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日経ビジネスオンライン

2018/09/28

第127回

中国製リチウム電池が信頼できない理由

車載用電池に対する自動車各社の異なる見方
2018年9月27日(木)
佐藤 登

北京モーターショー2018に展示された米ゼネラルモーターズのEV「ヴェリテ 6(Velite 6)」(写真=AFP/アフロ)
 9月13日のコラムでは、「爆走中国EV、電池業界に起きている異変」を執筆した。これまで報道されてきた中国でのEVシフトや、そこに連結する電池業界の勢いが以前ほどないこと、それどころか経営危機に陥る企業も出てきていること、そしてその背景にあるものなどについて考察した。
 変化が起きている最大の要因は、中国政府が打ち出してきたエコカーへの補助金を減額していることによるものだ。補助金は2020年には消滅する予定になっている。となれば、事態は一層深刻化すると思われるが、中国政府の面子もかかっているこの状況の中で、新たな政策がどのように出てくるのかが着目される。

中国製電池の信頼性は大丈夫か?
 米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」の報道を、中国メディアの「OFweek」が9月14日付で伝えた。それは、米ゼネラルモーターズ(GM)が2019年に市場投入を予定しているビュイックブランドのEV「ヴェリテ6(Velite 6)」に関するもの。適用している電池メーカーのリチウムイオン電池(LIB)の性能が要求に届かないこと、更には安全基準にも適合しないため、発売を遅らす可能性が高いというニュースである。
 報道によると、ヴェリテ6にLIBを供給するのは中国Wanxiang Group(万向集団)傘下のA123システムズである。浙江省杭州の工場でヴェリテ6に搭載するEV用電池を生産している。ヴェリテ6にはプラグインハイブリッド車(PHV)もあるが、こちらは近く生産に入るとのことだ。
 OFweekによると、GMは当初、韓国LG化学製のLIBを採用する計画であった。しかし中国政府が定めた16年の規定、それは「バッテリー模範基準認証(通称、ホワイトリスト)」を取得していない企業のバッテリーを搭載するクルマは中国国内での補助金を認められないというものだが、日韓勢のLIBは認定されることはなかった。すなわち、LG化学製LIBを搭載したエコカーには補助金が付かないということを意味し、LG化学のビジネスモデルが崩れたのである。代わりに、GMは補助金を受けられるA123システムズ製のLIBの採用を決めたという経緯である。
 このような影響はほかでも起きている。独フォルクスワーゲン(VW)も中国市場でLG化学のLIB適用を検討していた。しかし、このホワイトリストの影響により、VWはLG化学から中国CATL製のLIBに転換しているようだ。独BMWは、2013年に投入したEV「i3」、およびPHV「i8」にはじまって、すべてのEV、PHVに韓国サムスンSDIのLIBを調達してきた。そのBMWも中国市場でのビジネスモデルを勘案し、新たにCATLとの契約を取り交わしている。
 A123システムズのLIBがどの部分でGMの要求性能に満たないのか、そして安全基準を満足しないのか、その詳細は明らかではない。A123システムズは、元はと言えば米国で育ったベンチャー電池企業である。米国カリフォルニア州で1990年9月に発効したゼロエミッション車(ZEV)法規に適合させるべき、1991年には米国先進電池研究組合(USABC)が設立された。以降、米国では電池研究から事業化を目指す電池ベンチャー企業が乱立した。A123システムズもその一つであり、米国生まれの企業である。
 同社はマサチューセッツ州ウォルサム市にて2001年に創業した。米マサチューセッツ工科大学(MIT)で開発が進められていたオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)をLIBの正極材料に適用したEV用電池の事業化を進めていた。A123システムズのEV用LIBの開発は、ブッシュ大統領が推進していた水素エネルギー政策に打って変わって、2008年に就任したオバマ大統領がグリーン・ニューディール政策を打ち出したことで、米エネルギー省から2億4900万ドルの助成金を獲得するに至った。ミシガン州の生産工場を基盤として、その後は中国にも工場を進出させた。
 潤沢な開発資金を手にした同社は、米国を中心に自動車メーカー各社と契約を結び供給を開始した。しかし、A123システムズ製のLIBを搭載した米フィスカー・オートモーティブの高級PHV「フィスカー・カルマ」が、2011~12年にかけて炎上や爆発事故を起こした。原因はLIBの品質にあるとされ、PHVはリコールの対象となった。
 A123システムズには5500万ドルものリコール費用が発生しただけでなく、製品の評価が奈落の底に落ちてしまった。その後も、LIBの供給商談が破談になるなど致命的な打撃を受けた。同時に、中国企業の万向集団がA123システムズを2億5600万ドルで買収した。米国政府が税金を投じて育成したはずの米国ベンチャーは国籍を中国に変える形となり、米国籍を失った。この一連の煽りを受けて、13年11月には、フィスカー・オートモーティブも経営破綻に陥ってしまった。

安全に対する開発基準と意識が異なる日本勢
 歴史をヒモ解けば、LIBが車載用、特にEV用に適用されたのは、2009年に三菱自動車が発売した「i-MiEV」、そして翌10年に日産自動車が発売した「リーフ」に遡る。10年からは中国ローカルメーカーも、タクシーやバスなどに適用し始めた。しかし、そこからEVの火災事故が多発した。BYDのEVバスもご他聞に漏れない。
 米テスラのEVである「モデルS」は、13年に米国市場で立て続けに5台の火災事故を起こしている。16年にはフランスの試乗会で火災事故を起こし、その他、ノルウェーやスウェーデン、そして中国市場でも火災事故を起こした。
 一方、日系勢のEVはこれまで、火災事故を1件も発生させていない。日産のリーフは累積販売台数が35万台を超えている。火災無事故は誇るべき実績である。BMWのi3も、そして販売台数規模は小さいものの12年に発売したトヨタ自動車のEVである「eQ」、同様にホンダの「FIT EV」も火災事故とは無縁である。
 ではなぜ、このような差が生じるのか? それには筆者の持論がある。筆者がホンダ時代に車載電池の研究開発に直接携わり、自動車メーカーの視点で取り組んできた経験、更に、サムスンSDIではLIB開発から事業に至る供給側の立場で取り組んできた経験から以下のように考える。
 電動車開発における重要コンポーネントとしては、モーター、電池、インバーターなどが代表として挙げられるが、何といっても火災事故の誘因となるものは電池である。とすると、自動車側の立場では車載電池をいかに安全で信頼性の高いものに設計・開発するかという視点が極めて重要となる。
 LIBでは充電放電に伴う発熱は適用する正極材料によっても異なる。また、充放電時の正極の結晶構造の変化度合いも材料によって異なる。逆にいえば、様々なLIBを設計できることにもなるが、安全性と信頼性の確立は殊更重要だ。電池が暴走しないような充放電制御機構や冷却システムも不可欠である。
 制御系が万が一、故障してもLIBの火災や爆発を起こさない設計・開発が基本的に必要だ。そのためには、開発品のLIBが過酷な条件においてどうなるかという、いわゆる限界試験による確認が大切である。1991年から着手したホンダでの電池研究開発においても、当初から独自の限界試験を相当盛り込んだのである。
 2004年9月にサムスンSDIに移籍してからは技術経営に臨んだ。その折に、世界の自動車各社を訪問した。そして、同社を退社する12年末までに多くの協議を重ねてきた。ホンダ時代にはできなかった自動車各社への訪問は確かに新鮮であった。なぜならば、自動車各社が車載用電池に対してどれだけの意識をもって開発にあたっているか、そしてその試験法や基準がどういうものかを直接知ることができたからである。もちろん、国内の古巣であるホンダやトヨタ自動車、日産自動車、三菱自動車、マツダ、スズキ、スバル、日野自動車などとも、かなりの協議や意見交換をしてきた。
 そこで実感したのは、欧米自動車各社と日系勢自動車各社のLIBに対する安全性確保のための開発指針が異なっていたことである。日系勢の多くは、自社独自の評価法と独自基準を持ち、かつ限界試験を適用していることに特異性がある。
 一方、欧米勢は自社独自の評価法と独自基準は持っているものの、日系勢のそれよりも一段低い所に位置していた。そして、限界試験なるものはほとんど行われていなかった。したがって共同開発する、あるいは供給する電池各社も自動車各社の基準に合わせることで良かったのである。
 ここで言う欧米勢はGM、米フォード、独フォルクスワーゲン(VW)などで、先のベンチャーは含まない。フィスカー・オートモーティブやテスラのEVで火災が多発したのも、結局は車載用LIBの安全性評価や基準が既存の欧米勢に比べても、更に低かったからだろうと類推される。
 事実、サムスンSDI時代に若手エンジニアを引率して日系自動車各社を訪問し協議をしている過程で、自動車各社から高い基準や限界試験を主張されると、彼らは「なぜそこまで必要なのか?」と疑問を抱くことになった。立場上、同席していた筆者が彼らに説明して納得させる場面も少なからずあった。取りも直さず、欧米勢の自動車各社と主に付き合ってきた彼らだから、その基準に慣れきっていたのである。
 そういう欧米勢も、ここ3年ほど前から安全性開発姿勢に変化が見られる。日系勢をベンチマークしてのことだろうが、基準を上げながら、そして限界試験も積極的に取り入れるなど、安全性に関する意識が高まってきた。だからこそ、冒頭に紹介したGMがA123システムズのLIBの性能品質や安全性に不満を持つようになり、開発遅延が生じているのだろう。

中国の車載用LIB規格が変わった
 他方、中国の電池メーカーは、これまでローカルの自動車メーカーとの協業を中心に進めてきた。ローカルの自動車各社の信頼性はエンジン車でも元々低かったのに対し、EVでは新規参入組が多く現れ、入念な開発を行って信頼性を高いものに築き上げるマインドは不足している。短期間に開発して市場に投入することが優先されるがゆえに、事故に至る現象が今も続いている。BYDのLIBをBYDのEVバスに供給しているビジネスモデルでも例外ではない。
 電池各社がそういうローカル系自動車各社のみとビジネスをしている限り、その基準内で今後も開発を進め続けるだろう。ここに来て、中国No.1とNo.2の電池メーカーであるCATLとBYDは今後、ローカル以外の日欧米グローバル自動車各社とのビジネスを開始する。新たなビジネスモデルで懸念されるのは、知財と安全性・信頼性の問題だ。逆に、この協業連携によって両社は先進自動車各社の洗礼を受ける可能性が高い。
 中国市場で車載用LIBの安全性を担保するために、GB規格が適用されている。GB/T 31485-2015で「電動自動車用動力バッテリーの安全要件および試験方法」、GB/T 31486-2015で「電動自動車用動力バッテリーの電気的性能要件および試験方法」が課せられている。
 この規格は当初、中国自動車技術研究センター(CATARC)が検討、立案していた。ところがここ数年、CATLが勢いを付けてきたことで、CATARCに代わってCATLが試験法の制定や基準を設定し、CATARCは試験を実施する側にと役割を分担している。この役割見直しによって変わったことがある。LIBのGB規格試験法から「釘刺し試験」を除外した。その理由は、「EVでの事故が発生しても釘を刺したような現象は起こらない」という理屈からであった。もっとも、中国電池業界の開発負荷を低減させる狙いもあったようだ。それだけでなく、この試験を適用すればパスしない中国製LIBが少なからずあるからだろう。
 車載用国連規則で認証が義務付けられるECE R-100.02 Part.IIの9項目の試験法にも釘刺し試験は含まれていない。上述したように、GB規格には当初含まれていたが、後に除外された。しかし、日系自動車各社や電池各社の大半は自主的に釘刺し試験を実施する。さらに、各社独自の試験法や基準、限界試験を導入し開発にあたっている。国連規則や中国GB規格はクリアして当然の義務教育であるので、これに甘んじているだけではグローバルビジネスとしては不十分である。
 日系勢が進めている各社の自主的な、そしてより厳しい試験法と基準、それに限界試験を付加する高等教育をクリアすることで、安全性と信頼性が一段と高い次元で実現する。
 以下の図は、エスペックが運営している宇都宮事業所の「バッテリー安全認証センター」の機能と国連規則を挙げたものである。国連規則やGB規格をワンストップで提供できる機能を有している。試験項目によっては、中々クリアできないLIBもある。それを短期間で効率的に改善開発するために、自動車業界や電池業界に貢献するビジネスモデルを提供している。それのみならず、各社の高等教育をクリアするためのオーダー試験についても随時対応できる機能も有している。

中国系LIBを調達する日系企業への提言
 日系自動車各社が、中国市場で中国製LIBを調達する動きもある。日産自動車はCATLのLIBを採用すると既に判断した。ホンダも近い将来に向けた調達のための共同開発をCATLと開始している。トヨタ自動車のCATL詣でも報じられている。
 他方、日本市場でも定置用途や太陽光発電用の蓄電システムとして中国製LIBを調達するビジネスが急速に進んでいる。その理由は、この分野でのLIBシステムの価格差が要因になっている。日系勢のLIBと中国系勢のLIBの価格差が2倍以上もあるためだ。
 そこで中国系LIBを調達する日系企業、特に自動車メーカー以外の業界に対して提言したい。LIB各社の性能仕様は顧客に提出されるが、供給側にとっては支障の無い仕様表現であることが多い。ましてや過酷な条件や限界試験の際の事象など記述する訳もない。それを要求しても実施するかどうかも協議をして見ないと不明だ。書面だけの仕様で判断するのは非常にリスクを伴う。
 日本市場でもこれまで、中国製モバイル用LIBとモバイル充電器の事故が多発してきた。特にモバイル充電器に関しては度々、テレビのニュースでも報道されているほど頻発している。車載や定置用の大型LIBでは、人命に関わる事故にもつながりかねない。
 中国製LIBやモバイル充電器を導入しようと検討を進めている各社においては自主的に、かつ過酷な試験法の適用で安全性と信頼性を確保していただきたい。自社で試験設備を導入して対応するには、時間と投資がかかり非効率である。また、試験のノウハウも重要なので、エスペックのような受託試験機能や認証センターを積極的に活用いただきたい。それが、日系企業の安全性・信頼性を担保し、優れた品質性能を具現化する大きな手がかりとなるのだから。

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