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日経ビジネスオンライン

2018/12/13

第132回コラム

インド市場における自動車の電動化と矛盾
技術経営――日本の強み・韓国の強み
期待を寄せるのは日本、毛嫌いしているのは中国
2018年12月13日(木)
佐藤 登

 11月23日から26日まで、初めてインドを訪問した。筆者が所属するキャパシタフォーラム(会長:東京大学・堀洋一教授)が企画したインドでのシンポジウムと視察に参加するためである。
 これまで、インドは仕事でも旅行でも敬遠してきた国であった。しかし、今回はインド政府筋との意見交換やホンダ・インド研究所への訪問協議が組み込まれていたので、絶好の機会と思って参加した。今回の骨子は、インド政府が唱えている自動車の電動化計画に関するもので、インドを直接体験し意見交換をすることでいろいろなことが見えてくるはずと考えたからである。
 首都デリーの日本人は2600人、新興都市グルガオンには日系企業が多く2400人が住んでいる。早晩、グルガオンの日本人はデリーを超える。インド全体の日系企業は2017年時点で1350社と、直近で急増している。それだけ、今後の産業経済の発展が期待されている証拠である。
 インドは世界7位の面積。人口は13億6000万人で日本の11倍。中国の人口は13億9000万人であるが、3~4年以内にインドが中国を超えるといわれている。しかし一方では、デリーの交通渋滞、大気環境は中国より酷いとされており、大きな社会問題と化している。排ガス問題、PM2.5(300~500μg/m3、日本基準は70μg/m3以下)は切実な課題である。教室でも本が読めなくなることもあり、その場合には学校が休みになるほど。インド政府は技術が唯一の解決策と表現している。PM2.5のほかに、農場収穫後の焼き畑や、ホームレスが暖をとるためにプラスチックやごみを燃やすことで大気環境を悪化させている。
 インド訪問直前の11月21日に開催された東工大シンポジウムで講演した際、インド企業BERGENのKumar氏の講演が興味深かった。彼はインド政府トップ筋との繋がりが強く、インドの政策にも精通している。
 彼によれば、インドは巨大な市場で産業成長率は次の5年間でCAGR(年間平均成長率)35%に達するという。しかし、日本や韓国が完成した技術を、中国がダンピングをしてインドに持ってきてビジネスをしていることが大きな問題であるとも。とにかく今後のインドは、脱中国依存を実現したいという思惑である。
 またインド政府は、EVを2030年時点で40%規模(400~500万台)まで拡大することを目標にしているという。しかしこのままの勢いだと、EV、リチウムイオン電池(LIB)、充電器とも、中国がインド市場をとることになりそうだと。したがって、日印の協力により中国のビジネスを阻止したいとのことだ。現状、EVはゼロだが段階的に拡大する計画で、インド政府は約3000億円を投資する計画中とのことであった。

インド政府筋との意見交換
 インドでのシンポジウムでは、日本側からはホンダ・インド研究所、日本ケミコン、日立研究所、東京大学が、インド側からは、電気化学中央研究所(Central Electrochemical Research Institute:CECRI)の政府系研究機関がプレゼンし、主に議論するスタイルで進められた。インド政府系関係陣としてはCECRIの他に、インド政府科学技術省、インド自動車研究所(日本の自動車研究所:JARIに相当)、非鉄金属技術開発センター、インド工科大学(IIT)が名を連ねた。
 インドの発電は石炭発電(しかも低効率)が80%以上、電力負荷が上限を超えることで瞬停は頻繁に発生している。2017年、インドでの自動車販売数は400万台を超えた。モディ首相は今後のEV政策を主導しているが、自動車のテールパイプから排出される排ガス(Tank to Wheel)ゼロ化を進めている。それだけに、発電から排ガス(Well to Wheel)の議論が進んでいなかった。ようやく、一部の間でWell to Wheelの議論が交わされるようになってきた程度だ。
 チェンナイにあるCECRIは、15年前からLIBの研究を推進してきた。正極材、負極材の研究開発をしつつ、角型、円筒型のLIBの試作評価まで実施中だ。
 IITのムンバイ校は、LIBのセル製造設備開発およびLIBの材料開発を推進中。2030年にLIBの製造が可能になるよう開発を進めているとのこと。安全性と15年の耐久性を実現目標に掲げている。正極材料はNCM(ニッケル・コバルト・マンガン)三元系の8:1:1の比率で、日韓中が目指しているところまで検討中だ。

インド市場の拡大を目指すホンダを訪問
 1995年に設立されたホンダのインドの生産拠点ホンダカーズインディア・リミテッド(HCIL)を尋ねた。生産規模は2工場で年間30万台。そのうち、5%程度を南アフリカやミャンマー等に輸出中。現状7車種を生産、2019年には「シビック」を追加する。
 インド市場ではオートマ(AT)車よりもマニュアル(MT)車の方が人気とのこと。全長が4500mm以上のセダンが人気。ホンダの「シティ」は日本でいうとトヨタの「クラウン」並みのステータスとも。また、好まれるカラーは白が圧倒的で、シルバー、ベージュと続く。PM2.5で大気環境が悪いことから、汚れが目立つ黒は敬遠される。
 見学した生産現場はホンダらしく、整然としていて綺麗だ。ただし、人件費が安いこともあって、日本では完全ロボット化されている溶接工程も人海戦術にて対応しているなど、全工程に人が多い。生産タクトは135秒、日本では50秒タクトで完成車が出てくるので日本よりはかなり遅い。
 日系自動車企業でのインドでの存在感は圧倒的にスズキが大きい。インド国内での四輪車の50%をスズキが生産している。スズキの次はホンダ(5%の市場シェア)で、トヨタよりもホンダのプレゼンスが高い。さらに二輪車のスクーターセグメントでは、シェアが60%とホンダが断トツである。
 研究所の設計部門が生産工場に隣接しているので、自動車の組み立てが行い易い設計など、開発段階からの議論が一緒にできるので生産効率が上がり、その成果が如実に現れている。
 2016年には最長1時間の工場停電があったが、最近は緩和されており、大規模停電はなくなってきた。瞬停は引き続き発生しているが、UPSで対応している。
 ローカルコンテンツ(現地調達)は70%程度、日本でしか製造されない部品等もあるので、これ以上拡大する目標はあるが容易ではない。スズキは100%近い部品をインドで調達中、この分野でもスズキが先導している。
 ホンダの2030年における全世界電動化比率の目標は、内燃機関35%、ハイブリッド車(HEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)で50%、EVと燃料電池車(FCV)で15%という構成にある。インドでの電動化対応としての構成をどうするかは、今後の課題である。

インド市場における今後の展望
 2017年には400万台となったインドの自動車市場は、ドイツを抜いて4位に浮上した。2020年には日本を抜いて、2030年には1000万台規模になる見込みである。
 法規制は厳しい方向に向かっている。CO2規制は世界各国で欧州が最も厳しい(2021年から95g/km、以降段階的に削減)が、インドも欧州に準拠した水準で規制を強める。ガソリン車の自動車税を40%、EVには12%程度など、大きな差を付けることで電動化を進めようとする気運にある。
 石炭発電80%以上の現状で全面的にEVというのは極端な話だ。インド政府は、CO2が増えてもGDPが向上すれば良いと言う認識(上記のCO2削減目標とは矛盾)にある。2030年のGDPは、約1130兆円と展望される。
 確かに、現状のままEVを普及させてもCO2は減らないし(上記のCO2削減目標とは矛盾)、PM2.5は増加の一途を辿る。直近で市場にマッチする最大の解はハイブリッド車(HEV)と筆者は見通す。しかし、それを主張できるのはホンダ、トヨタ、スズキの3社のみなので、3社との考え方の連携、そして政府筋に提言する必要があるのではないか。モディ首相を取り巻く参謀に接触して、首相の外堀から教育する仕組みが良いのではないかと考える。
 “Make in India”を標榜するインド政府としては、日印の関係を大変重視しており、一方ではあからさまに中国を嫌う姿勢が鮮明だ。
 インド政府としてはLIBを国内で生産することをサポートする。LIBの四大部材(正極、負極、セパレータ、電解液)のどれもが現状では国内で生産できないが、とにかく“Make in India”に固執している。中国を毛嫌いしているので、中国のLIBセルが増えるようになればセルにも課税を検討する動きもあるようだ。政府は、イノベーションを促進する研究開発環境を充実させる計画をもつ。
 スズキは2017年にグジャラート州にて新工場を稼働させた。さらに、「スズキ―デンソー―東芝」が合弁でLIB生産拠点を同州に建設中。2020年の稼働と共に、スズキの電動車(日本で発売しているエネチャージ)を生産・販売することになり、インド市場における電動化の先駆けとなる。この延長上で、ホンダやトヨタのHEVがインド市場に拡散していくことを期待したい。
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