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日経ビジネスオンライン

2018/11/22

第131回コラム

EVが減速する中国、加速する欧州
技術経営――日本の強み・韓国の強み
積極的なEV投資にはリスクも共存
2018年11月22日(木)
佐藤 登

 10月11日に「トップブランド参入で超激戦を迎えるEV市場」というタイトルのコラムを記述した。そこでは、電気自動車(EV)で先行してきた日産自動車、三菱自動車、米テスラ、そして中国ローカルメーカーに追随して、日米欧のトップブランドが本格参入する構えを打ち出していることで、EV市場は超激戦の競争を強いられることを述べた。

VWの抜きんでた電動化投資
 11月18日の日本経済新聞は、独フォルクスワーゲン(VW)がEV企業へ変身する準備に入ったことを報じた。それによると、同社は2023年までの5年間で、電動化の分野に約3兆8500億円を投資するという。25年には欧州生産分の17~20%をEVにするという積極的なEV路線をとる。
 電動化に加えて、自動運転とデジタル化の3分野に約5兆6000億円を投資するとのことなので、電動化だけの投資は全体の約70%を占めることになる。これまでの投資計画から比較すると30%の投資増に相当する。
 この投資とは別に、中国での電動化対応として5000億円強の投資を行い、2020年までに30車種のEVとプラグインハイブリッド(PHV)を市場に供給する計画とのこと。同社は既に、本年10月から上海市でEV生産工場建設に着手している。電動化投資では、先行する各社に対して断トツの投資額を示しているが、15年に発生させたディーゼル排ガス不正問題の払拭につなげるべく、かなり積極的に取り組んでいる様子が窺える。
 この一連の計画に伴い、電池生産についても触れている。独ジャーマン3(VW、ダイムラー、BMW)は、近年、モジュール(下図参照、セルユニットの集合体)以降の開発を自社内で推進する体制を整えてきた。
 今回のVWでの計画では、韓SKイノベーションと合弁でセルを生産する可能性があるという。SKイノベーション自体は元々、200億円の投資で韓国瑞山工場のリチウムイオン電池(LIB)の生産キャパを2018年内に3.9GWhまで拡大する計画を持ち、ハンガリーには850億円規模の投資で7.5GWhの生産キャパを構築し、2020年に稼働することを目標としている。さらには、中国での生産拠点を構える方針だ。今回のVWとの合弁は何処で実現させるのかは定かではないが、今後のサプライチェーンに大きな影響を及ぼすものと考えられる。
 VWが19年から量産を開始するEV「I.D.」シリーズは、一充電走行距離が550kmにまで達する。EV専用プラットフォーム「MEB」を適用することで、価格もディーゼル車と同等レベルにする計画だ。EVの量産は、独東部のツウィッカ工場、北部エムデン工場、そしてハノーバー工場の3拠点で、年間100万台規模の生産を計画中とのことだ。

日系各社に迫るEV戦略
 日系自動車各社でのEV戦略も動き出している。スペイン政府は、2040年までにガソリン車、ディーゼル車、さらにはハイブリッド車(HV)までも販売を禁止する方針を示した。純然たる内燃機関自動車の制限は理解できなくもないが、電動化で燃費向上を実現しているHVまで制限するのは現実的ではない。ディーゼル車規制の代替として位置づけられるHVの価値に理解を示していないといえる。
 消費者目線で考えれば、PHVと違って家庭内に充電器を設置しなくても良いHVは、燃費特性でも内燃機関自動車を上回ることで価値が高い。その価値を否定する考えは、欧州自動車各社がHVではなくPHVやEVを積極的に推進していることで、仮にHVを市場から締め出しても欧州勢にとっては痛くもない。むしろ、HVを制限することは、HVで強いビジネスを進めているトヨタ自動車とホンダの2トップに対する牽制そのもので、欧州自動車業界の保護政策とも見える。
 2021年から30年まで段階的にCO2排出量を制限する規制が先には控えている。ただし、この規制では自動車各社の商品ラインナップに任せる形で、電動化の種類を制限していないところに合理性があった。しかし、スペイン政府のようにHVまでに制限を加えることの意図は、欧州勢が進めるPHVとEV路線に対する防壁機能としてHVを排除しようとする考えがあるのだろう。
 そのような中、特にトヨタは近年、欧州でのHV販売を急速に伸ばしている。18年1~9月の欧州販売に占めるHVとPHVの割合は46%に達した模様だ。それだけ欧州におけるHVは市民権を得ていることになる。そのトヨタも、いよいよ2020年にはレクサスブランドで多目的スポーツ車(SUV)「UX」のEVを欧州で販売する計画になっている。HVに対する風当たりが強まる中、対抗策の一つとして構える。
 ホンダも19年には欧州で小型のEVを販売する計画だ。マツダも同様に、20年には日米欧向けにEVを供給するという。いずれにしても日系各社としては、欧州自動車各社が進めつつあるPHVとEV戦略に対して十分に競合できる商品が必要とされている状況にある。
 一方、中国市場においては中国政府が2019年から適用する新エネルギー車(NEV)規制の導入に呼応した日系各社の対応が進む。トヨタはNEV対応の一環として、18年9月から合弁相手の広州汽車ブランドでのEV販売を開始した。さらに、トヨタの自社ブランドEVを20年に発売することになっている。
 ホンダは、中国専用EVである「理念VE-1」の生産を来月12月から開始する計画だ。また、提携先の広州汽車集団との合弁企業が約530億円を投じて、年産17万台のNEV生産拠点を構えるという。
 マツダは合弁相手の中国長安汽車集団と共同でLIBやモーターを調達し、マツダがデザインと車体設計を主導する形で中国専用EVとして投入する。そのEVは小型SUVベースとなる模様で、日米欧で販売する独自開発EVとは異なるという。
 日産自動車は、中国で自社ブランド初のEVを18年8月から生産を始めた。先行した日産自動車に続き、トヨタ、ホンダ、マツダが中国市場で追いかける格好だ。
 となれば、中国のEV市場で苦戦するのは外資系自動車各社と真っ向勝負を迫られる中国ローカルメーカーであることは明らかだ。これまでは大規模な補助金で支えられてきたローカルメーカーであるが、昨年から補助金の減額が進んでおり、中国のEV販売にはブレーキがかかっている。さらには本年より、一充電走行距離が300km以下のEVに対する60%程度の補助金減額、150km以下のEVに対する補助金ゼロ化、一方、400km以上の走行距離を出せるEVに対しては補助金アップなど、メリハリのある補助金政策が打ち出されている。
 400km以上の走行距離を実現できる中国ローカルメーカーは、EV最大手のBYD(2018年1~10月で16万3306台:シェア20%強)や、中国2位の北京汽車集団(同期間で11万4474台)など大手メーカーに限られる。よって、本年からは弱小のEVローカルメーカーの淘汰が始まっている。
 次なる中国市場での競争段階は、2019年から一層市場に供給される日米欧のトップブランドメーカーのEV間での競争、そして中国ローカルメーカーとの競合であろう。
 そして次なる競争が待ち構える。それは20年に撤廃される中国政府の補助金ゼロ化政策である。底上げで保護されてきた中国ローカルメーカーにとっては試練の場となる。ブランド力や技術力、信頼性や安全性の高い外資系各社のEVと真っ向勝負はできるだろうか? 現状のレベルを考えれば勝負にならないはずだ。ローカルメーカーが生き残るためには、外資系との合弁事業にて外資の技術力やノウハウに依存することが不可欠だろう。

新規参入組によるEV市場の更なる激化
 既に、英ダイソンはEV開発に多大な投資と開発を進めている。2020年以降を目標にシンガポールでの生産を開始するとのこと。家電製品での基幹デバイス開発と販売での実績は立証されているが、信頼性や安全性、耐久性が要求されるハードルが遥かに高いEV領域である。トップブランドの既存自動車各社が全面的に市場競争を繰り広げる段階で、競争力あるEVをどこまで打ち出せるのか、いささかの不安材料とリスクは拭いきれない。
 最近の11月6日に、調査会社のDIGITIMES Research社が報道した内容によれば、米アップルがEV「アップル・カー」に関して、欧州中堅自動車メーカーと台湾系の受託生産企業との協力で、計画が進行しているとのこと。一時はEV事業を断念した同社であるが、19年にはアップル・カー事業を運営する会社を他社との合弁で設立し、20年にアップル・カーの発表というロードマップのようである。この報道の信憑性は詳らかではないが、この計画が実行されることになれば、ますますEV市場の競争が拡大することになる。
 米国ゼロエミッション(ZEV)規制、中国NEV規制、欧州CO2規制等の法規が強化されていく中、電動化の勢いは止まらない。しかし、その中で中国NEV規制が適用される中国市場を中心に、そして欧州においてEV偏重と言える壮大な事業展開が起ころうとしている。
 中国政府は2020年にEVを主とする新エネ車を200万台、25年には700万台を目標に掲げる。現在、中国国内で新エネ車を生産する現地企業は250社に及ぶという。その各社が計画する新エネ車を積み上げると、年2000万台を超えるとの試算もある中、かなりの無理が共存しているのも実態だろう。
 ビジネスチャンスという理解とリスクが両輪のように動きつつあるEVシフト。勝利の方程式を導ける構図は、各市場におけるEV顧客規模の試算、使用上のハンディを極力減らせる魅力あるEVの開発、信頼性と安全性をリードできる製品戦略、補助金に依存しなくても自立できるビジネス、競合他社との差別化、電動化比率におけるEV比率のバランスなど、複雑な要素が絡み合う解が求められている。
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