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日経ビジネスオンライン

2018/10/25

第129回コラム

グローバル会議を通じて考える日韓の強み
技術経営――日本の強み・韓国の強み
2018年10月25日(木)
佐藤 登

 本コラムの主題である「技術経営――日本の強み 韓国の強み」に相応しいフォーラムが10月18日にソウルで開催された。韓国メディア大手のECONOMY CHOSUNが主催した「Global Conference」である。同社が主催するフォーラムは毎年テーマが異なる。過去には経済分野を採り上げたフォーラムもあり、ノーベル経済学賞受賞者も登壇している。一方、今回のフォーラムは、「日本に学ぶ」というコンセプトに設定された。その結果、講演者6人は全て日本人という構成で開催された。
 グローバルビジネスの先端を走る投資家でMistletoe CEOの孫泰蔵さん、政治分野では内閣官房参与の浜田宏一さん、産業分野で筆者、大学側からは韓国を30年に及んで研究している早稲田大学の深川由起子教授、そして中小企業の代表格として石坂産業の石坂典子社長、日本レーザーの近藤宣之社長という講師陣。70分前後の講演と対談が執り行われた。参加費は2万円近くであったものの、約250人が聴講した。
 孫さんの話は、スタートアップ企業やベンチャーなどを発掘し、そこに投資をするビジネスモデル、起業するための心構え、そして日本の教育方針に対する提言などで、韓国の若い世代が関心をもって耳を傾けていた。浜田さんの講演は、アベノミクスの成果を中心に、深川教授は日韓の働き方などを中心に話題を提供した。

産業分野での日韓比較
 筆者は、ホンダとサムスンでの経験を通じて技術経営を分析した内容について講演した。例えば、ホンダでのイノベーションの代表格はホンダジェットの航空機だ。なぜこれが事業化に至ったのか。二足歩行ロボット「アシモ」も燃料電池車(FCV)もそうであるが、1986年に埼玉県和光市に創設された「和光研究センター」の機能に遡る。二輪事業、四輪事業などの既存事業とは全く異なる新規事業化のための使命のもとで進められた研究開発、そしてその成果である。2018年10月10日現在、85機を納入した航空機事業もFCVも、事業化に至るまでには、なんと30年の歳月を要したのである。
 この長きにわたる研究開発を持続するのは並大抵ではない。三菱電機のSiCパワー半導体も30年近い研究開発によって実用化されたが、開発陣も世代を超えてつなぐ必要があるし、経営陣にもそれ以上の連携が問われる。ホンダジェットも途中で中断の危機に見舞われたが、開発陣の情熱が経営トップを説得したといういきさつがある。だからこそ、その根底には経営陣と開発陣との密なコミュニケーションによる信頼関係が不可欠だ。
 一方、サムスンでの研究開発も事業化を意識して十分になされているものの、事業化までに20~30年の長きにわたるテーマはまずない。時間をM&Aなどの手段で短縮化して、タイミングを見計らって早期に事業化を展開することが得意である。それによって、世界トップの半導体事業、スマホ事業、モバイル用有機EL(エレクトロルミネッセンス)事業、薄型テレビ事業などでの存在感は極めて大きい。テレビ用の大型有機ELは、同じ韓国勢のLGディスプレーが市場を独占している。
 しかし、日本市場だけを見てみると必ずしも韓国勢の存在感が大きいとは言えない。以下の図にその状況を示す。
 有機ELやメモリー半導体は日本市場でも強いが、薄型テレビ、家電、自動車、素材・部材、装置の存在感は大きく低下する。現代自動車の日本販売店はすでに封鎖したし、車載用リチウムイオン電池(LIB)も、三菱ふそうのEVトラックに使われている韓国SKイノベーション製が唯一である。
 これは取りも直さず、その分野では日本の業界がそれぞれに強いからであり、そこに日本の強みの根幹がある。韓国の事業構造は、電機業界、自動車業界、造船業界を中心とする、いわゆるセット事業に強みがあるのは事実である。反面、素材・部材事業や装置事業などの基盤事業は弱体だ。サムスンのスマホにしても、日本の部材が多く採用されていることがそれを裏付けている。

日本の強みとその課題
 このフォーラムが開催される直前、世界経済フォーラムは140の国・地域の国際競争力ランキングを発表した。ランキングは12分野、全98の指標を統計などから指数化している。
 日本は、2015年6位、16年8位、17年9位と下降線をたどってきた。これは技術革新の評価が相対的に低くなったことが影響した。しかし、今回の18年版では5位に浮上している。市場開放性を重視するなどで評価指標を変えたというものの、それは他国も共通なので素直に喜んでも良いだろう。
 健康が1位、これに加えて食文化のこれまでの高評価、技術革新の再評価、成人の93%が日常的にインターネットを使用していることでのデジタル技術分野の高評価(3位)などの結果である。一方で社会資本は95位、企業統治は90位と大変低い評価となっている。企業統治では、製造業各社のデータ改ざんなどの不正問題が大いに影響したであろう。
 これもまた、このフォーラムの直前であったが、KYBのオイルダンパーのデータ改ざん問題が内部告発をきっかけに明るみに出た。現在、公共事業や原子力発電設備、マンション等々、対象は多岐にわたり大問題に発展している。本フォーラムでの日本に学ぶというコンセプトとは裏腹に、学んではいけない事柄として、これまでの神戸製鋼や三菱マテリアルのデータ改ざん、トヨタグループとホンダを除く日本の乗用車メーカー5社の完成車検査不正や燃費・排ガスデータ改ざん、そしてKYBによるデータ改ざんなど、日本の恥の部分として説明せざるを得なかったことは悲しい限りであった。
 ちなみに、09年から17年までトップの座をスイスに明け渡していた米国が、今回トップに返り咲いた。起業を後押しする文化、労働市場、ビジネス活力などが高い評価を受けている。課題は治安や健康分野とのこと。2位以下は、シンガポール、ドイツ、スイス、日本、オランダ、香港、英国、スウェーデン、デンマークと続く。韓国も昨年の26位から15位に急浮上した。
 ここで改めて日本の強みを以下に整理してみる。先に述べたホンダの事例のように、企業でも30年に及ぶ研究開発、科学部門では23人のノーベル賞受賞者、大企業と渡り合う中小企業の底力といったものは日本が世界に誇れる姿である。その結果でもあるように、日本には個人商店や小企業まで含めると創業100年を超える企業は10万社、1000年超えは7社もあるとされている。このような光景は韓国では全く見ることができない。
 ただし、今後の課題もある。数十年の長きにわたって研究開発を続ける企業が減ってきたこと。ノーベル賞のテーマも数十年に及ぶ長い道程と地道な努力があってこそだが、大学や研究機関を中心とする成果主義の圧力や研究費の貧弱さなど、体制弱体化がマスコミを賑わすほどになっているのが現状だ。今後のノーベル賞級の研究が、どこまで持続できるかが大きな課題となって立ちはだかっている。
 小企業でも世界に誇れる企業は日本にたくさんある。しかし、今後の課題は後継者による承継問題だ。良好な事業で経営環境も優れた企業でさえ、会社を畳むことが珍しくなくなっている。存在感のあるオンリーワン企業や、業界のトップを走る優良企業が廃業せざるを得ないという大変勿体ない事態が、今後もますます拡大されようとしている。創意工夫による新たなビジネスモデルを考える転換期に達している。

自前主義からの脱却
 ホンダの自前主義は伝統的に受け継がれてきた。ここに来て、軌道修正を図るビジネスモデルを積極的に推進している。米ゼネラルモーターズ(GM)とのFCV共同開発、同社との車載用電池の共同開発も進めている。直近の話題としては、以下の図に見る自動運転に関しての連携だ。既にソフトバンク、米グーグル、米エヌビデアとの連携を進めてきたホンダは、新たにGMとの共同開発にまで踏み込んだ。この連携により、グーグルとの連携に影響が生じることも考えられる。
ともかくかように、100年に1度と言われる自動車産業のパラダイムシフト、その両輪となっている電動化と自動運転の両分野に対して、ホンダとGMが急接近している。
 トヨタ自動車もつい最近、自動運転分野に関してソフトバンクとの連携を発表した。電動化では世界のトップを走ってきた日本の自動車業界ではあるが、自動運転では米国勢や独勢に対して劣勢な立ち位置にいる。この波に乗り遅れることは、業界勢力図に大きく影響することで緊張感が漂う。自動運転は真に覇権争いの段階に突入しているが、今後もグローバルアライアンスの波は大きくなるばかりだろう。

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