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日経ビジネスオンライン

2019/08/03

東洋経済オンライン第1回

日本の車載電池が「排ガス規制で受ける恩恵
ライバルは韓国・中国、問われる成長戦略
佐藤 登 : 名古屋大学客員教授・エスペック上席顧問
2019年05月01日

1990年9月に発効したアメリカ・カリフォルニア(CA)州ZEV(ゼロエミッション車)規制から30年近くが経過した。アメリカ・ビッグ3のGM、フォード、クライスラー、および日本ビッグ3のトヨタ、ホンダ、日産に対して、1998年からCA州での販売台数の2%を電気自動車(EV)にしなければならない取り決めだったが、次ページの図に示すように、法規内容に紆余曲折はあったものの、現在まで途絶えることなく続いてきた。

日米自動車業界を震撼させたZEV法規とCO2規制
2018年からは対象企業として、独ダイムラー、BMW、フォルクスワーゲン(VW)、韓国現代/起亜グループが追加されている。さらに同年にはEV、燃料電池車(FCV)、そしてプラグインハイブリッド車(PHEV)の組み合わせで販売台数の4.5%が要求された。その数値は段階的に拡大され、2025年には22%を実現すべく規制強化が加わる。自動車業界も売れるEVやPHEVの開発に心血を注がないと、莫大な罰金をペナルティとして科せられることになるため、生半可な対応では命取りになる。

欧州CO2規制も2021年から適用になるが、これもまた電動化を加速させなくてはならない大きな原動力となっている。ディーゼル車にこだわり続けてきた欧州自動車業界にとっては生き残りをかけた電動化戦略が余儀なくされている。2021年のCO2排出基準である95g/kmに対して、基準クリアに最も近いのはハイブリッド車(HEV)で低燃費を実現しているトヨタ(100g/kmレベルを実現中)である。一方、最も遠くに位置しているのがダイムラー、BMW、VW、いわゆるジャーマン3で、125~130g/kmとほど遠い。それだけにCO2低減に直結するEVやPHEVの大幅導入が不可欠となっている。そのCO2規制は段階的に厳しくなり、2025年には70~80g/km、30年には60g/km未満の数値まで計画されている。

一方の中国NEV規制での産業界に大きな逆風が吹いている。EV政策に莫大な補助金を投じてきた中国は、2020年に補助金に終止符を打つ。予定通り補助金が終了すれば、中国ローカルEV各社や電池各社の経営破綻は避けられない。また電池各社とつながる部材メーカーの経営悪化にもつながりかねずその影響は計り知れない。結果として、中国政府が提唱してきた「自動車強国」「エコカー戦略」も破綻することもないとは言い切れない。
    
現時点での実態は、補助金頼みで事業を展開してきたEVメーカーや電池各社には大きな衝撃が出始めている。BYDのEVバスが今年3月から5月まで生産停止になっている事情、中国第3位の車載用リチウムイオン電池(LIB)メーカーであるオプティマムナノエナジーが、昨年7月から半年間生産停止に踏み切ったと発表したものの、現在も再稼働する兆しはない。それどころか経営破綻に近い状況にあえいでいる。

電動車ビジネスの方向性で左右される戦略
一方、ZEV規制や中国NEV規制のクレジットから外されたHEVであるが、欧州や中国でも消費者の関心が高まり販売を急速に伸ばしている。消費者がEVよりもHEVの価値を理解し始めたと言えよう。クレジットは自動車業界にとっては大きな原動力であるが、消費者にとっては無関係で、自動車としての価値や魅力が購買意欲の判断材料になっている。

さて、これまで中国における各種規制と現状を概観してきたが、これから競争が激しくなるのは車載電池の分野だろう。筆者は2017年12月の『週刊東洋経済』に、パナソニックの車載電池事業の勝算について記事を書いた。そこでは、顧客として抱えるトヨタ、ホンダ、日産の電動車全カテゴリー(xEV)が拡大していけば必然的にビジネスが拡大するという肯定的な見方を示した。それから1年半ほど経過した現在、状況が変わってきている。そのパナソニックは、車載用角型LIBの事業をトヨタ自動車との協業で、合弁会社を2020年に設立することを決断した。この方向性により、今後は車載電池のサプライチェーンにも影響が出るだろう。

生き残りをかけるパナソニックの思いが表れた格好だが、とくにホンダと日産にしてみれば、トヨタ系電池会社からLIBを調達することになるわけで、そのままサプライチェーンが継続されるとは考えにくい。車載用電池の競争力と事業性は、そもそも電動車のビジネスがどうなっていくのかにかかっている。EVシフトが大きなトレンドとなってはいるものの、ハンディの多いEVが急激に増大するとは考えにくい。また、各国の発電事情によっては大気環境が改悪になる場合がある。すなわち、国や地域によって電動自動車の最適な解が異なることも事実であることを入念に勘案すべきである。

日韓中の鍔迫り合いが続く電池業界、今後の行方を占う各社の展開が日進月歩で進んでいる。投資力で存在感を示している韓国のLG化学、サムスンSDI、SKイノベーションのトップ3が欧州でのLIB生産拠点の構築と拡充に余念がない。同時に、2020年の中国政府による補助金終了に伴いフラットな市場での競争段階に入ることで中国生産拠点での回帰も進む。

ちなみに筆者は、2004年9月から2012年12月までサムスンSDIに役員として在籍し、素材開発戦略、電池研究戦略、事業拡大戦略など技術経営に携わった。その経験からみると、サムスンSDIをはじめ韓国勢は今後もスピード感をもって積極果敢な投資を続け、顧客獲得で実績につなげる展開が見込まれる。LG化学はコストリーダー(コストを積極的に下げる努力で勝負する戦略)の強みを発揮し、米欧韓の自動車各社への供給実績で特に存在感がある。

日本の電池各社にとって「追い風」
対して、補助金で圧倒的な成長を遂げてきた中国CATLやBYDはフォローの補助金がなくなることで、今後の競争力と真価が問われる。この現象は、日系電池各社にとっても追い風となりそうだ。中国に投資ができていないGSユアサコーポレーションではあるが、2009年にホンダとの合弁で事業展開しているブルーエナジー(BEC)、また2007年に三菱商事および三菱自動車との合弁でLIB事業を展開しているリチウムエナジージャパン(LEJ)を、ホンダと三菱自動車の電動車拡大戦略と強くリンクさせていくことで成長は期待できる。

東芝は耐久性に優れたSCiBを基盤に、スズキのマイルドHEVであるエネチャージのヒットで成長を遂げている。フルハイブリッド車やEVには適用しづらい同電池ではあるが、現在、東芝―スズキ―デンソーとの協業によりインドでのSCiB生産拠点を構えることで路線拡大に打って出ている。

日立グループの車載電池事業を担うビークルエナジージャパン(本年3月29日に名称変更)は、HEV用の出力型LIB事業に特化するビジネスモデルを固めた。これまでGMや日産へのLIB供給で事業を存続させてきたが、今回の出力特化型のLIBを進化させることで存在感が増す可能性がある。パナソニックがトヨタ主導の角型LIB事業に進むことで、トヨタ系以外の自動車各社へのビジネスを拡大できる機会が訪れるように映る。


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