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日経ビジネスオンライン

2018/10/12

トップブランド参入で超激戦を迎えるEV市場

技術経営――日本の強み・韓国の強み

テスラ包囲が着々と進む

2018年10月11日(木)

佐藤 登

 9月27日のコラム「中国製リチウム電池が信頼できない理由」には大きな関心を寄せて頂いた。今回は、今後展開される電動化シフトの中でも、特に超激戦区となる電気自動車(EV)に関して、起こり得る状況について考察したい。

自動車業界に迫る環境規制
 上記の表は2018年、およびそれ以降に発効する各種の環境規制を示す。この中で、米国ゼロエミッション自動車(ZEV)規制、そして19年に発効する中国新エネルギー車(NEV)規制で、ハイブリッド車(HV)はクレジットの対象外とされている。これは取りも直さず、HVではトヨタ自動車とホンダが2トップとして市場を席巻していることから、HVをクレジット対象としても恩恵を受けられない自動車各社が大半であることが、規制枠設定で影響したと考えるべきだ。
 そのような意味から、ZEV規制もNEV規制も合理性はやや欠けると感じられ、特にNEV規制では内燃機関を含まないEVに著しく偏重していることに疑問を感じる。中国の発電システムを低効率な石炭発電に委ねている現状では、CO2およびPM2.5の削減は、全くと言って良いほど期待できないのであるから。
 一方、欧州が進めるCO2規制は2021年から適用されるが、これは地球温暖化を抑止する政策としての合意事項である。そしてその規制を満たす自動車の手段は問わず、自動車各社の都合で設定できるものであり、合理性が高いといえよう。

日本勢がPHVで存在感
 そのような中、各種規制のクレジット枠に入るプラグインハイブリッド車(PHV)とEVの商品開発および技術開発に、自動車業界は大きな舵を切っている。
 PHVでは日本勢が新車攻勢で存在感を発揮している。2017年2月に発売したトヨタのプリウスPHVは12年のPHVと比較して、リチウムイオン電池(LIB)の搭載容量を2倍の8.8kWhまで増やし、EVモード走行で68.2kmを実現した。12年のPHVはEV走行では26.4kmのみだったことで消費者からの不満が噴出したこと、そしてEV走行距離に応じて得られるクレジットが拡大することで、新型でのEV走行を大きく伸ばした設計とした。
 ホンダが2013年に市場へ供給したアコードPHVでは、6.7kWhのLIB搭載でEV走行は37.6kmであった。それに対して18年7月に新発売したクラリティPHVでは17kWhのLIBを搭載し、何とEV走行を114.6kmにまで拡大した。限りなくEVに近いPHVであるが、プリウスPHVとの差別化を図る意味を込めた設計と映る。
 そして三菱自動車も2018年8月に新型アウトランダーPHVを発売した。LIBは13年の前モデルに比較して、容量を15%向上させ13.8kWhに設計変更した。アウトランダーPHVは、これまでグローバル累計販売が14万台を超えている人気の旗艦モデルとなっている。PHVでは日本勢各社の新商品を軸に、今後、グローバル競争が本格的になる。

超激戦のEV市場にどう対峙するか
 PHVに対してEV市場ではさらに異なる状況が待ち構える。EVでは2009年に発売を開始した三菱自動車の「i-MiEV」、10年に発売した日産自動車の「リーフ」が先行した。そして米テスラの「モデルS」が市場に出現すると大きな話題を呼び、バックオーダーも相当数抱える状況が生じた。そのモデルSは13年に5台の火災事故を立て続けに発生させたが、それでも人気への陰りはなかった。参入企業が少なかったその時点での存在感は殊更大きく、それ以外で起きた火災事故でも、その勢いの方が勝っていた。
 しかし、今後はどうであろう。状況はがらりと一変する。先の表に示したZEV規制、NEV規制を中心に、大手自動車各社にはEVを自社の生産ラインナップから外すシナリオは存在しない。そして、その動きは既に始まっている。トヨタ自動車は2020年の市場への供給を目標に、グループを巻き込んだ体制で進めている。ホンダは中国市場でのNEV対応の一環として、中国側での開発を進めて18年にEVを供給する。

 一方、ドイツでもモデルS販売は好調だった。9月6日の日本経済新聞によると、2017年の欧州市場でメルセデス・ベンツの「Sクラス」の販売台数が1万3359台。しかし、モデルSは1万6132台を販売し、Sクラスを抜いたとされている。

 その動きを注視していたドイツ勢は、モデルSを迎え撃つ戦略を次々と発している。その先端を走るのは独アウディである。2019年にアウディは840万円を超えるEVを発売すると発表した。独ポルシェも同様に、19年には高級車EV「タイカン」を準備していると言う。さらにダイムラーも19年に向けて、高級車EV「EQC」の開発最終段階にあるとのこと。
 これはすなわち、モデルSがドイツでの販売を伸ばしてきたことが背景にあり、この勢いにブレーキをかけるために独勢が迎え撃つ戦略に出たと言える。すなわち、テスラの高級EVにとっては強力なライバルが眼前に現れて包囲網を作り出していることにほかならない。また日本勢では、2021年に日産自動車が同様な高級EVを発売すると伝えている。早晩、日欧で高級車EVの路線が構築されることになる。
 一方の普及版EVであるモデル3は生産が軌道に乗らない「生産地獄」が暫く続いた。しかし最近は、瞬間的に週5000台に達し、あるいはそれ近くにまで生産が可能な状況に改善されてきた。そうであるものの、普及版EV領域には高級車EV群以上に日米欧の自動車各社が商品開発を行い、市場に供給する計画が着々と進んでいる。
 図にはテスラを迎え撃つEV群勢力を示す。この構図を見れば、高級車EV群では、これまで通りのテスラの販売が続くとは思えず、相当なブレーキがかかると予測される。それにも増して、普及型EV群の競争加速が予想される。と言うのも、世界のトップブランド自動車各社が、遅ればせながらではあるもののEVを市場に供給するからである。逆に迎え撃つテスラの戦略は如何に。歴史とブランド、信頼性の高い既存の自動車各社と新興テスラが真っ向勝負できるのだろうか?
 商品企画、信頼性、耐久性、アフターサービスのいずれにおいても、既存ブランドメーカーには一日の長がある。テスラのEV群が、それを巻き返す要素がどれだけあるかにかかるのだが、その要素は雲がかかって視界が開けない。
 テスラが抱える一連の経営問題、すなわちキャッシュフローの悪化、幹部人材の離脱、訴追問題などの懸念材料をさておいたとしても、純粋にEVという商品自体の議論でもテスラEVには劣勢条件が多々あるようだ。そういう課題を払拭しないまま、上海にEVおよびLIBの生産拠点を構えると言うのは、リスクが大きいように思うのだが果たしてどうか。その結果は遠くない時期に表れることになろう。
 今後、大手自動車各社のEVが市場に投入される中、消費者層が限られるEV市場において、選ばれるEVにはどんな条件が付きまとうのだろうか? 斬新なデザイン、すなわち既存自動車と類似した商品ではないもの、航続距離的にはモード走行で400km以上、LIBの長寿命、商品価格、信頼性やアフターサービスの充実度と言った複数の要素が求められるだろう。そもそもEVを積極的に購入したいという需要は限られるEVであるがゆえに、販売不振のEVが市場でだぶつく光景として現実的な問題となるのではないだろうか。

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