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日経ビジネスオンライン

2018/07/27

第123回コラム

中国の新エネルギー車規制にどう対応すべきか?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
自動車業界、電池各社の思惑と過度な期待
2018年7月26日(木)
佐藤 登

 6月14日の本コラムにて、「車載電池のグローバル市場揺さぶるCATL旋風」を執筆した。その中で、「欧州での生産拠点構築を標榜している中国寧徳時代新能源科技(CATL)に対して、ドイツ政府はドイツ国内への生産拠点構築を働きかけているようだ。仮にCATLが相応の生産キャパをドイツで構えることになれば、CATLへのジャーマン3の期待感と依存度は急速に拡大する。これは、ポーランドやハンガリーに拠点を構え、あるいは構えようとしている韓国3トップにしてみても脅威になるだろう」と記述した。

CATLの欧州地固めの具現化
 その噂は真実となった。日本経済新聞の7月11日の報道によれば、中国の車載用リチウムイオン電池(LIB)のトップメーカーであるCATLが、海外初の生産工場を独チューリンゲン州に建設する。2017年には車載用電池でパナソニックを抜いて、世界最大手の電池メーカーとなった同社は、ドイツでの投資を1000億円を超える規模にするとのこと。
 7月9日に、CATLの首脳陣がチューリンゲン州で独州政府関係者と会って、生産工場建設に関する契約に対して正式調印したとされている。21年に稼働させ、22年には14GWhの生産キャパにするということだが、このキャパは17年のCATLの世界出荷実績12GWhを上回ることになるから、半端ない規模になる。新規雇用も600人とのこと。2020年におけるCATLの全生産キャパは、50GWhを予定している。
 確かに、独BMWからCATLが数千億円規模の電気自動車(EV)用LIBを受注したという事実、他にも独ダイムラー、独フォルクスワーゲン(VW)、仏PSAグループ、英ジャガー・ランドローバー(JLR)などとの供給契約を交わしてきた既成事実が背景にあることで、確度の高いビジネスモデルを構築した格好だ。
 欧州では、既にLIB生産拠点の稼働を開始した韓国LG化学、18年内に稼働を予定している韓国サムスンSDI、そして20年の稼働を目標としてハンガリーに850億円を投資する韓国SKイノベーションの韓国トップ3とCATLの4社が、欧州自動車各社からの受注争奪戦を繰り広げる舞台が整った格好になった。

BYDも強気の戦略を明らかに
 中国BYDの生産キャパ拡大の強気な戦略についても、6月28日の日本経済新聞は大きく取り上げた。その報道によれば、青海省西寧市で車載用LIBの新工場を稼働させ、2020年には生産キャパを現在の4倍に拡大する。これまでは、知財の障壁もあり、あくまで中国国内での自社内でのビジネスに留めていたが、今後は自社以外の自動車メーカーへの外販も開始し、先頭を走るCATLを追い上げる戦略に出る。
 同時にリチウム資源を含めて3000億円以上の投資という。青海省は塩湖が多く、中国国内のリチウム資源の約8割を占めることから、本社がある深センから北西2000kmも離れているこの地を中核拠点にする理由がある。
 新工場の生産キャパは24GWhとされ、1700億円規模の投資とのこと。このキャパは、BYDが17年に生産する新エネ車の10倍以上の販売台数がカバーでき、BYDのプラグインハイブリッド車(PHV)換算で120万台に相当するという。このため、自社内ビジネスに限らず外販ビジネスを行うのが前提となる。
 この新工場以外にも、車載LIBの工場建設で地元政府と合意しているとのことで、1500億円規模の投資で新たに20GWhのキャパを構築しようとしている。既存の広東省の2工場は16GWhの生産キャパを有していることから、2020年には全体で60GWhの能力を持つことになる。この急速なキャパ拡大を見ると、どうもCATLとの覇権争いのような数字競争のようにも映る。
 と言うのも、現在の中国の新エネルギー車(NEV)規制が必ずしも論理的でなく、かなり歪んだ法規になっていることで、その法規制がそのまま上手く浸透するとは思いにくいからである。もしそうであるならば、CATLにしてもBYDにしても、その思惑が軌道に乗らないリスクもあり得るだろう。

歪んだ政策には歪が生じる
 中国NEV規制の矛盾を考えてみる。NEV規制は米国ゼロエミッション車(ZEV)規制を見習った法規で、下の表のような内容である。すなわち、自動車各社に対しエコカー導入を強制するものだが、対象は年間3万台以上を生産する企業となっている。エコカーで対象となるのは、PHV、EV、そして燃料電池車(FCV)である。
 中国内でのエコカーの実態はカテゴリーによって大きく異なる。PHVはエコカーの対象になっているものの、所詮はハイブリッド車(HV)の延長上の車である。中国政府はエンジンがあるHVは、ローカルの自動車メーカーでは日本勢に敵わないことからエコカー群から外している。PHVもHVと同様な難度であるから、中国のローカルメーカーがPHVを開発し生産するのはハードルが高い。その証拠に、PHVを生産販売しているのはBYDのみという実態からは、今後もPHVを生産販売するメーカーは出現しにくいものと見られる。
 FCVは更に難度が高い。部品点数の多さ、コストの高さ、水素を高圧(350~700気圧)で扱うこと、各部材やコンポーネントの10年以上にわたる長期信頼性の確保など、EVに比べると新規参入は極めて厳しい。
 全世界で市販に漕ぎ着けたのは、トヨタ自動車、ホンダ、韓国現代自動車の3社のみである。トヨタとホンダは米国での販売も累積で500~700台規模となったものの、現代自動車は1台も販売できていないという大きな差が生じている。トヨタとホンダは基礎研究時代から数えると、おおよそ30年の歳月をかけて実用に供した。
 そのトヨタやホンダでも、ZEV規制やNEV規制に対してクレジットをクリアするためにFCVの台数を増やせば増やすほど、経営を圧迫することになりかねない。一方、日産自動車・ダイムラー・フォード連合は、本年になって開発を凍結している(6月28日コラム「日産が開発凍結を宣言した燃料電池車の行方」参照)。
 このような実態の中で、現在の中国におけるFCV開発のレベルは、実用化した3社とは技術的な側面や知財面、ビジネスモデルで大きな乖離がある。今後の推移を考慮しても、中国ローカル自動車メーカーが本格的にFCV開発を進めるとは考え難い。とすれば結局、中国勢にとっての最大の可能性はEVという解となる。しかし、これは消去法的選択肢であり、EVの拡大に過度な期待を抱いている現実は、大きなリスクを抱えるものでもある。

補助金制度の行方とシナリオ
 前の表に記述してあるように、EVを中心とした補助金制度は2年後の2020年に終了する。昨年からは補助金を受けた規模に応じて、既に減額されつつある。最も補助金を受けたBYDが減額スピードを速められている。事実、補助金減額の進行と共に、中国でのEV販売にブレーキがかかっているのも事実だ。20年の補助金制度の行方によって、そのシナリオに応じた様々な現象が想定される。いずれにしても大きな問題を抱えることになろう。
 補助金制度の終了による最悪のシナリオは、補助金頼みの中国ローカル自動車各社とつながる電池メーカー各社、および部材メーカー各社の大規模倒産または経営圧迫だ。このような事態になれば、中国政府が唱える「自動車強国」は破綻するだろう。
 2017年8月、日産傘下にあったオートモーティブエナジーサプライ(AESC)は、中国ファンド企業のGSRキャピタルに売却されることが決定。順調に進めば18年4月1日付けで、「AESCエナジーデバイス」として新スタートを切る予定であった。しかし、4月末まで延期され、その後6月末までへの延期となったが、GSRに出資する投資家の一部が200億円規模の資金確保ができなかったことで、GSR側の買収はキャンセルとなってしまった。
 投資家の資金調達が順調に進まなかった真相は明らかにされていないが、昨今の補助金減額が明らかにEVビジネスに大きな打撃を与えている現実から、20年以降のビジネスリスクを考慮したと捕らえても不思議ではない。
 一方、21年から新たな補助金制度を導入してEVシフトを再度支援することになれば、一時的なビジネス拡大にはつながる。しかし、補助金がなくても自立できるビジネスにならなければ、いずれは破綻する。
 中国の消費者がHVの価値に気が付き始めていることで、補助金なしでも自立できているトヨタとホンダのHVビジネスには更なる追い風が吹く。すなわち、1990年9月のZEV規制発効からの長期にわたり、全方位的に開発からビジネスを進めてきた日系勢には、中国ローカルメーカーとは真逆なビジネスチャンスになるだろう。

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