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日経ビジネスオンライン

2018/08/23

第125回コラム

繰り返される不正、企業統治はどこまで可能か?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
法令違反に対する新たな見直しの必要性
2018年8月23日(木)
佐藤 登

 2017年10月12日のコラム「相次ぐ法令遵守違反、未然に防ぐ3つの要件」では、神戸製鋼所のデータ改ざん問題、および日産自動車の検査システムでの法令違反を採り上げた。日本のみならず世界的に波紋を呼んだ問題であっただけに、その反響は大きく、特に神戸製鋼のデータ改ざんに関しては、直後の10月15日のテレビ朝日で生放映された「サンデーライブ」にゲストコメンテーターとして招かれ発言したほどだった。
 もう一つの話題として採り上げた日産自動車の検査不正問題は17年9月に発覚した。製品出荷前の完成車検査で、資格を有しない社員が担当していたことが明るみに出た。続けてスバルでも同様な問題があり、業界内の大きなスキャンダルとして社会に大きな衝撃を与えた。その後、自動車業界では棚卸が相次ぎ、自浄作用が機能するかに見えた。
 自動車業界ではこの検査不正問題とは別に、燃費不正問題が既に浮上していた。燃費不正問題は2015年9月に発覚した独フォルクスワーゲン(VW)に端を発した。VWのスキャンダルは巨額な補償問題へと発展し、全世界での販売に大きな悪影響をもたらした。それのみに留まらず、ディーゼルエンジンに対する厳しい逆風も吹き荒れ、その対応の一環として同社は大胆な電動車シフトへと舵を切った。
 同社は2025年には、自動車全体の25%をプラグインハイブリッド車(PHV)または電気自動車(EV)にする方針を発表している。同じドイツ勢のダイムラーとBMWも、口裏を合わせたように同等な目標を掲げている。ディーゼル燃費不正スキャンダルに対して、電動車シフトは大きなイメージアップとして利用されているような節もある。
 日本では、16年に三菱自動車の燃費試験データ改ざん問題が発覚し、同年にはスズキも法令で指定されていた方法ではない独自の燃費測定を行っていたことが発覚した。
 一方、2018年になると、スバルが製品出荷前の検査工程で燃費・排ガスデータを書き換えていた問題が発生した。これがきっかけとなり、日産自動車では燃費・排ガス測定の抜き取り検査で5月から6月にかけて不正が行われていたことが確認された。調査台数2187台分のデータを調査した結果、何と約54%に相当する1171台に不正があったという衝撃的な事実である。
 再発防止策として打ち出した法令遵守の社内教育をしたはずの日産で起きただけに、ことさら衝撃的な問題と化した。燃費・排ガス問題は、その後も明るみになった。8月9日には、マツダ、スズキ、ヤマハ発動機でも同様な問題が発生していたことが公表された。正に自動車業界の品質神話は崩壊した。
 こうした事件と言ってもおかしくない一連の問題が生じたことで、自動車業界内では他山の石として教訓になるだろうと考えていた。しかし、その後も不正問題が続出し、止まることを知らなかった。
 逆に、これら問題を引き起こしていないのは、トヨタ自動車、ダイハツ、ホンダのみ、すなわちトヨタグループとホンダだけとなっている。ではなぜ、この2グループは問題を引き起こしていないのだろうか。
 8月10日の日本経済新聞によると、トヨタでは燃費と排ガスの検査装置を自動化することで、人の手を介さずに結果が出るシステマティックな手法を導入している。同じグループのダイハツが同様なシステムを導入しているかどうかは不明だが、グループ内で水平展開されている可能性は高いだろう。
 ホンダの場合は、トヨタと同様なシステムを導入しているかどうかは不明だが、導入していなくても生来の生真面目さや実直な企業文化があるから、そこまでの不正が起こらないような風土があるだろうと筆者の経験からは映る。
 創業者の本田宗一郎は、曲がったことは大嫌い、また理不尽で論理が伴わないのも大嫌い、常に実直で真っ向から立ち向かうエンジニア魂の持ち主であった。そういうDNAが時代を超えて継承され、自ずと自浄作用が働く企業文化になっていると思える。

歯止めには厳しさが必要
 ともかく、問題を起こさないようにすることが必要だ。2017年10月12日のコラムでは、その防止策として次の3点を述べた。
1. まずは、産業界各社での棚卸が必要だ。他山の石として教訓にすべきことは大前提として、経営トップから現場社員に至るまで、法令遵守違反が企業にどのようなことをもたらすのかの教育の棚卸である。
2. 2つ目としては、内部告発制度をつくること。経営トップの法令遵守意識の感度が低ければ、管理職もそして現場までも伝わりにくい。その結果として、都合の悪いことが言えない風土となる。こういった風土をつくらないためにも、ガバナンスの取り組みとして、経営陣へ直接提起できる内部告発制度が必要だ。告発した本人が不利益を受けないことはもちろん、むしろインセンティブを与えるくらいの経営方針をうたってほしい。
3. 3つ目としては、法制度に関する国の監視体制の強化だ。抜き打ち調査を実施したり、報告基準を強化したりなどが必要だろう。しかし、それでも完全な歯止めとすることには限界もある。であれば、法令遵守に違反した際の国側からの罰則を数段厳しくすることが必要かもしれない。巨額なペナルティを課す、経営トップなどの主要経営陣の退陣を迫るなど、これまでにない施策が必要であろう。
 残念ながら、①と②の施策は効果をもたらしていないようだ。しかし、この二つは各企業単位で地道に取り組んでいく必要がある。法令違反の場合の罰則が緩い分、緊張感が伴っていないということであろう。
 国土交通省は8月10日からパブリックコメントを募集しており、9月に省令の自動車型式指定規則を改正するとのことだ。いずれにしても、このような違反に対しては企業責任として、人事の更迭刷新と罰則金を明確にして科すルールが必要なのではないだろうか。
 自動車各社に品質担当役員を登録させ、その責任を明確にして追及する仕組みの設定。問題が発生すれば更迭はもちろん、退任に追いやるくらいの責任体制だ。
 このような不正問題が生じれば、たとえば韓国サムスングループでは役員が責任を負わされ、即、退任の対象となる。日本の場合は、その判断に時間がかかり、事が大きくなって初めて人事問題にたどり着き、やがて社長の辞任などにつながるケースが散見される。より客観的で明確な人事刷新につながるプロセスが必要と思える。
 罰則金も客観的指標をもって対応させることが良さそうだ。例えば私案であるが、不正扱いとなった対象台数をN、不正扱いをしていた期間をT(月単位)、台当たりのペナルティ額をP(万円/台)として、以下のように、その積算を罰則金として算出するような制度の導入である。
罰則金 = N × T × P
 当該製品を保有するユーザーは非常に不快感を味わうことになる。中古車市場では価格下落につながることでもあり、このPはユーザーへの迷惑料とも言うべき意味合いで還元すべき罰則金と定義したい。Pの数値は違反の内容や程度によって随時設定するにしても、これまでにない新概念のペナルティである。
 他の部分の罰則金は、法令制度を策定して自動車業界を束ねてきた国土交通省への上納、および自動車業界全体に迷惑をかけることでの自動車工業会への上納のような形をとるのが適切ではないだろうか。
 更に加えて、トヨタで実施している燃費と排ガスの検査装置を自動化することは有効な手法であることが証明されていることから、他社でも人の手を介さないシステムの手法を導入することも実施すべきであろう。
 自動車に限らず、これまでも部材や建築などでも多くの問題や不正が明らかにされてきた。性能、品質、信頼性を付加価値として訴求してきた日本製品の神話が、あちこちで崩れつつあることを勘案すれば、厳罰という制度を一度かざした方が良さそうに見える。

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