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日経ビジネスオンライン

2018/12/27

第133回

2019年、車載電池業界の勢力図が明確になる
技術経営――日本の強み・韓国の強み
積極投資に出る韓中勢、劣勢感をぬぐうべき日本勢
2018年12月27日(木)
佐藤 登

 2015年、韓国のサムスンSDIとLG化学は車載用リチウムイオン電池(LIB)の生産工場を、それぞれ西安市と南京市に構えた。日本勢が中国進出をする前にスピード感を発揮して中国のローカル自動車メーカーに供給するビジネスモデルを描いていた。
 2016年2月には、パナソニックが大連遼無二電気として車載電池製造の合弁会社を設立した。その延長上で、17年4月にはパナソニック オートモーティブエナジー大連として、LIB生産拠点の新工場を開所した。このビジネスモデルは、トヨタ自動車とホンダが現地生産する電動車(xEV)に供給すると共に、中国ローカル電気自動車(EV)メーカーへの供給も視野に入れた戦略だった。

中国政府の外資排除
 このようなビジネスモデルが中国国内で進行すると、その影響を大きく受けるのは中国ローカルのLIBメーカーである。現在、車載用LIBのローカルメーカーは200社にものぼると言われている。
 日韓のLIBとは性能面や安全性の面で劣勢にある中国の大半のローカルメーカーにとっては、非常に不利なビジネスとなることが容易に推測される。その背景から、2017年に中国政府が打ち出した「バッテリー模範基準認証」、いわゆるホワイトリストで外資の排除に向かった。すなわち、中国の電池産業を国策として保護するために、様々な理由をかざして日韓電池各社の締め出しを図ったのである。
 そのホワイトリストには中国系のみ57社が登録され、それらのLIBを搭載するEVには補助金を出す一方、ホワイトリストに組み込まれていない日韓電池各社のLIBは補助金の対象から外された。その結果、日韓の、とりわけ韓国の2社には厳しい仕打ちとなった。
 パナソニック大連のビジネスは、中国ローカルEVメーカーへの供給ができなくてもトヨタとホンダのxEVに供給できれば自立可能なビジネスとなる。2018年には、北米で生産開始となったホンダのハイブリッド車(HV)にも供給が始まった。
 その点、韓国勢は中国ローカル自動車各社との連携でビジネスモデルを進める必要があるのだが、残念ながら中国のあからさまな外資排除により、サムスンSDIは稼働率が急速に低下し、社員の解雇にも追い込まれた。その後は、オーストラリアで活発な太陽光発電事業の電力の受け皿となる蓄電ビジネスを獲得し、西安工場で生産されるLIBをこの事業に結び付けていった。
 同時に、経営判断にスピード感があるサムスンSDIとLG化学は矛先を欧州に向けた。LG化学はポーランドに約400億円を投じてLIB工場を建設し、いち早く稼働を開始した。サムスンSDIも同等規模でハンガリーにLIB工場を建設し、2018年から稼働を始めた。
 この両社の動きを静観していた韓国SKイノベーションも、ハンガリーに850億円規模の大投資を決断し、2020年の稼働を目指している。すなわち、韓国3社が欧州自動車業界にビジネスを拡大する戦略に出て行った。
 もっとも、2019年からは中国エコカー政策として新エネルギー車(NEV)規制が発効する。そして、20年からは中国のエコカーへの補助金が終了する。となれば、ホワイトリストは意味がなくなりLIB業界にとっては中国ローカルメーカーが優遇されないフラットな市場になる。そのまま進めば、日韓勢にとっては極めて大きな追い風となる。

中国市場で巻き返しを狙う韓国勢
 LG化学は南京江寧濱江開発区に、LIB生産拠点として新たな南京第2工場の建設に着手している。19万8000平方メートルの敷地に、2023年まで約2100億円規模の大投資により、EV換算で年産50万台規模を計画している。19年10月から段階的に稼働開始するという。この起工式に南京市の張敬党書記と共に出席したLG化学のパクチンス副会長は、「南京第2工場は最新技術と設備を投資し、急成長するEV電池市場に対応できるように世界最高水準の工場を建設する」と力説した。
 一方、12月10日の東亜日報によれば、サムスンSDIは西安市に車載用LIBの第2工場建設を検討しているとのこと。今後、中国市場でのEV需要が大幅に伸びると展望し、まさしく2020年からの補助金政策が廃止されることに合わせて、生産能力を確保することを念頭に置いたビジネスモデルである。
 投資規模は105億元(約1700億円)、16万平方メートルの敷地にEV用の60Ah級LIBを生産する5ラインの模様である。同社は現在、韓国蔚山(ウルサン)と西安、そしてハンガリーの3カ所でxEV用LIB生産工場を構えている。生産能力はEV基準で、蔚山が6万台、ハンガリーが5万台、既存の西安が3万台となっている。
 第3勢力のSKイノベーションも、中国補助金政策打ち切りのタイミングを勘案して、既に江蘇省常州市にEV用LIB生産工場を着工中だ。生産能力は7.5GWhで、50kWhのLIBを搭載するEV換算では15万台に相当する。既存の韓国忠清南道瑞山(ソサン)市のLIB工場を約5GWhまで拡大する計画と共に、18年3月に着工したハンガリー新工場は7.5GWhであることから、2022年には年産約20GWh規模に達する見込みである。
 同社は2017年から、独ダイムラーのメルセデスベンツのEVにLIBを供給しており、その流れを受けて三菱ふそうトラックのEVにも同社のLIBが適用されている。

欧州自動車各社の巨額LIB調達
 そのダイムラーは、2025年までに全販売台数の15~25%をEVにする計画だ。現在、SKイノベーションの他にLG化学からもLIBを調達している。同社はLIBセルを電池大手から調達し、自社でモジュール以降から電池パックまでの生産モデルを展開している。
 同社は、2030年までにxEV向けに約2兆5700億円分のLIBを調達すると発表した。LIBの長期調達計画を明らかにすることで、電池メーカーに対する求心力を拡大し、投資促進を図っている。
 LIBの巨額調達をめぐっては独フォルクスワーゲン(VW)が2017年の段階で、25年までに6兆5000億円を調達すると発表していた。EV市場が拡大すれば電池の生産能力が不足するという見方もあり、欧州自動車各社は生産キャパの安定調達を戦略的に推進している。

米テスラの投資とリスクの共存
 テスラは2018年7月、中国上海市に年産50万台規模のEV工場建設を決定していた。同年10月には、上海臨港装備産業パークに86万平米の用地を確保した。
 中国の21世紀経済報道によれば、2018年12月18日付で、同社は上海市にEV工場を間もなく着工するという。投資総額は8200億円規模になる見込み。第1段階では約2600億円の投資規模で完成車組立ラインを建設するとのこと。19年下半期の量産化を目指す模様だ。上海工場で生産するのは普及型EVの「モデル3」とSUV型の「モデルY」で、年産20万台から始め、最終的に50万台を目標にしている。
 同社はLIBセル工場の建設も計画しているが、協業先が従来のパナソニックになるかどうかは明らかではない。米国ネバダ州でのギガファクトリー稼働に至るまで、そして現在も苦戦を強いられているパナソニックにとっては、上海の事業は必ずしもビッグチャンスとは言えないはずだ。
 そもそも、中国で拡大方向にあるEV市場が2020年の補助金廃止の展開でどこまで拡大するのか、消費者は一層高価なEVに目を向けるのか、向けたとしても日米欧のトップブランドが中国市場に供給するEVと同社が真っ向勝負で勝算はあるのか――など、不透明感が漂うリスクも見え隠れする。

中国市場で予想されるリスク
 さて、中国市場で存在感を打ち出しつつあるトヨタ、ホンダ、日産自動車のxEVビジネス、そして猛追するジャーマン3(ダイムラー、BMW、VW)、米国勢のゼネラルモーターズとフォード・モーターも後れをとらないようxEV展開に向かっている。そしてテスラの中国での生産開始から販売と、EVプレーヤーが出そろう2019年となる。
 逆に、2020年からEV補助金の支援を受けられない中国ローカルEVメーカー。ローカル各社がトップブランドの日米欧自動車各社が供給するEVと真っ向勝負できるシナリオは全く見当たらない。このまま進めば、中国政府が標榜するローカルメーカーによる「自動車強国」の実現可能性は極めて低くなる。
 他方、電池業界もしかりである。韓国トップ3とパナソニックが今後も投資を拡大する中国市場では、ローカルの電池メーカーはどこまで闘えるだろうか。投資拡大と性能進化で先を走るCATLと、LIBとEV事業を垂直統合で展開するBYDはある程度は闘えるだろうが、200社の大半のローカルメーカーの淘汰が進むことは容易に予想される。
 日産が2016年8月に電池事業を切り離したことから、NECとの合弁でLIB事業を展開してきたオートモーティブエナジーサプライ(AESC)は現在、中国のエンビジョングループへの売却が決定されている。19年4月から中国系の新会社として再スタートする予定だ。
 この計画が順調に進むという保証はあるのだろうか。もともと同社は、2017年8月に中国のファンド会社GSRに売却することを決定した。しかし、GSRの資金調達が進まなかったことで買収延期が繰り返され、結局、18年6月末に買収がキャンセルとなる想定外の事件が起きた。エンビジョングループならば大丈夫なのだろうか? 実際に19年4月に買収が実現した姿を見ないと不確実性は否めない。
 AESCの中国ファンド系への売却にあたっては、経済産業省の中でも深刻な問題として採り上げられた。しかし、それを阻止する解決策は見出されないまま、間もなく中国系企業に手渡される。
 2019年にAESCが中国系企業に変身すれば、そこに連結されているNECエナジーデバイスも同時に中国系企業の傘下に入り、日本の電池業界からは2社がなくなることになる。そしてまた、AESCが中国にLIB工場を稼働させれば、これまた中国のローカルメーカーにとっては大きなライバルとして立ちはだかり脅威となる。
 CATLは当初から角型金属缶タイプの車載用LIBを開発し、ビジネスをしている。しかし、ほとんどのローカルメーカーのLIBはアルミパック包装材を使用するラミネート型に特化している。しかし、ラミネートタイプでグローバルビジネスを展開できている電池メーカーはLG化学とAESCの2社のみである。すなわち、200社近い中国の電池各社は、日韓のこの2社との競合を必然的に迫られる。そのような状況になれば、日韓2社との差が明確になり、ローカル各社には大きな逆風が吹くことになるだけでなく、淘汰が急速に進むことになるだろう。
 そうなれば、EVメーカーでのシナリオが崩れると同様に、中国政府が目指してきた「電池立国」にもひびが入る。もっとも中国政府にとっては、弱小のLIBメーカーは不要という割り切り感もあるかも知れない。
 このシナリオでは、中国の電池産業界は大打撃を受けることになるのだが、中国政府がそこまでは容認できないということになれば、新たな策を打ち出す可能性も否定できない。2020年からの補助金政策を新たに設け、新ホワイトリスト制度をかざして、再度、外資系電池企業を排除するシナリオのリスクはないだろうか?あるいは税金政策で、ローカルと外資に差を付けることも実行しようとすれば可能な中国である。
 仮に、中国政府が新たな政策を打ち出せば外資、特に大投資を進めている韓国勢の電池各社にとっては大打撃になる。このリスクヘッジをとっておかないと、何でもありの想定外の制度を押し付けることができる中国政策とは渡り合えないことになるだろう。

日系電池各社のありたい姿
 車載用電池では韓国がトップ3で事業集約が進行している。中国ではグローバルビジネスを展開するCATL、BYD、そして新たに加わるAESCがトップグループとしてビジネス攻防を強化する。
 その点、日本はどういう構図か? 電池各社が多いことでバラツキも多い。パナソニックは、サプライチェーンを構築しているトヨタ自動車、ホンダ、日産自動車、そしてテスラ事業で拡大を目指すことで自立化を進める。トヨタはプライムアースEVエナジー(PEVE)を子会社として運用していることから、PEVEの発展性はほぼほぼ保証されている。
 ジーエスグループはホンダとの合弁事業(ブルーエナジー:BEC)と三菱自動車の合弁事業(リチウムエナジージャパン:LEJ)ビジネスを強化できれば自立化と持続可能性はある。
 東芝は、スズキの簡易HVシステムであるエネチャージとのビジネスを拡大中だ。同社はインドでの事業を展開するために、スズキとデンソーとの3社で電池工場を建設中。ただ、フルHVやプラグインハイブリッド車(PHV)向けには、同工場で手掛けるSCiB電池では低電位(2.5V)の特性上、ビジネス構築は困難を極める。他方、蓄電池ビジネスでは電力会社等の産業用途で存在感を有している。
 日立化成の電池事業(旧新神戸電機⇒日立ビークルエナジー)は、GMへのLIB供給でビジネスを構築しているが、GMの投資計画とリンクする成長戦略が描けていない。日立グループとしては、LIB事業に対して強いマインドを有していない模様で、事業売却も視野に入れているようだ。とすれば、東芝と日立の電池事業を統合して、LIBの特性とラインナップを確保して協業することは意味がありそうだ。
 2013年1月から、筆者は電池業界再編の検討委員として関わった。ソニー、日産、NEC、AESCの統合を目指したこのプロジェクトは、ソニーのLIB事業売却撤回のあおりを受けて水泡に帰した。結果として、AESCもNECエナジーデバイスも中国企業の傘下に入る。
 日系勢としては、グローバルにかつ自立可能な路線を描き、投資力のある筋肉質電池企業となることが生き残りの条件となる。そのために日系勢としては、パナソニックグループ(PEVE含む)、ジーエスユアサグループ、東芝と日立を中心にした新会社グループの3勢力に束ねるのが得策ではないだろうか。

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