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日経ビジネスオンライン

2019/08/04

東洋経済オンライン第2回

日本の車載電池メーカーは世界市場で勝てるか
韓国勢の投資額が突出、カギはコスト低減
佐藤 登 : 名古屋大学客員教授・エスペック上席顧問
2019年06月04日

国内、海外の自動車メーカーがこぞって次世代車開発に進む中で欠かせないのが動力源となる車載電池だ。とくにリチウムイオン電池(LIB)は身近なところではノートPCやスマホやタブレット、デジタルカメラ、そして電動工具などのモバイル機器に搭載されており、その用途は限りなく広い。

世界的に存在感が大きくない日本の電池メーカー
昨今の世界の車載電池市場をみると、日本勢ではパナソニック以外の存在感は大きいとは言えない。前回の原稿(日本の車載電池が「排ガス規制で受ける恩恵」)でも触れたが、GSユアサコーポレーション、ホンダとの合弁で事業展開しているブルーエナジー、三菱自動車との合弁のリチウムエナジージャパン、東芝、ビークルエナジージャパンなどは事業拡大を模索中だ。そこで求められるのがLIBの飛躍的な性能向上である。歴史を振り返ると、日本企業はその研究開発の先陣を走っていた。1980年代初頭から旭化成を中心に研究開発が進められてきた。

実用化の道筋がついた小型LIBの世界初量産は、ソニーによって1991年に実現された。以降、コンパクト性、長時間使用に耐えうるエネルギーデバイスとして、世界中のどこでも重用されている。蓄電デバイスの革新的な成果として毎年、開発者らがノーベル化学賞の候補にノミネートされている。

車載用電池の開発はかなりハードルが高い。まず環境負荷に耐えられる設計が必須だ。電動工具は別にして、一般のモバイル製品は屋内利用が主体となり、環境温度も人々が生活しやすい環境下での使用が基本となる。これに対して、車載用電池の場合には-30℃から50℃近辺の環境下にさらされることから電池に対する環境負荷はとてつもなく大きくなる。とくにLIBの場合は、低温になればなるほど電池内部にある電解液の電気伝導度が低下することで出力低下を招いてしまう。一方、高温になればなるほど、電解液の分解や劣化が促進され、寿命低下が顕著になる。

車載用電池はLIBに限らず長期使用が求められる。2010年12月に販売を開始した日産自動車の電気自動車(EV)「リーフ」は、販売累計台数でこれまで42万台を超え、世界トップを走っている。その「リーフ」でも発売当初は5年保証だったが、ようやく、8年、16万kmの保証を唱えるところまで進化を遂げてきた。その寿命を延ばすための技術開発は、正極材料、負極材料、電解液、セパレーターのいわゆる「四大部材」の研究開発のみならず、正負極活物質の粒子をつなぎ合わせるバインダー、電解液の分解を制御する添加剤など、いくつものジャンルにまたがっており実用化までかなりの時間を要する。

前述した温度環境に対するタフさも同様に求められる。材料の耐久性開発のみならず、電池の冷却システムも必要となる。電池パックシステム開発に関わる自動車メーカーにとって、いかに効率の良いシステムを設計開発できるかが自動車メーカーの付加価値となる(大半の自動車メーカーは自社で冷却システムを開発している)。アメリカ・テスラ社のEV「モデルS」や「モデルX」「モデル3」ではモバイル用LIBを搭載する設計開発となっている。ただし、この場合、耐久性は車載専用に開発されているLIBと比較すると寿命確保の点で劣っており、途中でのLIB交換も必要となるケースが生じてくる。

課題は電池の安全性確保
EVベンチャーは別にして、世界の大手ブランド自動車メーカーが、このような小型モバイル用途のLIBを搭載するビジネスモデルをとる気配はない。むしろ、専用開発で差別化、付加価値を追求する路線を拡大中だ。また、安全性の確保も課題になっている。モバイル用LIB対して、20~30倍ほどの容量があるEV用LIB(50~100Ah)では、充放電時に伴う電池の膨張収縮(リチウムイオンが充電時には負極へ、放電時には正極に移動する。充電時に負極側で膨張することにより電池セルが膨張しやすくなる現象)も大きくなる。同時に、電池の発熱も大きくなることで、熱暴走を起こしやすくなる条件が増える。ましてや、充放電の制御機構が故障すれば危険性は一段と増す。

中国市場では、中国メーカーEVの火災事故が多発している。他には2019年4月に、テスラが上海で停止中に爆発火災事故を起こしている。2013年から続いているテスラの火災事故であるが、結局、テスラのEV開発も、入念なLIB制御やEV制御ができていないことを証明している格好だ。しかし、これまでの火災事故の詳細な原因が明らかにされていないことは、製造物責任を果たしているとは言えない。

その点、日系のEVやハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、そしてトヨタとホンダが市販している燃料電池車(FCV)のいずれにおいても、公道での火災事故は1件も発生していない。それは、開発段階からLIBの信頼性を確立し、自動車の電動化における統合制御で確かな安全性制御技術の開発を最優先しているからにほかならない。LIBの開発要件や基準も各社まちまちな中、中国のEVやEVバス、そしてテスラのEVに偏在する火災事故に対しては、安全性と信頼性を担保できる技術開発が早急に求められている。

中国は独自に安全性の規格を導入
2016年7月には、ドイツ発で車載用電池の安全性に関する国連規則、ECE R-100.02 Part2(電池パックに対して過充電、過放電、圧壊、外部短絡などの9項目にわたる安全性評価試験)が発効した。この認証を取得しないと電動車(xEV)の販売に制限がかかる内容である。一方、中国はこのECE国連規則をベンチマークにして中国独自のGB規格(ECE国連規則の試験条件を中国流に改訂したもの。条件的には緩やかにしている)を導入しているが、国連規則とは異なり法的拘束力がないガイドラインである。

筆者は現在、各社が製造するLIBの安全性を検証する事業に関わっているが、自動車各社と電池各社の電池構造設計、および安全機構設計とその基準が個社単位で異なり、安全性試験評価結果にも差が生じていることに懸念を抱いている。それが引いては国際競争力に直結する問題だからだ。

世界の自動車各社から見れば、車載用LIBのサプライチェーンは極めて大きなカギを握る。その決め手となる要素は、従来からの性能、安全性は言うまでもない。さらには電池各社の生産能力向上のための投資力とコスト低減に注目が集まる。海外勢をみると、韓国のLG化学、サムスンSDI、そしてSKイノベーションが各グループ財閥の成長事業の一環として大規模投資を惜しまない。各社は韓国国内の主要拠点以外に、中国と欧州に大投資を図っている。LG化学は第1期で400億円規模の投資をしたポーランドの生産工場が稼働済み、さらに生産能力向上のために第2期工事も推進中だ。サムスンSDIはハンガリーに400憶円規模の投資で工場を建設中で間もなく稼働する予定。SKイノベーションもハンガリーに850憶円規模の投資を行い、2020年の稼働を目指している。

コスト低減への対応で起きる「二極化」
同時に、各社は既存の中国生産拠点を拡張することで動き出し、韓国勢の間で投資競争が活発だ。中国CATLもドイツへの生産拠点の構築を推進している中、欧州市場は韓中勢が欧州自動車各社を包囲している格好で、日系勢は蚊帳の外という勢力図ができつつある。

コスト低減を主導する大きな要素は、何といっても欧米勢の自動車各社が電池業界に提示する「圧力」である。車載用LIBに対するコストは、単セルではなく電池パック基準として現状はおおむね250~150ドル/kWh(自動車各社と電池各社の個別交渉なので幅は広い)、2025年までの近い将来に100ドル/kWhを提示する議論が国際会議や個別交渉の中で数値目標としてすでに出ている。モバイル用LIBと同等、もしくはそれ以下のコスト指標になるのだが、あまりにも難度が高いと言わざるをえない。
しかし、こうした厳しいコスト目標でもどこかの電池メーカーが実現すれば、その数値が業界水準となることから、その目標に邁進して実現しようとする電池メーカーと、コスト低減に対して置き去りになる電池メーカーの二極化が起こるものと予想される。

前者の電池メーカーの代表は、LG化学とCATLであるが、中国政府の補助金制度が2020年で撤廃させることで、フラットな開発環境下でCATLが対応できるのか真価が問われるところである。一方では、価格競争はしないというパナソニックを代表とする日系勢は、グローバルビジネスでどこまで闘えるのかが今後の大きな課題といえよう。

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