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日経ビジネスオンライン

2018/11/10

第130回コラム

EVにおける中国の政策変化は外資への追い風?
技術経営――日本の強み・韓国の強み
外資排除から外資との共存へ
2018年11月8日(木)
佐藤 登

「2018 CHINA-SAE CONGRESS & EXHIBITION」の講演会の風景。多くの聴講者で賑わった

 9月13日の本コラム「爆走中国EV、電池業界に起きている異変」において、中国の電池業界について論考した。アクセス数がそれなりに多かったのは、それだけ中国市場でのエコカーおよび電池ビジネスが関心を呼んでいるということだろう。
 それから約2カ月が経過した。わずか2カ月ではあるが、物事はいろいろ動いている。特に、中国市場におけるエコカーの動向と、そこにつながる電池業界では大きな変化があった。このような変化が起きている中、11月6~8日には中国・上海市で、中国自動車技術会(日本の自動車技術会に相当)主催の講演会と展示会「2018 CHINA-SAE CONGRESS & EXHIBITION」が開催された。筆者はこの中で、「新エネルギー車に関する技術と評価」のセッションに招かれ講演した。日本からは自動車技術会会長の坂本秀行氏(日産自動車副社長)、本田技研工業常務の三部敏宏氏が基調講演にあたった。

エコカーライセンスの効力は失効?
 2016年に発効した中国政府の「エコカーライセンス」は、中国産業保護政策の一環として打ち出された。プラグインハイブリッド(PHV)、電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)の3種類に限定したエコカーについて、生産~販売を許可するためのライセンスを与えるとの内容。既にエコカーで実績のあるBYDや上海汽車は対象外であったが、全20席のみにライセンスを与えるとした。
 早速、北京汽車を始め、ローカルの自動車メーカー、そして新規参入組の部品メーカーが名を連ね、14席が早々に指定された。その後暫くは、落ち着いていた本ライセンスであるが、17年秋に独フォルクスワーゲン(VW)が中国の安徽江淮汽車(JAC)と合弁で立ち上げたJAC Volkswagenが15番目に登録された。それまでは外資各社による中国の合弁会社は最大2社までという制約があったが、VWとしてはエコカー生産を目的にした3社目を必要としていた。そこで、独メルケル首相のトップ外交により特例として3社目の合弁が認められた。と同時に、JAC Volkswagenが外資として初めてライセンス登録されたのである。
 しかし、その後はどうだろう。16社目以降は話題として上っていないように映る。筆者はこれまで、トヨタ自動車、ホンダ、日産自動車のロビー活動について尋ねたが、各社はいずれも個別にロビー活動を展開しているとのことだった。しかし、現時点で日系各社が登録されているわけではない。
 10月22日から中国・江西省の行政一行20人が訪日し、10日間ほど滞在した。団長は日本でいえば経済産業省局長級を筆頭に、政策行政に関わる重鎮で構成されていた。江西省は資源が豊富な地区で、特にリチウムイオン電池(LIB)に必要な資源が豊富であることから、今後の資源政策や資源ビジネスを考える上で、日本の視察や講義を受けるために訪日したとのことだ。
 筆者は訪日直前に講義を依頼され23日に対応した。1時間のレクチャーの中で、このエコカーライセンスについて筆者が当行政側に尋ねたところ、「エコカーライセンスの枠は15番で止まっていて進んでいない」とのことだった。どうやら、このライセンス自体があまり意味をなさなくなっているような雰囲気であった。
 確かに中国政府もその後、規制緩和に乗り出した。これまで外資が合弁を形成する際の資本比率は49%が最大とされていたが、これを50%以上に拡大し外資が主導権を取れるように転換した。中国にLIB生産工場とEV生産工場を構えようとしている米テスラは、100%の自己資本での計画を進めているようだ。
 ではなぜ、中国政府は急にこのような転換を行ったのだろうか? エコカーで自動車強国を標榜する中国にとって、外資は重要な存在である。いくらエンジンがないEVを開発するとしても、LIBやモーター、インバーターなどの基幹デバイスは中国ローカルメーカーより外資の方が明らかに先行している。EV自体も全く同様であるから、外資の参入がなければ中国のEV政策は技術的に進化しない。だからこそ、外資に対する規制より緩和を優先する方針に切り替えたのだろう。
 とすれば、エコカーライセンスで外資をけん制する方策は正しいとは言えなくなる。したがって16番目以降の指定席を埋めることより、このライセンスの箍(たが)を外す方が得策と考えているとしたら、このライセンス規定は事実上失効しているのではないか。それよりも、自動車各社にエコカーの義務付けを強化することの方が技術は進化する。
 一方で、エコカーに対する補助金は2020年をもって終了予定だ。昨年から既に補助金減額が進行していることで、EV販売にブレーキがかかっていることは否めない。このまま20年の補助金廃止が進めば、ローカルのEVメーカーやLIBメーカーの大規模倒産、そして部材各社が経営悪化に至るだろうことを以前のコラムでも執筆した。18年からは、一充電走行距離が300km以下のEVについては前年対比で60%近くの大幅な減額が施行されている。また、150km以下のEVについては補助金を廃止、逆に400km以上のEVについては80万円程度まで補助金を拡大した。
 300km以下のEVが半数を占める中国EV群にとっては、淘汰の波が押し寄せている。2020年の補助金撤廃が実施されると、想像を超える混乱が中国市場で起こることは想像に難くない。

ホワイトリストの効力も失効か?
 中国政府が打ち出した「バッテリー模範基準認証」、すなわちホワイトリストも中国国内のLIBメーカーの保護政策として発したものである。これはこのリストに登録されたLIBを適用したEVには補助金が付く政策である。これまで75社ほど登録されているようだが、外資が登録されることはなかった。韓国のLG化学とサムスンSDIは幾度に亘る交渉も空しいままに終わり、大連にLIB生産拠点を構えたパナソニックもしかりである。
 しかし、このホワイトリストも効力を失いつつある。2020年にエコカーの補助金が撤廃されれば同時に、このリストも失効する。となれば、これまでエコカー市場から排除されてきた日韓電池メーカー各社にとっては状況が一変する。全くフリーな状況になり、国内ローカルメーカーとの競争は対等な関係になる。とすれば、日韓勢電池各社にとっては追い風となる。
 中国CATLとBYDに続く中国3位のEV用電池メーカーのOptimumNano Energy(昨年の中国市場シェア6.5%)は資金難となって、本年7月から生産ラインの稼働を半年間の予定で中断している。これまでは電池メーカーの設備投資にも補助金が大いに貢献し、各社の積極的な投資競争が展開されてきた。しかし、売掛債権などを担保で資金を借り生産設備を増やしてきたものの、EVへの補助金減額に伴いEV販売伸び率低減と共にLIBの過剰供給が続いており、このような状況になっている。
 ナンジンイルロンニューエナジー(昨年の中国市場LIBシェア2.2%)は、経営難で生産設備を差し押さえられたという。他にも中国の中小規模のLIBメーカーの破綻が相次いでいる模様だ。中国自動車技術研究センター(CATARC)によると、今年、中国ローカルLIBメーカーの約30%が廃業したとのこと。
 大韓貿易投資振興公社(KOTRA)中国地域本部南京貿易館によれば、「中国ローカル100社ほどの上場LIBメーカーのうち半分の52社が純損失を出した」とし、「2020年前後に全体の90%が危機を迎えるだろう」と予想している。中国政府の政策に無理があったことの裏付けととれる。
 2017年3月、中国政府は20年までEV用LIBの生産能力を拡大する「バッテリー産業促進案」を発表した。その後、大手のCATLやBYDなど上位10社は1年間で、生産キャパを99.5GWhから146.1GWhと、150%程度にまで拡大した。補助金を受けて背伸びをしすぎ、生産設備の拡張を実施してきた電池各社が、今は経営悪化に陥っているということだ。

日韓LIBメーカーの巻き返しなるか?
 中国政府が提供する補助金要件を満たすためには、EVの航続距離を拡大することが前提になる。それはすなわち、エネルギー密度(Wh/kg、およびWh/L)の高いLIBを適用することが必要とされる。中国ローカルのLIBメーカーでは、エネルギー密度を大きくしづらいオリビン酸鉄(LiFePO4)を正極に用いるケースが多く、高密度LIBを供給できるメーカーは限定されている。そこに、中国政府の補助金政策が終わりをつげれば、日韓LIB企業も中国企業と対等な競争が可能となる。結局は、韓国のLG化学、サムスンSDI、SKイノベーション、そしてパナソニック製のLIBが適用される可能性が高まっている。
 実際、韓国勢には勢いが付いてきた節がある。サムスンSDIは英ジャガーランドローバーの次世代EVへLIBを単独供給する契約を締結している。一方、LG化学は東南アジア市場に注目してベトナム自動車企業のビンファストと事業協力了解覚書を締結している。LG化学やサムスンSDIに追随し、SKイノベーションも850億円の大投資で、ハンガリーにLIB工場を新設中である。
 そのSKイノベーションはLIBへの大投資に加えて、2018年10月7日、中国江蘇省常州にLIB用従来セパレータとセラミックコーティングセパレータの生産工場を新設すると発表した。SKイノベーションによると、今回の常州工場建設は素材事業では初の海外進出とのこと。目的は、中国市場でのEV用LIBの需要を見込んだもので、投資総額は約400億円、2020年第3四半期の量産化を目指すとのこと。
 いずれにしてもこのような投資戦略は、中国市場における中国政府の政策とリンクするもので、常に政策と良循環で同期する戦略が求められている。中国の電池産業界の育成も、エコカーと同様に、外資の力が必要なのは明白だ。だからこそ外資排除ではなく、外資との共存を描いた中国側の戦略が進行しつつある。

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