じシナリオになる。
 現時点でホワイトリストに登録されている電池メーカーの中で、最も安全性・信頼性が高いのがAESCである。なぜなら、AESCのLIBが搭載された電動車での市場における火災事故例は無いことがその証明である。リーフだけでも累積で30万台を超えた段階で火災事故が無い実績は、中国ローカルのホワイトリスト群の電池各社に対して、とても大きな存在となり強い競争力を示すものである。
 中国の電池メーカーで存在感を示すCATLやBYDにとっては大きな競合相手となり得、中国のTop3としての位置づけを確保するに違いない。
 このような環境変化を考慮すれば、AESCエナジーデバイスにとっては大きな事業拡大が見込まれる。現在、中国市場での新たな事業拠点設立に向けて準備しているようであるが、上記のような事業背景を考慮すると中国拠点を構えない手はないと言えるだろう。

(3)GSユアサと三菱、ホンダとの合弁における課題
 ジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)との協業をいち早く推し進めたのは三菱自動車だ。EV用およびプラグインハイブリッド車(PHV)用LIBの開発~生産に関するビジネスモデルで、三菱自動車とのつながりを高めた。三菱商事も加わる協業の合弁企業をリチウムエナジージャパン(LEJ)と命名し、2007年に設立した。
 2009年に発売した三菱自動車のEVである「iMiEV」および13年に発売したPHV「アウトランダー」に、それぞれ供給してきた。iMiEVは市場での人気度と浸透度は今ひとつ。一方、アウトランダーは人気度が高く、それなりに市民権を得た格好だ。その三菱自動車が電動車も含めてルノー・日産連合に合流したことでシナジーを出しやすい環境になったと言えよう。LEJの立ち位置も、これまでよりは好転する可能性がある。
 一方、GSユアサがホンダと合弁を形成して「ブルーエナジー(BE)」を設立したのが2009年4月。ホンダのHVやPHVにLIBを供給するビジネスアライアンスを組んだ。LEJがEVを中心とする容量型LIBであるのに対し、BEのビジネスモデルは、出力型LIBの開発~供給というスタンスをとる。
 ホンダの当初の思惑は当時の三洋電機と合弁事業を形成することであった。しかし、三洋側は特定の自動車メーカーとの協業体制をとらず、フリーな立場でワールドワイドのビジネスモデルを描いていたことから実現には至らなかった。そのホンダが選んだのがGSユアサだった。
 三洋電機とはニッケル水素電池でビジネスがあり、LIBでも筆者が共同研究プロジェクトを1999年にスタートさせた背景があった。ユアサとは小型EV用の高性能ニッケル水素電池開発で、筆者がプロジェクトリーダーの下でけん引し、実証試験にまで漕ぎ着けた実績の背景があった。
 ホンダ側の開発~調達戦略上で、現在のBEは、第2ベンダーのパナソニックと競合関係になる。現状のBEとホンダの関係は、やや弱いように映るが、先述したトヨタとパナソニックの協業を考慮すれば、ホンダはより積極的にBEを育成し強化する必要があるだろう。

(4)ボッシュとサムスンの離婚、二の舞のGSユアサ
 上記(1)から(3)までの事例は、自動車メーカーと電池メーカーとの協業事業であるが、Tier1と電池メーカーの協業ビジネスモデルも存在した。2008年にサムスンSDIと独ボッシュが車載LIB事業で協業を図り、SB Limotiveとしてスタートさせた。
 ボッシュにしてみれば、車載事業では大半を手の内に持っているが、唯一LIBセルを有していなかったこと。サムスンSDIにしてみれば、欧州自動車業界とのビジネスネットワークがなかったことから、Tier1のボッシュの力を借りて活路を開こうとする戦略があった。
 ボッシュサイドは、サムスンSDIの電池開発から製造技術に関するすべてにアプローチした。後から気付くのだが、ボッシュには端から電池事業を手中に収めたい意向があった。一方、サムスンSDIにしてみれば、欧州自動車業界へのアプローチはするものの供給契約は遅々として進まない。
 このような状況が4年間続き、2012年にはこの合弁事業を解消する手続きが踏まれた。結局、ボッシュにしてみればセル供給メーカーのサムスンSDIは対等なパートナーと言うことではなく、ボッシュが主導権を握る主従関係のビジネスモデルであった。そのため、信頼関係の絆を強くすることができなかったことになる。
 Tier1と電池メーカーの協業第2幕は、ボッシュとGSユアサの合弁で幕が開いた。2013年1月1日、「リチウムエナジー&パワー」(出資比率はボッシュ50%、GSユアサ33%、三菱商事17%)という名称で合弁事業がスタートした。ボッシュとしては、セルの調達元を失ったことで電池メーカーとの協業が必須になる。しかしこの時、筆者はこの両者の関係にリスクを感じ、本コラムでもその内容を記述した。
 欧州自動車業界にビジネスモデルを構築したいGSユアサにとっては、ボッシュとのパートナーシップ戦略は魅力的と映ったのだろう。サムスンSDIの前例があったので、いろいろとリスクヘッジはとったかとは思うが。
 本年3月1日の日本経済新聞の報道によると、2月28日にGSユアサがこの合弁事業の解消を発表したとのこと。解消の理由は報じられていないが、恐らくサムスンSDIが経験した思惑のズレが原因と考えられる。その証拠に、ボッシュは車載用LIBの自社生産を検討していたとされ、その自社生産を結局は断念したということだから。これも端からボッシュの都合で動いており、パートナーではなく、自社生産に至るまでの勉強と言う目論みであったに違いない。
 すなわち、サムスンSDIでのLIB開発~生産、そしてGSユアサでのLIB開発~生産プロセスを学び取り、自社内で可能となったら自社生産に踏み切ろうとしていた戦略が見え見えだ。したがって、最初からパートナーシップ戦略ではないところからスタートしていたことになり、それが明るみに出たことで解消へ至ったと理解すれば紐解ける。
 そこに至る布石は既にあった。2カ月ほど前、GSユアサが単独でハンガリーに数十億円を投資してLIB生産拠点を構えるという報道。リチウムエナジー&パワーが軌道に乗った合弁事業を進めていれば、このような単独投資はないはずと思っていた筆者にとって、この合弁事業がうまく機能していないと感じるのは難くなかった。
 この二つのイベントが示唆するものは、自動車メーカーと電池メーカーの合弁よりも、Tier1と電池メーカーの合弁はかなり困難を伴うと言うことである。この場合、自動車メーカーとLIBセルメーカーとの距離が遠くなるだけでなく、常にTier1が自動車メーカーの側にいて、セルメーカーはリアルタイムでのビジネス環境を把握し辛いところにいるからである。
 ならば、逆手にとってLIBセルメーカーがシステムメーカーのTier1を手の内に入れるという逆張り路線が良いかもしれない。ボッシュとの合弁で苦い経験を味わったサムスンSDIは、2015年、カナダのTier1サプライヤー、Magna Internationalの傘下にあるMagna Steyr(マグナ・シュタイヤー)の車載用LIBパック事業を買収した。Tier1を買収したことで、サムスンSDI自体がTier1になったことになる。
 同様に、自動車部品事業を拡大したいサムスングループは、2015年12月、サムスン電子内に自動車用「電装事業チーム」を設立した。そしてその後の16年11月には、米国自動車部品大手「ハーマンインターナショナル」(カーナビやオーディオに強い)を8600億円で買収することを決断した。
 車載用電池メーカーとしては、自動車各社との連携を強化し、強いビジネスモデルを構築するうえで、自らがTier1になる必要があることを、複数のイベントが証明した格好になったのである。

(5)独自路線を貫く韓国3強電池各社
 韓国3強を構成するLG化学、サムスンSDI、SKイノベーション(SKI)は、先に述べた自動車各社との協業スタイルをとらない。それは、自国の自動車メーカーは、現代・起亜グループのみに限られていることが一つの理由だ。むしろ、特定自動車メーカーとの協業ではビジネスが縛りを受け拡大しないと見ている。3強は、フリーな立場で欧米韓の自動車業界とのビジネス構築、ビジネス拡大を狙っていて、このスタンスは今後も変わらないはずだ。
 各社のビジネスモデルを個々に尋ねても、合弁スタイルの協業案は出てこない。それどころか、日本勢が大規模投資をできていない状況を横目に見ながら、韓国勢は欧州拠点構築に400~900億円規模の大投資を図り、将来の電池事業の拡大に勝機を伺う。
 もはや、車載用電池事業は投資戦略が重要になりつつあり、これはディスプレイ用の液晶事業と有機エレクトロルミネッセンス(EL)事業、および勝ち組のみが利益を享受できている半導体事業と相通じるシナリオに見える。この分野で韓国勢は、大きな力を発揮してきた。その成功体験から、LIB事業に関しても勝ち組になる戦略シナリオを描いているようだ。

勝ち組になるために
 日韓電池各社にとって、中国勢の台頭は脅威の範囲になりつつある。日韓勢に一日の長があるとすれば、極めて安定的な品質を維持しつつ、安全性と信頼性の部分では中国勢を大きくリードしていること。そしてグローバルに闘える知財戦略、更に全固体電池を軸とする次世代革新電池での先進技術がある。
 逆の見方をすれば、中国勢がこのギャップを真剣に埋めにかかるようなら、その危機感は一層拡大する。いずれにしても、既存LIB事業に関しては日韓中の電池各社間での競争が激化しつつある。今後の生き残りをかけて、個社の戦略が問われている。次世代革新電池においては、いかに先行して強力な知財を確保できるかにかかる。既存事業と将来事業とでは勝ち組になるストーリーは大きく異なるが、既存事業で成長できなければ将来事業でのチャンスはほとんどないだろう。

2018/02/22

第113回コラム

自動車の電動化における元素戦略と資源争奪戦
技術経営――日本の強み・韓国の強み
リサイクル事業の本格的ビジネスの勝者は?
2018年2月22日(木)
佐藤 登

 自動車の電動化が進む中で、電池やモーターの開発は日々進んでいる。その中で各元素の役割が極めて重要な位置にある。中でも希土類元素が様々な機能を果たすことで重用されている。しかし一方では、このような元素が世界の限られた国や地域に限定された形で存在しており、戦略元素として、資源精製の現場から資源確保の調達ビジネスまで含めて、大きな意味合いを有している。
 歴史を遡れば、筆者がホンダに入社した1978年のこと、自動車業界では排ガス浄化を図る触媒の研究開発が急がれていた。排ガスに含まれる一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)を酸化させ、それぞれ二酸化炭素(CO2)と水(H2O)に変換する機能、そして同時に排ガス中の窒素参加物(NOx)を還元するという酸化還元反応を瞬時に行い、排ガスを浄化させる技術の開発である。
 その触媒が白金(Pt)とパラジウム(Pd)、そしてロジウム(Rh)であることから三元触媒と称される。前二者が酸化機能を発現し、Rhが還元機能を発現する。酸化還元を同時に行うことで、ガソリン燃料と空気の比率が非常に限られたウインドーという範囲内で可能となる、極めて化学量論的には芸術的な世界なのである。
 自動車業界では、1980年頃から実用化され今に至るが、この触媒技術における課題は、いずれも高価な貴金属元素が必要となる技術からの脱却だった。例えばPtを使わなくてもよいような触媒の研究などが進められて来た。ただ、業界関係の長年の努力も空しく、いまだにPtは不可欠元素として君臨している。
 同じような事象は、家庭用や自動車用に適用されている固体高分子型燃料電池(PEMFC)でも存在する。水素-酸素の電気化学反応で発電機能を発現する燃料電池でも、触媒作用がない環境下では水素-酸素の効率的反応が進まない。その仲介的役割を果たすのがPt触媒である。この反応システムにおいてもPt使用量の削減、あるいはPtフリーとなる研究が今でも進められている。
 2000年代前半には、100kWh級のPEMFCに対して100gのPtが必要とされていた。したがって、当時でもPt元素だけで1台当たり20万円ほどが必要とされていた。その後、Pt使用量を1/2から1/3程度まで下げる技術が開発されてはいるが、Ptフリーにまではたどりついていない。20年以上の大きな課題になっているが、脱Ptシナリオ構築の出口は見えていない。恐らく、今後も代替元素の発見は無いかも知れない。

モーターに必要な重金属希少金属からの脱却
 日本のモーター技術は、磁石の技術で先端を走る日本のお家芸の一つである。ネオジム磁石と称されるネオジム(Nd)-鉄(Fe)-ボロン(B)が、モーターに使われるポピュラーな磁石である。しかし、モーターも高温下に晒されると磁石の効率が低下し機能を損ねる。そのために保磁力維持のための耐熱性向上の目的に、ディスプロシウム(Dy)やテルビウム(Tb)などの重希土類金属がNdを一部置換する元素として適用されてきた。
 しかし、このような重金属希土類元素は中国が最大の生産国であり、世界的な需要の拡大に伴って、中国政府が輸出や供給に関して関与するなど、その制限を強めてきた。特に、2010年から11年にかけては中国が事実上輸出制限したことで、これらの元素価格が10倍までに跳ね上がる高騰をもたらした。
 現在は価格もやや安定しているとはいうものの、当然ながら今後の調達に関して過敏にならざるを得ない。供給と調達戦略上では極めて不安定な元素であると同時に、今後の価格高騰も常に付いて回ることから、こうした元素に依存しない技術開発が強く望まれていた。
 このような背景からDyやTbを使わなくても、高温でも高い最大磁気エネルギー積(BHMax)を有す高性能磁石の研究開発が進められていた。ホンダでは、この高性能磁石技術を開発し、最新のモーターとして市販の電動車に適用している。
 他方、東芝では、もともと重希土類金属を含まず、しかもネオジム磁石より耐熱性が優れるサマリウムコバルト(SmCo)磁石で、より高耐熱な磁石技術の開発に取り組んだ。SmCo磁石のFe含有量を20重量%程度まで増やしてもBHMaxをある程度維持できることは知られていたが、そこまでの比率が限界とされていた。東芝では、更に溶体化熱処理条件の最適化、均一な組織形成、大結晶粒化などの技術開発により、Feを25重量%まで増加させる技術を確立した。
 この技術は、JR九州の新型305系車両に2015年から適用されている。今後は鉄道車両のみならず、電動車への適用も期待されている。いずれにしても、ネオジム磁石とSmCo磁石で、重金属希土類元素フリーの技術を開発した成果は極めて高い評価に値する。資源に乏しい日本が、先端技術開発で特定の高価な資源に依存しないことを目的とした研究開発は、さまざまな元素リスクに対して、今後の大きな指針とヒントになるだろう。

リチウムイオン電池の元素戦略
 リチウム(Li)やCoが多用されるリチウムイオン電池(LIB)は、1980年代前半の旭化成における原理研究から機構構築、そして1991年のソニーにおける世界初の量産によって大きく開花した。
 実用化当初の正極材は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)であり、Coは不可欠な元素として適用されていた(図の左上)。Coを用いないマンガン酸リチウム(LiMn2O4)も正極材として一部適用されてきた。2010年12月に発売された日産自動車のEVである「リーフ」のLIB(オートモーティブエナジーサプライ製)に適用された。

 しかし、正極の劣化に伴うLIB性能低下の問題なども露呈し、現在は三元系と呼ばれるニッケル-コバルト-マンガン(NCM)や、ニッケル-マンガン-コバルト(NMC)、そしてニッケル-コバルト-アルミニウム(NCA)などが主流となるほどに成長している。
 中国で主に適用されているオリビン酸鉄(LiFePO4)も、Coフリーのため注目されてきた。しかし、通常のLIBの作動電圧が3.6~3.7Vに対し、正極にオリビン酸鉄を適用すれば作動電圧が3.0Vにまで低下することで、性能魅力と言う意味では見劣りするのも事実である。
 それだけにCoは必要な元素となっているのであるが、ここにもCoの資源問題と調達リスクがつきまとう。資源と調達問題でいえば、生産国が政情不安なコンゴ民主共和国が約54%を占め、10%未満で中国とカナダという偏在ぶり。そしてそのコンゴでは、鉱山での児童就労問題が浮上している。すなわち、子供がマスクなどの保護具も身に着けないまま、手掘りで働かされている状況も今後の不安視される要因になっている。
 併せてCoの生産は、銅(Cu)やNi生産の副産物としてのみ確保されることが悩ましい課題である。CuやNiの市場価格が低迷すれば、これらの生産量は減少し、同時に減少するCoの価格が高騰するからである。
 それ以前に、現在の全世界的な電動車シフトの波を受けてCoの需要が増した。2017年後半のCo市場価格は、価格がほぼ安定していた16年後半に比べ約2倍の30ドル/ポンドを付けたことが象徴している。
 18年以降は各国の環境規制も手伝い、電動車の大幅な拡大が見込まれ、当然ながら元素戦略ではCo資源が台風の目となるだろう。住友商事はこのような背景から、6千トンの権益を確保しているとのこと(最近お会いした知人談)で、商社にとっても元素戦略から資源調達も大きなビジネスの柱となっている。
 2017年の世界のCo消費量は約11万トンで、そのうち中国が50%を占有、そして電池用途だけで56%を占めたとのこと(Beijing Antaike Information Development)。英エネルギー調査企業であるウッド・マッケンジーによれば、25年までにCo採掘量は20万トンを超えると見込んでいる。この時点で、電動車用LIBへの適用は6万3千トン規模との見通しだ。
 それだけに、今後はCo需要の増加が止まらない中、コンゴから産出されるCoはもちろん、カナダ、中国、ロシアからも産出されるCoの資源争奪が既に進みつつある。

Coに依存しない正極材料の開発
 先に述べたように、主流となっているLIBの正極材料にはCoが不可欠な元素構成になっており、この課題に対する取り組みが重要だ。究極はCoフリーにすることだが、そう簡単な話ではない。
 LIBの正極は三元系NMCをベースに改良が進み、高電圧系へシフトさせる開発が続いている。すなわち、NMC成分比率 1:1:1から、6:2:2へ。そして 8:1:1への更なる開発で相対的にCoを低下させていくというトレンドである。その場合のそれぞれの充電電圧は、4.15Vから4.25Vへ、そして4.4Vへという進化が期待できる。
 しかし、NMCに対してそういうシナリオが簡単には進まない課題も共存する。ひとつは、Co比率を下げる一方でNi比率を高めれば高めるほど、限りなくNCAやニッケル酸リチウム(LNO)に近づく。NCAやLNOは熱安定性がNMC(1:1:1)より劣り、安全性の面での懸念が生じる。
 事実、車載用でLNOやNCAを単独で適用する大型車載用電池は基本的に無い。NCAを適用するのはモバイル用LIB、あるいは米テスラが適用している小型の円筒形LIB「21700」、そして三元系とNCAをブレンドする材料設計など、用途は限られている。
 また、充放電電位が高くなればなるほど、電解液の分解し易さが助長されることにもつながり、これもまた安全性を阻害する要素となる。そのような意味から筆者個人としては、安全性や信頼性の高いNMCのハイニッケル化は、LIBの安全性を担保すると言う観点から逆行する方向にあると考える。
 ならば、三元系の性能特性を損なわず、しかも安全性を同様に維持できるCoフリーの元素戦略開発が非常に重要な意味をもたらす。この知財を構築できれば、今後のLIB事業において大きな主導権を握ることになろう。日本の先端材料技術へのアプローチにより、他元素との組い合わせなどから新技術が開発されることに期待したい。

リサイクル技術の確立とビジネスモデル
 資源確保や価格高騰と言う意味では、LIBのLiも重要な元素である。Liは鉱物から発見されたため、ギリシャ語で石に相当するLithosに由来してリチウムと命名されている。このLi価格も、2017年初頭比で17年末には30%以上上昇した。ただしCoと異なるのは、資源が世界的に分散していること、Li資源はLi鉱石や塩湖、あるいは海水と複数の源があることだ。
 もっとも、Li資源の権益確保は国や産業界にとって重要な課題だ。韓国の前大統領である李明博(イ・ミョンバク)政権時代に、韓国国家プロジェクトはWPM(World Premium Material)を2010年に立ち上げた。18年までのプログラムとして、LIBの新素材開発を加速させた。その一方で、前大統領はトップ外交として南米ボリビアのLi権益を確保するために奔走した。国家戦略としてのロビー活動の一環であった。
 LIBは有用な元素を含むだけに、回収からリサイクルに関するビジネスが大きな産業を生むことは必至である。特に車載用LIBから多量に回収される希少金属がその価値を握っている。
 ハイブリッド車(HV)に適用されてきたニッケル水素電池では、自動車各社の電池回収にはじまり、材料メーカーと共にリサイクル事業は定着している。同じように、車載用LIBの回収は自動車業界が中心となって進めつつある。
 当然ながら、リサイクルの事業化で重要なことは、コスト的に成立し収益を上げられるビジネスに発展させることができるか、そして火災や爆発事故を回避する安全性の追求である。
 従来技術としては、LIBを砕いて酸によって溶解した後に、希少金属を回収する方法が用いられていたが、処理工程が複雑で、その分、コストがかかるリサイクルプロセスとなっていた。
 これに対し、ホンダと日本重化学工業などが中心となって、新たな再利用技術を確立した。LIB電極の不純物を除去して溶解した後に、NiやCoを取り出すプロセスである。その回収した元素を新たなLIBに使用する技術である。まだ開発途上ではあるものの、2020年までの実証実験を通じ、25年の実用化を目指している。高効率かつ低コストプロセスを確立できれば、大きな知財となってグローバルな展開にも発展させられる可能性がある。
 1月29日から2月1日まで、ドイツ・マインツで自動車の電動化と車載用電池に関する国際会議「AABC(Advanced Automotive Battery Conference) Europe 2018」が開催された。昨年までの会議とは異なり、本会議では今後の発展が期待させるLIBのリサイクルに関する技術やビジネスモデルの議論が少なからずあった。
 例えば、ベルギーに本社があるUmicore(ユミコア)だ。LIBでは正極材料でトップを走る部材メーカーだが、いよいよリサイクル技術も部材事業と同様に大きな柱としてのビジネスを掲げた。正極のCo、Ni、Liおよび集電体のCuの回収とリサイクルを重点課題として取り組んでいる。その拠点は、約40億円投資して年間7千トン規模のリサイクルが可能となるベルギー工場をはじめ、米国、南米ブラジル、アジア太平洋、東南アジア、南アフリカと、6つを設けている。
 カナダのLi Cycle Corporationの試算によれば、2017年のLIB需要が100GWhに上り、21年は344.5GWhになるだろうと展望。一方、17年にリサイクルに回ったのは5~15GWhと見積もった。今後は電動車からのLIBがリサイクルされることで、リサイクル事業はビジネスチャンスと捕らえている。しかし、その過程での火災事故も多いので、今後はリサイクルに特化したスペシャリストが必要になるとも。
 いずれにしても、回収からリサイクルまでに至る事業は「静脈産業」であるが、材料・化学メーカーの技術力が欠かせない。結局は、競争力のあるリサイクル技術を他社に先行して事業化できれば、その恩恵は大きな形となって還元される。LIBの製造と言う「動脈産業」に特化する中国とは別に、リサイクルまで自己完結するビジネス競争をリードするのは、化学系産業競争力のある日本か欧州か、その覇権争いになるのではないだろうか。

2018/02/08

第112回コラム

窮地のテスラに立ちはだかる自動車トップ
技術経営――日本の強み・韓国の強み
2018年から本格化する熾烈なEV競争の先は?
2018年2月8日(木)
佐藤 登

 昨年後半から、米テスラの「モデル3」が生産地獄に陥っている状態、すなわち当初の量産計画通りの生産台数には全く届かず四苦八苦している状態が報道されてきた。その中には、自動車業界の競争意識、電池業界のビジネス戦略、そして大きな投資を要求されてきた部材メーカーの悲喜こもごもが盛り込まれている。
 遡れば2017年6月に、テスラは中国の上海市に電気自動車(EV)の生産工場を建設する方向であることを報じた。その場合の条件としては現地企業との合弁が前提とされていたが、果たして順調に進んでいるのか。現在の米国における状況を考慮すれば現実性があまり感じられない。
 CEOのイーロン・マスク氏は、電動車、とりわけEVの最大市場となる中国で巨大工場を建設すると述べていた。2018年の生産キャパは中国巨大工場の稼働分も含め 全世界で年産台数50万台の計画を掲げた。現在の生産台数との乖離が大きいだけでなく、そもそもこのような大量のEVを本当に量産できるのか、根本的な問題があるのではないだろうか。
 テスラは17年3月に中国ネット大手のテンセントから5%の出資を受けている。そして、同年4月にマスク氏が訪中した際には汪洋副首相と会談したとされている。もともとテスラは14年に中国市場に参入した。その後の16年には15年の3倍以上の売上高を記録した。米国からの輸出のため、関税と輸送費が課せられる格好であったが一大ブームを巻き起こしたことになる。だが、一定数が市場に出回った後には飽和感が漂い、頭打ちになったことも記憶に新しい。
 そのような中で、米国からの輸出よりも中国での現地生産に踏み切れば相応のメリットが出ると言う試算は正しい。だが、そこには想定外の誤算があったようだ。それは、35万台のバックオーダーを抱えていると言いながらも、それに見合った量産技術と生産体制の整備が進んでいないままでの生産をしているような実態だ。すなわち、本格的な生産技術が伴っていないという欠陥である。
 米国ネバダ工場だけでの量産台数としては週5000台ペースの生産を計画してスタートしたのだが、生産地獄に至ったことで17年7月に発売開始した直後には、その生産計画を17年末までと一旦延期した。さらに1月に入ると達成時期を18年4~6月期までと2度目の延期をアナウンスした。

テスラが陥っている罠
 2017年の第3四半期こそ売上高は前年同期比で8%増加したと言うが、1~9月間の営業損失は売上高の11.5%に達したとのこと。象徴するように、17年12月上旬の日本経済新聞の夕刊には、「テスラ暗雲、冷める投資家」というタイトルの記事が掲載された。
 それによれば、17年7月に出荷を開始した量産型EV「モデル3」の生産が計画を大幅に下回っていることが株価に大きく影響したという。17年7月から9月期までの「モデル3」の生産台数は当初計画であった1300台の2割に留まり、260台しか生産できなかったとのこと。しかも納車先は社員または会社関係者にのみだったという。
 17年9月18日に上場来最高値の389ドルを付けた株価は、そういう状況が影響して後に下降を続け、12月8日には最高値から20%を下げた。「モデル3」発表と同時にバックオーダーが35万台に達したと話題になったテスラだが、明らかに量産体制の脆弱さが露呈している。17年10月から販売が開始された日産の新型EV「リーフ」が現在抱える1万6千台、そして仏ルノーのEV「ZOE」が抱える3万台規模(ルノーの知人談)に比べれば、テスラへの期待感がいかに大きかったかは想像に難くない。
 先の日経新聞によれば、テスラの財務は火の車とのこと。時価総額で米ゼネラルモーターズ(GM)やフォード・モーターを超えたと話題になったものの、実態とは大きな乖離があるようだ。17年7月から9月まで1年間のキャッシュフローは約5500億円の赤字、しかも16年12月通期の3倍にまで膨らんだというから火の車と言う比喩が妥当だ。
 決算における巨額の赤字体質に対する補填と設備投資に対する資金は、増資と社債でやりくりしている模様である。17年9月時点での手元資金は4000億円規模であるようだが、一方、負債額は1兆1000億円程度を抱えていると見られている。返済に追われる現状での打開策は、そう簡単ではないように映る。
 現在抱えているバックオーダーは、いつになったら全車納車になり得るのか、現状を踏まえると数年はかかる計算になる。一方、本年から米国ゼロエミッション自動車(ZEV)規制が急激に強化され、19年からは中国の新エネルギー自動車(NEV)規制が待ち構える。そして21年からは欧州におけるCO2規制が発効することで、世界の自動車各社は否が応でも電動化シフトを実行しなければならない。

日米欧の電動化戦略
 これを議論すると、ますますテスラは窮地に追い込まれると筆者は予測するが、同じ意見を有す読者の方々も少なくないのではと察したい。
 先週の1月29日から2月1日までの4日間、ドイツ・マインツで自動車の電動化と車載用電池に関する国際会議「AABC(Advanced Automotive Battery Conference) Europe 2017」が開催され、筆者も参加した。予想はしていたというものの驚いたことはまず、昨年の700人規模の参加者が一気に1000人を超えたこと。欧州で開催された本会議の参加者急増加が、欧州自動車業界を始めとする電動化シフトが現実的なものとなってきたことの証しでもある。
 これまでも欧州勢、特にドイツ勢のダイムラー、BMW、そしてフォルクスワーゲン(VW)が数兆円規模の投資を図り電動化へのかじ取りを行っていることは報道されてきたが、その気迫を実感できる良い機会であった。そこにはドイツ勢のみならず、ルノーの電動化に対する積極的な戦略も発信され、まさに欧州で進んでいるEVシフトは言葉だけではない実態が伴う本格的なムーブメントである。
①欧州勢の電動化へのかじ取り
 2015年に発覚したVWのディーゼル燃費スキャンダルが引き金となり、加えてドイツのメルケル首相が発信した将来的なディーゼル車の排除が重なり、ドイツの自動車各社はリベンジの意味も込めつつ電動化には極めて積極的である。リップサービスで建前論的と、周囲には疑問視する意見もあるようだが、現在の各社の取り組み姿勢を考えれば、決して一時凌ぎの発言とは思えない。
 ドイツ勢各社による開発投資計画、車種数の具体的発信、日本人エキスパートの積極的人材活用、電池各社に対する求心力の増大――これを裏付ける事例は山ほどある。
 ドイツ勢もフランス勢も昨今、車載電池に対する考え方を大幅に変えてきた。従来、電池は調達部品の1つとしてしか考えていなかった各社は、電池パックシステムをボッシュのようなTier1に委ねる戦略を推進してきたが、それでは競争力や差別化を図れないと漸く気付いた。電池セル単体は調達戦略のもとで受け入れるが、それ以降のモジュール化から制御システムまで包含した電池パックシステムを自社内での自前化にシフトさせている戦略に方向転換した。
 更なる裏付けの1つは、韓国トップ3の欧州拠点構築の動きだ。ポーランドでいち早くリチウムイオン電池(LIB)の生産拠点を構えた韓国LG化学は、第一次の400億円規模投資を終え2017年後半から生産を開始した。今後、さらなる第二次投資計画を進めようとしている。サムスンSDIはハンガリーに400億円規模の投資にてLIB生産拠点を作り、本年中の稼働を目標にしている。
 そして韓国の第3勢力であるSKイノベーションはハンガリーに、850億円を投資し生産拠点を構え、2020年の稼働を目指すと言う。韓国のトップ3の電池メーカーが欧州に拠点を構え、しかも巨額投資を行うという同じベクトル化にあるということをどう考えるべきか。
 筆者がサムスンSDIに在籍していた経験から類推するに、マーケティング活動が日本勢より数倍積極的な韓国勢が、当てもなく巨額投資するはずはない。それには電池各社の十分な算段があるはずで、供給契約と言わずとも、それなりの可能性にかけている節がある。
②米国勢の電動化へのかじ取り
 GMもフォードも、ZEV規制、そして中国市場での展開もしたたかな戦略を進めている。欧州勢ほど大々的なEVシフトをしてこなかったのは、欧州勢がディーゼルスキャンダルの解決策で大々的に発信したスタンスとは異なり、じっくり練った戦略を打ち出しているためである。テスラのEV事業とは一線を画し、むしろ自動車の歴史を牽引してきた米国トップ企業の余裕すら感じる。両社にとって、テスラは気にはなるが大きな脅威とは感じていないようだ。
③日本勢の電動化へのかじ取り
 日本勢はまた特有の戦略を有している。特にトヨタとホンダには強力なハイブリッド車(HEV)があるからだ。日本ではもちろん、最近では欧州でも、そして中国でもHEVの販売が伸びていることが象徴している。
 ZEV規制、NEV規制においてHEVはクレジットにカウントされるカテゴリーから排除されている。しかし、そのHEVが日本ではもちろん、欧州、そして中国で販売を拡大している事実は何であろうか?
 取りも直さず、消費者にとってHEVが魅力ある製品であることに違いはないからである。ZEV規制もNEV規制でも、トヨタとホンダのみが勝ち組であるHEVであるからこそ、各規制でのHEV排除が行われたこと。一方では、HEVが燃料節減や充電器設備投資が不要なる商品であることから使い勝手の良い電動車として認知を得ていることに他ならない。そういう日本のトップ2でも、いざEVの商品化を実現する段階では、トヨタもホンダもEVは個社のプライドをかけて発信して来るはずだ。

テスラの行方は?
 以上のように、量産技術を得意とする日米欧の自動車各社の姿勢は、現在テスラが抱える病とは無縁な状況下にある。
 前述した世界のトップブランドメーカーがEVシフトに立ち向かうことで、テスラの行方にも大きな影響を及ぼすことは間違いないだろう。今回のAABC国際会議に参加していた日本人、部材メーカー、電池メーカー、調査会社、コンサル会社の知人達と筆者を含む8人は、会食会の場で今後のテスラの行方を占った。
 そもそも大量生産をしたことがないテスラが、一気に50万台規模の量産を具現化するのは困難で、数年の時間はかかるはず。「モデルS」のような尖った高級路線での存在感はそれなりにあるが、「モデル3」のような普及車カテゴリーでは、真っ向から世界の名だたる自動車各社のEVと直接比較される。そこではテスラの選択肢や存在感は大きなものではなく、むしろトップブランドのEVの方が安全性や信頼性で消費者の関心を惹くだろうと。
 そして、現在の生産地獄が長引けば長引くほどキャッシュフローの改善は見込めず、経営はもっと窮地に陥るはず。シナリオとしてありうるのは、17年春にGMの時価総額を超えたテスラだけに、それを武器に中国企業に売却することだ。生産地獄から逃れる短絡的な解決方法の手段のひとつのような気がする。

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